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8/11

その日 2

 目を覚ました。


 目を覚ました?


 それじゃあここはあれか。天国か地獄か。輪廻転生か。極楽浄土か。

 夢を見ていたというのが一番濃厚な線だが、どうだろうか。

 いづれにしても天寿を全うするにはまだ早すぎる。

 俺は死んだんじゃない、殺されたのだ。

 

 刺されたナイフの感触を思い出しながら、ゆっくりと立ち上がる。そしてここが天国でも地獄でもなければ夢を見ていたわけでもない。それが現実なのだと理解する。


 夕暮れ。校舎の屋上。血まみれの服と床。


 これが全部自分の体から出たのだと思うといっそ感動すら覚える。まるでマジックだ。口からガーランドを出すみたく、脇腹からどぴゅっと血を噴き出します。

 もちろん笑えない。


 ナイフで刺され、抉られた傷口を見る。否、傷口というのは正しくない。そこに傷口などないのだから。

 まるで何事もなかったかのように、ナイフで刺された痕跡が消えている。そこまで驚きはなかった。白の魔術のプロフェッショナルなら腕だって生やすことができる。

 問題は「誰がやったか」だ。


 周りを見るが、誰かいるはずもなし。それはそうだ。こんな血だらけの人間を治せるほどの魔術師が、偶然こんな場所に訪れるとは思えない。もっと言えば、あの黒服を撃退してほぼ死にかけの俺を治癒するなど不可能と言ってもいい。

 それに。

 俺は思う。ナイフに刺されて意識を失ったとき、俺は死んだんじゃないか?

 生きてる人間が死を理解できるはずがない。だからこれは直感だ。そして俺が生きているという矛盾……。


 カツン、と。階段を上る足音。俺が生きていると気づいて、あの黒服が殺しに来たんじゃないだろうな……。


 足音がやんでドアノブが回される。と、ガチャンとドアノブだけが音を立てる。

 茶の魔術でドアを壁とつなげた。その間にドアから十分距離を取る。小手先だが、これで様子を見る。


 ドアノブは二、三度と回され、次にドンドンとドアが叩かれた。


「清掃員ですが、どなたかいらっしゃいますか?」


 嘘かどうかも分からない。

 ただ屋上は使われていない割に、汚れているということはなかった。絶対清掃員ではないとは言い切れない。

 加えて黒服は学校の屋上で人殺しをするようなやつだ。わざわざ嘘をついて扉を開けさせるなんて遠回しな手より、魔術で扉を壊すくらいやりそうな気がする。もっとも黒服が魔術師という保証はないので、これも確実とはいいがたいが。


 居留守を使うのが無難なようにも見えるが、もし相手が本物の清掃員であったなら、職員室に何かしらの連絡がいくかもしれない。それはよくない。あまりこの辺りを嗅ぎまわられては困るんだよ。間違っても教師の監視下に置かれるわけにはいかない。


 そんなことになれば、あの黒服を探しにくくなる。


 俺は言った。


「すいません。ちょっと魔術の練習に使っていて。あまり人目に見られたくなかったので」


「ああ、学校の生徒さんね。分かるよ。魔術師に秘密はつきものだからねぇ。分かった、私は何も見ていない。それでいいね?」


「助かります」


「あまり遅くならないようにね」


 かつん、かつんと足音が遠ざかっていく。時計を見る。時刻は十七時十分。たかだか十分程度で殺した人間の様子を見に来るとは思えない。それに清掃員の真似というのも、黒服の人物像からズレる。憶測ではあるが、おそらく今のは清掃員で間違いない。


 さて、とりあえずはこの状況だ。

 血まみれの床を茶の魔術で作り変える。一回地面を崩して再度構築する。……今ほど魔術を知っていて良かったと思ったことはないな。


 問題はこの血だらけの服。石の床と違って服を作り変えるほどそれと代わる繊維がない。まだ黒のズボンは色が誤魔化せるにしても、白シャツはどうしようもなかった。

 だからといって上半身裸で校舎を歩いたらそれこそ血まみれ以上に目立つ。

 ……仕方ない。




 黒の魔術・気配遮断を使いながら、それでも人目を気にしつつ校内を歩く。一介の生徒や先生ならなんとか誤魔化せるが、ここはセントラル一の魔術学校。目の利く人であればすぐに看破されてしまうし、俺はそういう人を何人か知っている。

 幸い、放課後の校舎に人は多くなかった。無事教室まで着いたところで、目につくロッカーを漁る。機転の利くクラスメイトから代えの運動着を失敬してシャツとズボンを巾着袋にしまう。それを鞄に突っ込んで学校を出た。


 なぜ俺が殺されかけたのか。考えても分からない。だからといってこのままというわけにもいかない。もし殺したはずの人間が生きていたなら、もう一度殺そうとする可能性は高い。


 しかし、なにができるというのか。黒服の性別、年齢、素性、どれも分からない。仮に見つけても返り討ちに合うかもしれない。警察に相談……脇腹の傷がなければ何が起こったか説明しようがない。過程はどうあれ、俺の傷がなくなったことで現状は何も起きていないのと同じになってしまっている。


 シャツについた血は? 鑑定してもらえば俺の血と分かるかもしれないが、それが分かったところでどうなる。警察の監視下に入れば俺の身は守れるかもしれないが、同時に自由に動けなくなる。それでいいのかどうか、今決断を下すのは早計か。


 碌に考えがまとまらない。情報が少なすぎる。とはいえ、黒服がいつ殺しに来てもおかしくない現状であまりのんびりもしていられない。


 頭が痛い。できるだけ人通りの多いメインストリートを歩いていると、パトカーのサイレンが近くで止まったのに気づく。近年の自動車普及に伴いセントラルもパトカーを導入するようになったが、まだ騎馬警察も少なくない中でその赤く光るランプは目をひいた。人の流れが自然とできて、野次馬がなんだなんだと押し寄せている。

 ちょうど道の分かれ目で、俺もそれに倣った。今は一人で下宿に帰るより、人に紛れていたかったから。


 既に警察がバリケードテープを張り終えた後で、ブルーシートで狭いストリート口を隠しているので何も分からない。ただ現場にいる警察の数が数なだけに、何か大事があったことは推測できる。


「なにかあったんですか?」


 てきとうな野次馬の女性を捕まえて聞くと、「ええっと、そうねぇ」と言いづらそうに前置いてから、


「殺人事件らしいわ。こんな時間にこんな場所でなんて……」


 タイムリーな話題だった。さっき俺が死んで、それと近い時間に近い場所で人が死んだ。偶然とは思い難いが、関連付ける根拠がない。


 辺りを見渡すが、当然黒服はいない。


「それは、物騒ですね」


「ええ。まだ犯人は捕まってないらしいから、気を付けないと……」


 女性はまだ何か言いそうだが、それどころではない。黒服がこの近辺にいるならここから距離を取らないと……。

 セントラルストリートから下宿に戻るまでそう時間はかからない。さっさと帰ろうとしたところ、女性は慌てて付け加えるように言った。


「亡くなった子、学生だったそうよ。この辺りで学校って言えばセントラルだから……ほんとに気をつけなさいね」


 近い時間に、近い場所で、同じ学校の学生が殺された?


 遠くで聞こえるサイレンがやけに煩かった。三台来ていたパトカーのうち一台もどこかへ向かう。素人目でも、現場はバタついてるように見えた。

 なぜか。俺の足はそちらへと向かっていた。テープをまたいで一直線にブルーシートへ向かい、それをくぐる。


 警官がなにやら怒鳴っている。腕を強くつかまれた。だがそれ以上に、目の前の景色が強烈で、何も頭に入ってこない。


「──」


 血まみれの地面にオスカー・グレンデルが横たわっていた。





 下宿に戻ってから一度目の電話は、担任からの安否確認だった。平気な顔で「家にいますが、どうかなさったんですか?」と問うと、殺人事件が起きた上にまだ犯人は捕まってないという。要警戒されたし。なお明日の授業およびその他学内での活動は全て休校とする。外出も極力控えるようにとお達しがあった。


 情報はラジオでも出回っている。明日のニュース紙面は「セントラル謎の同時殺人」で決まりだそうだ。


 同時殺人。


 現在確認されているのは十八名。十八名が本日午後十七時のタイミングで殺害されている。殺人集団がセントラルに潜伏しており今もなお警察から身を潜めている。


 なお、死亡者の情報は開示されていない。


 ただ、そのうちの一人がオスカーであることは確かなのだ。


「……………」


 自分が思っていた以上に、知り合いが死んだということが、自分の感情を動かしている。

 間違いなく、それは自分が死んだ時よりも大きなものだった。

 オスカーが死んだ。一緒にハンバーガーを食べて童話の魔術師に憧れていると恥ずかしがっていたオスカーが死んだ。

 こんなにもあっさりと死ぬものなのか。十五年生きた彼の人生がこんなにもあっさりと。


 もう体が動かないのだと、それは眠っているのとは確実に違うと直感で確信した。

 それが今日、少なくとも十八回起きた。それがとても狂っていることだと、俺は確実に理解できている。


 ジリリン、ジリリンと電話が鳴った。二度目の電話はレンジからだった。


『イチローっ、今日のニュースは知ってるよね……うん。それで、落ち着いて聞いてほしいんだけど……その被害者のリストのなかに、お、オスカー、がっ……』


 鳴き声が聞こえずとも、その沈黙がレンジの感情を語る。

 ああ、分かるよ。

 それだけ言ってレンジが落ち着くまで待った。


「情報、早いんだな。まだ被害者の名前公表されてないだろ」


『いろいろと理由があってね……。うちは顔が広いから、それで……。イチローは、その、知ってたの? オスカーのこと……』


「……帰る途中で見た(・・)んだ」


『っ! それって…………やっぱイチローは強いね』


「薄情と言わないのがおまえらしいよ」


『そんなことないよ……ぼくだって分かるから』


「そうか……」


 これから何を話すのだろう。話すことがあるから俺に電話をかけたのではないのか。あるいは俺に訃報を知らせるために? 


 きっとレンジは誰かと話したかったのだと思う。同情ではなく気持ちを分かち合ってくれる相手に。それが俺だったのなら光栄だ。


 そしてそんなレンジにだからこそ話せることがある。一人で抱えるつもりだったことで、まだ考えもまとまってないことで、しかし、口は勝手にその間を埋めるように開いていた。


「もし、俺がオスカーを殺したやつを殺すと言ったら笑うか?」


 レンジは言い切る。


『笑わない』


「じゃあ、明日の十三時。セントラルステーションで会おう」


『うん。分かった。それじゃあ、』


 それだけ言って、




 次の日、俺とレンジはセントラルステーションで待ち合わせた。

 Tシャツや半パンツの恰好に、眼鏡、肩にトートバッグ。私服に少し変装してくるよう伝えていたので、心構えていたおかげか先に見つけられた。ちなみに俺の恰好は伝えていない。

 わざわざ近づいても気が付いてないようなので、肩を叩いて声をかける。


「え……あ、イチロー?」


「他に誰がいる」


「だって。それわかりにくいよ」


 まあ、そのつもりで着てるからな。

 運動用の長シャツ長ズボンで、帽子を深く被っている。見ようによっては怪しくも見えるだろうけど、それくらいの用心はしたくもなる。なにせ昨日殺されてるんだから。

 

 しかしこれは……


「そんなに不審か?」


「不審っていうか、まあ、ちょっとかなり怪しいとは思うケド……。帽子はとってもいいんじゃ?」


「そうする」


 帽子を脱ぐと、レンジの頬が引き攣った。


「そ、そのサングラスはどげんしたとですか……」


「ああ。変装だからな」


「変装っていうか、変質者だよぉ」


「そうか……」


「ごめんね。ほんとは見て見ぬふりをしたいんだけど、今は警察がピリピリしてるから」


「いや……」


 俺はそっとサングラスを外した。


「じゃあ、行くか」


 俺たちは今から人殺しの計画をする。


 列車に揺られて二駅でマッケンマローに向かう。レンジが言うにはマッケンマローから先は18・事件の捜索域外らしい。もっとも列車で行ける範囲じゃどこも警戒態勢ではあるみたいだけれど。

 18・事件。昨日のセントラル十八人同時殺害事件を俺たちはそう呼んでいる。なぜかって、長いから。セントラル十八人同時殺害事件。


 さすがにセントラルと比べると何枚か落ちるが、マッケンマローも都市と呼べるほどに近代化の進んだ街だ。昨日の今日でも人通りは多い。きっと誰も今日殺人犯に殺されるなんて考えてないんだろうな。そんなのは当たり前だとわかっているのに、のんきな顔で歩いているのを見ると気持ちがささくれてしまう。


「ちょっと待っててくれ」


「ん」


 露天で新聞が目についたので購入する。道を聞きたかったからだ。こういうのは恥ずかしがらずに堂々と聞けばいい。レンジを後ろに待たせて、店員にだけ聞こえる声で尋ねると、ふっくら肉づいた中年がニヤリと笑みを作る。


「いい趣味してんなぁ坊っちゃん。いいぜ、教えたる。なにせ行きつけだ」


「だと思った」


「だろう? なにせこの男前だからな」


 ガッハッハと中年オヤジが笑う。後ろを向くとレンジがキョトンと首を傾げていた。




 人気を避けるように暗い路地の方へ入っていくと街はいっそうにぎやかになった。カラフルな電子看板、チラシとシールとラクガキで装飾したような店が細かく幾つも並んでいる。


 良く言うなら派手、悪く言うならゴミ溜めだな。


 そんな軽口を言わなかったのは、ここが目的の場所だったからだ。レンジがカッと頬を染めて小声になる。


「なぜにこげな場所に……?」


 あえて問う。


「こげな場所って?」


「だから……その、え、エッチなお店ですケド……」


 よく思うのだが、レンジは歳のわりに純情すぎるところがある。それでいてこの童顔なものだから、俺はレンジが実は中学生なんじゃないかと密かに疑っている。

 そんなレンジにこれから人殺しの片棒を担がせるわけだが。大人の階段をすっ飛ばして超えてはいけない一線を超えることはさすがに申し訳ないと思ってる。


「入ってから説明する。とりあえず行くぞ」


「え、行くって……?」


「え?」


「え? え? えぇェェェ……!?!?」


 面白いやつだな。


 さすがに歓楽街の店は昼間からやっていないが、なにもバーと風俗だけが歓楽街にあるわけじゃない。

 俺たちが要があるのはラブホテルだ。この国にラブホテルがあるのかは知らなかったが、歓楽街に入った時点で幾つかそれらしい看板を見つけた。その中でも比較的きれいそうな場所に入る。レンジは一度驚いてからは終始無言で、ホテルに入った時点では白い耳が赤くなっていた。


 スタンダートの部屋はデカいベッドに机とソファがおいてある。ラブホテルの仕様なのだろうけど、ソファがひとつしかないのは頂けなかった。


「隣掛けで座るしかないか」


「……」


「なんだ、さっきから黙って」


「そりゃ黙りたくもなるよっ! なんでホテルなんかに来たのっていうかぼくたち未成年なのになんでさらりと入ってるのっ!」


「当然理由はある。殺人犯対策だ」


「……殺人犯?」


 そのワードで少し落ち着いたらしい。ただ意味が分かってないだけかもしれないが。


「深い意味はないさ。もし殺人犯が男女のカップルでなかったならラブホテルには入りにくいはずだ。実際、入ろうと思えば一人でも入れるだろうが、心理的抵抗はあるだろう。それを踏まえたうえでここが最も密会に適していると考えた」


「……あのさ、イチローってときどきバカだよね」


「理由を聞こうか」


「バカだから」


 なんだそれは。


「というか、ぼくたちも男女カップルじゃなくない?」


「実はさっきの新聞屋の親父がここのオーナーで融通してもらった」


「根回しはいいんだね……」


 実際そんな事実はないが、世の中には知らなくていいこともある。


「もう入ってしまったからにはここで話すしかないぞ」


「なんで自信満々に言うのかな……まあいいケド。ぼくも落ち着いて話せる場所なんて自宅くらいしか思いつかないし」


 さすがに自宅で人殺しの話はできない。


「ところで頼んでたものは持って来てくれてるか?」


「もちろん」


 トートバックから出した紙を受け取る。そこには人の名前と住所が記載されていた。きっちり十八人分ある。


 18・事件の被害者と殺害現場のリスト。これはまだメディアにもリークされていない情報だ。昨日の電話で注文はしたが、本当に持ってこれるか確信はなかったし、白状してしまうとあまり期待していなかった。素直に俺は感嘆した。


「家の力ってすごいんだな」


「あはは、ありがとう。……褒めてるよね?」


「そのつもりだけど」


 リストに目を通す。やはり十八人全てがセントラルで殺されている。そしてもうひとつ、そのリストからは規則性が読み取れた。


「もしかして、全員セントラル魔術学校(うち)の学生か?」


「えっ、よくわかったね?」


「歳からして高校生だしな。現場の場所から考えてその辺りの学生っていえばセントラルだろ」


 そのうちオスカーはそうだったわけだしな。


「うん、警察の人も同じこと言ってた。ドトール家が18・事件の事情を聞いているのはセントラルでも顔の利く魔術家系だからだよ。兄さ……アラン先生は学校の教員だしね」


「学校じゃないし兄さんでいいぞ?」


「ぬぐぅ、そうする」


 ドトール家。魔術家系でも名家と理解していたが、その人脈は俺の想像以上なのかもしれない。まさか警察にもコネクションがあるとは。


「捜査協力というのは今回限りのことか、それとも事件解決まで何かしらのアクションがあるのか?」


「また警察に頼まれたら協力するけど、特に協力依頼はないって。兄さん的には捜査に加わりたさそうだったけどね」


 まあそうか。協力するにしろしないにしろ、どのみち警察がどの程度まで情報をリークするかは分からないし期待薄だ。今回がラッキーだったと考えるべきか。


 性別と年齢しか載っていないこのリストから何かを読み取るのは難しい。殺人現場を脳内でマッピングしても規則性は思いつかない。

 もっともセントラル魔術学校の学生であること、これだけでも十分な繋がりではある。それだけなのか? たとえば「セントラル魔術学校を恨んでいる誰かが見せしめに学生を殺した」というのであれば理由としては十分そうな気がする。


 まだ気になることはある。レンジが何か言いたそうにしているのはたぶんそれと関係があることだ。しかし確信がない。てきとう言って外すのは俺の沽券に関わるのでなるべく避けたい道ではある。

 ……避けたい道ではあるのだが、レンジは言いづらそうに何かを考えていて要領を得ない。今更気遣いなど面倒なだけなのだが。

 仕方ない。俺は言った。


「もしかして、このリストの人間が全員ノーマンだったりするのか」


「──あぇっと、うん。大正解」


 レンジが呆れたと言うようにはぁっと溜め息をつく。心中は察っしてやる。しかしリストを見た時点で覚悟はしてほしい。もっと言えば昨日の電話で分かったと言った時点で遠慮など無用だというのに。


「もう十二分に褒めたから呆れてるんだよ?」


 なるほど?


「で、どうして分かったのさ」


「おまえの言い方が引っかかった。さっき言っただろ、『ドトール家が18・事件の事情を聞いているのはセントラルでも顔の利く魔術家系だから』だって。確かに被害者が魔術学校の生徒だとは言ったが、なんでそこで魔術家系が出てくる。それに学校の方に話を通すならドトール家じゃなくて学校に直接話を持ってくだろ。

 警察がドトール家に要があったのは、殺した側か殺された側について魔術家系となにかしらの関りがあるからだ。と、考えてたわけだけど、どうもレンジが俺に言い難そうにしてたから、逆転の発想にした。『殺された側と殺した側のどちらかがノーマンと深い関わりがある』だからこそ魔術家系の顔役に相談したんじゃないか? もし18・事件がノーマンと魔術家系のわだかまりが原因なら、面倒ごとになるだろうから」


 補足するなら、被害者の情報が未だに規制されてるのもそれが原因だと読んでいる。


「すごい、探偵になれるよ」


「褒めてるか?」


「そのつもり」


 根に持つなぁ。


 もっとも、この推理を立てたきっかけは別にある。このリストのうちで知っているのはオスカー一人だが、18・事件で殺された人間をもう一人知っている。


 俺だ。


 俺は昨日の黒服が18・事件に関係していると考えている。もし殺人犯が快楽殺人ではなくなにかしらの意図を持ってセントラル魔術学校の学生を殺したのだとしたら。俺とオスカーには殺される理由があったのではないか。


 俺とオスカーの共通項。客観的に見てまず最初に思いつくのはノーマンであることだろう。そうであれば、他の殺された人物もノーマンだったんじゃないかという仮定を立てるのはそう難しくはなかった。


 レンジが観念したように語る。


「……殺された十八人が全員ノーマンだった。約五百人の生徒が在籍してるセントラル魔術学校のうち、三分の一がノーマンなんだから、無作為に学生を殺してそれが偶然全員ノーマンだったって可能性はあると思う。でも18・事件がそんな雑なものとは思えない。もし意図的にノーマンを選んで殺したっていうなら、その犯人が魔術家系って推察をするのはおかしい話じゃないんだよね……」


 「ノーマンは魔術師として異端ですわ!」と言いながら人を殺すアディさんの図が頭に浮かぶ。すごい納得。


 しかしぼんやりと考えてた推論がここまで警察の見解と一致してるとは。いや待て、そうだとするなら……


「兄さんはこう言ってた。もし今回の事件が何の根拠もなくそういう風に広まったら……」


 俺の思考とシンクロして、レンジが最悪を言った。


「ノーマンと魔術家系の戦争になるかも」





20171210誤字修正。蘇っちゃう。

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