道化を真顔にさせるエンターテイメント
お久しぶりです……。
すみません、ほんっとすみません。
遅れました。
「……さて、準備をしないと」
ある男が薄暗いスタジオで座っている。
能でもするかのような顔をしている男はそっと言い聞かせるように呟いた。
キョロキョロと見回す。
「……ってあれ? スタッフー?」
ガランとしたスタジオに男の声が響く。
首を傾げ、立ち上がろうとすると
「立てない……?」
カッとスタジオのライトが煌めき男の座っている椅子を光らせる。
今度は大きな声が響く。
「レディースアーンドジェントルメーンアーンドクラウーンズ、楽しめよ?」
声の主は男からすると見覚えのある男であり、鎖鬼だ。
手を広げ、ニヤリと笑っている。
「……何かな?」
今先の顔とは違い笑っている男はそう言った。
すると鎖鬼は笑みを深くして。
「どうした? 笑顔がひきつってるぜ?」
「……っ! 気のせいじゃないかな?」
「キハッ! ならいいや。さて、もう一人キャストを紹介しようか!」
またライトがカッと煌めきある男の足元が照らされる。
ロングコートを着こなしニヒルに笑う脳裏の足元を。
「やぁ、ピエロクン。元気? 随分眠ってたみたいだけど、疲れてんの?」
「そうだよ? お陰さまでね? 現在進行形で疲れるよ」
「ノンノン! 道化ならおどけてみせなよ」
また男の顔がほんの少し歪む。
この男はピロンなのだがあのデパートでの余裕は何処へやら、二人においつめられているのである。
「さて、今回のショーは我々による盛大なネタバラシだ」
誰も居ないはずの観客席から声援がわーわーと聞こえる。
ピロンはキョロキョロと目を盛大に泳がせ、何かを探しているのか、それとも頭を必死に回しているのか知らないが、少し余裕が無さそうだ。
「さて、クエスチョン1! 僕が何故このサーカスのターゲットになったのか! それはそれは悲しい事件が背景にあったのでした!」
大袈裟に体を動かせ、豊富に効果音を使う様はまさにコメディアン。
または誰かを煽る外道のよう。
「HEY脳裏! 一体全体それはなんだってんだい?」
「それはね鎖鬼、僕がある依頼を受けたことが始まりなのさ!」
「なんだって!?」
C級、いやD級と呼ぶのがふさわしいのではないかと思われるくらいの茶番である。
やたらめったら動きを大きくし、効果音も多過ぎてうるさく安っぽい。
「大雨のなか僕はある男の頭を咲かせたんだ……。だが悲劇はこれで終わらない……この男には妻がいたんだ。その妻は当然僕を恨んだ。当然さぁ! しょうがない。けれど恨み涙を流す彼女の肩をそっと叩く男がいた」
「それは……?」
「ピロン! 君だ!」
ババーンと効果音が鳴り、脳裏は照らされているピロンを指さ した。
ピロンは器用にも笑顔のままため息をはいて、こう言った。
「アホらしいね。 三流以下じゃない?」
「奴め、話をそらしてやがりますぜ旦那」
「そう……みたいだね……。僕は刺されたって言うのに。フィクサーは僕だって言うのかい? 諸悪の根元は僕だって? ふざけるなよ。ふざけるな! 全て君がやったことじゃないか! 依頼も! 男を嵌めたのも! 復讐の道へ誘ったのも! 全部!」
「それがどうしたって言うんだい?」
「君の人生の幕を閉じるだけさ。黒幕だけに」
スタジオが静寂へと戻った。
「いや、なんでだよ!」
「いやー、さすがの俺も擁護できねぇわ」
「なんでだよ!」
それまでほとんど静かにしていたピロンがピクピクと動いている。
すると立ち上がって走って何処かへ行ってしまった。
「あぁ、やっとか」
「意外と堪忍袋の緒が丈夫だったな」
そう二人が談笑していると叫び声が響いた。
そうして姿を表したのは
「てめぇら! エンターテイメントを舐めるのもいい加減にしやがれ! ぜってぇぶっ殺してやらぁ!」
それはそれは憤怒に顔を染めて無数の人形を引き連れ、銃を持つピロンであった。




