第77話~とある熱弁~
闇精霊について語らせようとしたらいつの間にか
4000文字になってました(汗)
なっちゃんがナナの胸で泣いてから数分も経つと落ち着いてきていた。今更ながら思うが、ナナは身長約125センチの小学生ボディ。対するなっちゃんは世間的に見て小柄ではあっても推定155センチある。そしてナナになっちゃんが抱き着いているというこの光景は些か違和感を感じるものである。なんだかしっかりした妹がお姉ちゃんの愚痴を優しく聞いてあげてる。……大体そんな感じだろうか?
「……落ち着いた。なっちゃん?」
「……はい。もう大丈夫です」
そうは言ってもナナから離れようとはしない。俺と話していた時とは印象にギャップがかなりある気がするがこれが素なのだろうか。……そういえば、ナナは精霊石から出てきた筈なわけだが何故明らかに俺より何年も生きているような言い方をするなっちゃんと長年の親友であるような接し方なのだろうか。
「ナナ……。こんな雰囲気の中悪いけど、………ぶっちゃけ何歳?」
「あ、ごめんねテオ君置いてけぼりにしちゃって。……何歳……かー。一体何歳だったかな………」
そう独り言の様にぼやくと、空いている左手を顎に添えて考え始めた。
素直に「1歳くらいかなー」とか言ってくるかと思ったのだが、返ってこなかったよ。一体何歳だ? 確か精霊は長生きだった様なことを聞いたから……100歳くらいだろうか。
「んー……、あまり詳しくは覚えてないけど大雑把に推測して多分、……4000歳かな?」
「あ、王。私もつい最近1000歳になりましたよ!」
「凄いねーなっちゃん。これで歳が私と同じ4桁に到達したね!」
褒めて褒めてと言わんばかりにナナの答えに追随して言葉を発したなっちゃん。それににこにことしながら頭を撫でるナナ。明らかにテンションが上がるなっちゃん。こいつら……見た目は十代なのに年季が滅茶苦茶入ってるじゃねえか。4000て何だよ。地球に居たら大体の歴史は実際に見ることも可能じゃねえか。
っていうか、その精霊の年齢がそんなになってるってことは、半人半霊の俺の寿命はなんなんだ?
「……俺、まだ9歳、(25歳)なんだけど。なに? 俺もそこまで生きるの? っていうか精霊に寿命ってあるの?」
「ないよー。私たちはばらばらの肉片にされるかー、魔力を根こそぎ、それこそ存在維持に必要な魔力すら奪い取られるかー、……他にもまあいくつか方法はあるけどそうやって殺されない限り生き延びるね。テオ君は人間だけど半分も精霊の体が混じってるんだから他の種族とは寿命は比べ物にならないよー。……もしかしたら寿命も私たちと同じように無くなってるのかな?」
「……洒落にならないよ。俺ってもう人間止めてたんだね」
「うん。人間止めるの早かったねー。でも、見た目の成長は気合でなんとかなるから大丈夫だよ!」
陽気に笑って頭にポスポスと手のひらを乗せてくる。
「って、それで流されて堪るか!! ――ッ!」
「だいじょうぶー? テオ君があんな無茶な動きをするから色々な所がまだ痛んでるんだよ。残像が見えかける速度を一瞬で逆方向に切り替えるんだからそんな風になって当然だよ。……今度からはもっと体に優しい動きを覚えないとね」
成長速度はどのくらいなんだ! と、言葉を言い終える前に喉に激痛とは言わないまでも痛んだお陰で途中で中断される。そして俺が喋れないのを良いことにナナが言いたい放題にグリーヴ戦での動きを批判してくる。……ストレートなのはいつもと同じか。
「そんなジト目で見ても何も変わらないんだからねー。実際にあんな動きをしたから体が戦闘の途中で動かなくなって、その結果がその左腕と右手首でしょ? まだ他にもやりようがあったと思うよ」
「じゃあ、なにさ。ナナは吸血鬼の対処法が分かるのか?」
「分かるよ。伊達に長生きはしてないからね。昔に何人かは葬ったことがあるよ」
……こいつ、俺の予想よりも凄い実力の持ち主だったのではないだろうか。
対峙してみて改めて分かることもあったが、グリーヴは中級吸血鬼だったにも拘らずあのふざけた身体能力を持っている。人の首も容易く捻じ切ることが可能だろう。しかもそれに加えて、脳を直接内部から電気で焼かれ、心臓を銀製の武器で貫いても尚、1,2分足らずで動けるレベルまで再生する最早絶望的なまでの回復力。
こんな種族ヒエラルキーの頂点にでも君臨していそうなあれを葬ったことがある、と。
それをこの居眠り精霊さんは仰りやがると。
「……どうやって?」
問題を見た瞬間に解答冊子を見た時のような気持ちに襲われるが、気にせず聞く。
解答冊子は得意気にペラペラと喋り始めた。
「それはねー、簡単なことで闇空間では私達のような闇精霊や何か闇魔法をある程度習熟した者じゃないと、正常ではいられないで徐々に黒く染まっていくのは知ってるよね?」
「ああ。だけど、外に出せばすぐに元に戻ったのには驚いた。それがどうかしたのか?」
「うん。実は吸血鬼って闇空間には対応出来ない種族なんだー。だからあいつらが突進してきたのを見計らって闇空間に放り込むの。後は入り口をしっかりと閉じてしまえばあいつらにはどうすることも出来ないからね」
「へー。そんな戦い方があったんだな。まあ俺には闇空間はまだ出せないけど。……っていうか、闇空間に入れたままだとどうなるんだ?」
これは前々から気になっていた。イルマや秋風さんを中に入れると勝手に黒く染まっていくため、急いで外に出したからすぐに元に戻ったが、あれが取り返しのつかない所まで侵食していたらどうなっていたのだろうか。
「それはね、少しずつ全身を黒で塗り潰されていって、全身が黒くなったらばらばらになって消滅するの」
「……1つの例外もなく?」
「うん。それこそ、魔王レベルだとしても何の対策も無かったら絶対にいつか、パアンって粒子レベルで分解されちゃうね」
「……まじか!? 何だよそれ! チートなんてレベルじゃッ――!!?」
あまりものチート性能につい、叫んでしまう。またもや喉が痛んで悶絶するというパターンへ。しかも今回は2人の呆れた様な視線攻撃も追加されている。
「同じことを短い時間で何度もするなんてテオ君らしくないね」
「……情けないことながら、言い返す言葉もない」
「まあいいや。テオ君のチートって言葉の意味がよく分からないけど、とりあえず闇空間の補足をしておくよ」
先程の失敗に、羞恥の所為で耳の辺りが少し熱くなるのを感じながらも無言で頷き、続きの言葉を促す。
「闇空間って中に入れて、尚且つ行動の制限も出来たら、ほぼ勝てたようなものなんだけど。実は結構脆いんだよね」
「脆い? 今まで中で遊んでたけど壊れたことはなかったよ」
「それはただ単に威力が足りなかっただけだよ。同じ場所に何度も何度も攻撃すれば脱出出来るんだよね。魔法を使わなくても出来るんだからなんとも言えないよ。しかも、光属性の攻撃をすれば、ほぼ1発で破壊出来ちゃうこともあるんだから理不尽だと思わない?」
「いや、十分闇空間も理不尽だと思う。それで、他にも欠点ってあるのか?」
少し呆れながら言うと、ナナは「やれやれ、全く分かってねえな」とでも言うような表情で首を横に振り、人差し指を俺にビシっと突きつけて言った。
「テオ君! 全く分かってないよ! 私達精霊は身体能力云々以前に、全力で……それこそ100年も鍛え続けないと人間の5年分に届かないほど筋肉の成長が遅いんだから! ここまで接近戦に向いてない種族は他にはないよ!!」
非常に熱い説明ありがとうございました。
そうか。妙に筋肉の付き方が悪いと思っていたがこれが元凶だったのか。
そして、鍛え続ければいつかはなんとかなると。……20年で人間の1年分か。
……いや、俺は半分が人間なんだから多少は筋肉の付きは早まるか?
更に、普段とは性格が真逆になっているナナの言葉は続く。
「だから私たちは精霊武器という軽い武器があったとしても、近接戦闘をすることがない! そんなことをする精霊なんて只の死にたがりだ! そこで、私となっちゃん、他数名は魔法での戦い方を全力で磨き上げた! 森に攻め込んでくる騎士と戦い、エルフと戦い、ある時にははぐれの、巨大なゴーレムやドラゴンにも挑んだ! そこで私たちの生命線となったのが魔法である!」
言葉を挟むことも出来ないままナナの熱弁は続く。
正直今までとのギャップで唖然としているのだが、思うことが1つ。
……ナナ。お前は何と戦ってるんだよ。
「騎士には甲冑の間へと魔力針を正確無比な射出で撃退し、超々高圧縮の魔力弾によりエルフの魔力壁を打ち破り、細かく振動し続ける切れ味抜群の魔力糸を自在に操り、強靭なゴーレムやドラゴンの皮膚を容易く切り裂き、体を切り取った!! 故に吸血鬼に対し、闇空間以外に有効な魔法の無いという状況を看過し難い事実である!!」
ここで、ようやくナナは大きく息を吐いて、にこりと笑った。
「……だから、闇空間の欠点を補うための方法を探さなきゃいけないんだよ。分かった?」
「モチロン。しっかりと分かったさ」
「うん。よろしい」
「……ところで、ナナが魔法に関してかなりの強者っていうのが分かったんだから、魔法を教えてくれないか? 正直、図書館の魔導書を読んでも魔力がかなり多い人向けの魔法しかなかったし、ぶっちゃけ魔力コントロールの事なんかこれっぽっちも考えていないんだよね」
「うーん。眠る時間が減っちゃうのは嫌なんだけど、テオ君が力不足でこれ以上傷ついて死んじゃうのも厄介だし……。うん、ここは安全な所だから練習に付き合ってあげるよ。目標は1歩も動かずにゴーレムを倒せるレベルね!」
「そんな無茶な……」
俺が苦笑いをし、ナナが悪代官のような嫌な笑みを浮かべていると、ナナの脇で静かになっちゃんが手を挙げていた。なんだ?
「なっちゃん。どうしたの?」
「はい、王。実はこの闇精霊の森は、つい最近安全じゃなくなったんです。むしろ征服寸前ですね」
「…………え?」
その時の俺は、事の重大差に気づかず只ナナの驚いた顔ばかりが印象に残っていた。




