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ただの無双に価値はなく客もいない

おはようございます!

KURAです。

間空きましたね。



「……来ないな」


「そりゃあんだけ捕まえればね」


鎖鬼の愚痴にも近いそのぼやきに脳裏が言い返す。

その返事には半分ほどの呆れが含まれていた。

鎖鬼は椅子に座りだるそうに頬杖をついている。

彼らが毎夜毎夜屍の山を作り上げる事三日目。

もはやこの博物館に入ろうとするのはそれこそネズミかゴキブリと言ったところではないか。


「そういうな。明日で契約は終わりだろ?」


「まぁ、そうだけどよー」


銀城は本を読んでいた視線を上げて鎖鬼の方へと向けた。

鎖鬼リラックスした様子でソファに腰掛けている。


鴉はソファーに横になり静かに寝息をたてている。

彼らのように無駄に話す気はないという意思表明にも近いのかもしれない。

彼はお喋り等というものにあまり価値を見出さないのだから。


「……ま、侵入者が来ようと俺はそこのアホみてぇに拷問趣味は持ってねぇから暇なんだがな」


「丁度良かった。暇だから目の前の手頃な肉塊で遊ぼうかな」


「やってみろよ」


「いいね。やろうか」


暇のあまり鎖鬼が脳裏へと喧嘩をしかけた。

そんな学生の小競り合いのように修羅場は始まった。

鎖鬼と脳裏も本物の殺気を出している。

鎖鬼はいつでも脳裏に攻撃できる姿勢であるし、脳裏は右手は懐の拳銃へ、左手はポケットに入っているガス性の毒を撒き散らす準備ができている。


「やめろよ。やるなら明後日辺りにやってくれ」


たまらず銀城は止めに入る。

その顔は嫌そうな顔でしっしっと手を振った。他でやってくれという事だろう。

面倒な事が起きたとでも思っているのではないだろうか。


「おいおい、正義の味方は止めるもんじゃねぇの?」


「……?」


素っ頓狂な事を言われたかの様に銀城は呆けた顔をしている。


「悪が潰しあうのを何故止めなきゃいけないんだ?」


「そーかよ」


「あっはは、鎖鬼ったら何も言えなくなってやーんの」


「……うるせぇ」


鎖鬼は言い返す事が出来ずにもどかしそうに顔を顰めている。

脳裏はそんな鎖鬼を見て手を叩いて爆笑している。

思わず銀城はため息をついた。

その日はそのまま四人に暇という毒を流し込み終わっていくのだった。




「ありがとうございました。素晴らしいお仕事で!」


「あっそ。んで?」


「後日入金させて戴きます」


「オッケー」


館長の藁辺田は四人の待機室へと足を運んでいた。

それは今日で満了となる契約の報酬について話をするためだった。

大事なお金の話というのに話し相手である脳裏は一欠片も興味がなさそうに答える。


「銀城様にも必ず入金させて戴きますのでご安心を」


「……んー、うん」


銀城は何かが気になる様子である。

館長の言葉にも聞いてはいるだろうし、返事もちゃんとはしているのだが、他の事に集中している様子。

銀城の視線の先は鎖鬼達他の三人がいた。

嵐を予感する船乗りのような何処か悲壮感を漂わせながらも険しい顔を浮かべていた。


「はて? 何かお気になる事が?」


「いんや。なんも?」


「は、はあ」


そう言われた館長はどうも納得いかない様子ではあるが他に予定があるのだろう。

緊張からの冷や汗をハンカチで拭きながら席を立った。


「では、皆さま。お疲れ様でございました」


「かーんちょ。待ってよ」


それを脳裏が呼び止めた。

ビクリと体を震わせ館長は口を開く。

館長の周りの護衛にも緊張がはしる。


「は、はい。なんでしょう……?」


「まーだ依頼終わってないんじゃないかなぁ?」


「い、いえ! もはや予告を出していた襲撃者は捕まっておりますし、他の危険人物も山ほど捕まえて貰いましたからもはや危険性は少ないかと」


「あ、そ」


脳裏はそう呟いた。

なんの感情が映ることのない声色で。


「……じゃあさ、僕達は、もう、終わりだね?」


「は、は」


脳裏はそう区切って強調するように言い放った。

そして館長からは見えた。目の前の男の口が怪しく裂けて笑いに満ちた顔に変化していくのが。

三人を注視していた銀城には見えた。

三人の顔が館長が答えようとした瞬間悪魔の様に歪んでいたのが。


「やめろっ!」


銀城が弩で打たれた矢のように座っていたソファから飛び起きると館長と脳裏の間に立ちはだかった。

右手を握った状態で突き出しており、そこからは白い煙があがっている。

それを見た脳裏は目を見開いて乾いた笑いが口の端から漏れ出ている。


「……うそーん。君ホントに人間?」


「コレは一体全体何のつもりだ」


「んー、逆に聞くけどさ。どういうつもりと思う?」


「知るか。悪党の気持ちなぞ知りたくもない」


「じゃあ後学のために教えてあげよう。た、だ、の、暇つぶし、かな?」


「そうかよ」


鬼のような形相でそう吐き捨てた銀城。

親、親友の仇でも見ているかの様に睨みつけている。

脳裏のいつもの人のいいあの顔は何処へやら。

ニヤニヤと人をバカにしたような顔で彼は銀城をみている。

凄まじい睨みもなんのその、そよ風を受けているかの様に受け流している。


「さて、ここからどうするんだい? 正義の味方サン」


「俺らと戦って……無様に死ぬか? それとも、逃げんのか?」


「死ね」


鎖鬼は怪しく口を歪ませてかばねの山から人を見下ろすように銀城を見下している。

銀城の眉間に皺が寄る。

消えぬシワになるのではないかというほど深く。

答えの決まった問いを彼は迫られる。


鴉は凍っていて、それでいて全てを侮辱しているかのような笑顔で彼を見ている。

彼は鴉を見て気付くだろう。鴉は己を見ていない事を。


「全員素敵な笑顔な事なことで。本気でやる気か? 今やっても金にならねぇぞ」


正義とは血が流れない事だ。


「そうだね」



「デメリットしかない事に気づかないのか?」


正義とは戦わない事だ。


「そうだなぁ」



「考えて直せよ」


正義とは人を助ける事だ。


「黙れよ三流」


されども悲しきかな。悪にそんなの関係ない。

関係ないから悪なのだ。

ましてやこの三人組に道理なぞ存在しない。


「っ!」


銀城の後ろにいる館長、並びにその護衛の首の肉が弾けた。

彼の背中にべったりと血が飛び散る。

まるでヒーローに助けを乞うように。


「あぁ、そうかい。そうかい、そうかい。そうだよなぁ、そんな、英雄()になれないって分かってたんだよなぁ……。わかってんだよ、なぁ」


血を流さず輝かしい終わりへと向かっていけるあの眩しいほどの英雄へなれないと男は知っていた。

あんなものは夢物語だと、現実でやったところで結局誰かからその輝かしい終わりは踏み躙られるのだと男は知っていた。

全てへ手を差し伸べられる最高のヒーローになんてなれていない事を男は知っていた。


「……だから嫌なんだよ。クソ悪党共」


銀城は自らのうなじへと手を伸ばす。

そこで何かを掴むとそのままソレを引き抜いた。

己の弱さを振り切るように。己の迷いを断つように。


「正義……執行」


銀城の体が銀に包まれる。

銀の光が冷たく部屋を照らしていく。

ソレはまさに銀城の正義の具現。

冷き刃の色。善くあれない愚か者の色。

それを飲み干して彼は顕現する。


『Dust to dust.I trust you to be dust!』


電子音が流れる。

まさしくヒーローの変身、そして現れる銀色のヒーロー。

いつもの明るい銀色ではない。

鉄にも似た冷たい光。

ポーズ等はない。腰にある武器を持ち、構える。

ヒーローになれなかった男は悲しく呟く。


「今からお前らを、殺す(・・)


シルバーマン、参上。

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