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第78話~暗闇の中にて悟る~

今回も説明回。退屈な回ですかね。

 現在俺は隠れている。小さな体が全て目の前の草に隠れるよう、伏せているが気分は最低である。

ここ、闇精霊の森はやたらと力強く生い茂った木が幾重にも折り重なっているお陰で、昼夜関係なく真っ暗だ。故に日光が入らないため、地面が湿っているため、俺の体は泥まみれとなっている。

なっちゃんから借りた周囲と擬態するための黒ローブも同様の状態になっているため、非常に申し訳ない気分になる。……見た目古臭いのに肌触りが滑らかで着心地が良いので1つ貰いたいな。

 さて、思考がずれたが今は目の前の事に集中しないと。

「テオ。前方10メートル、左に15度傾いた所に無音で射出」

ナナがどうやってしているのかは分からないが頭の中に直接語りかけてきて、それに無言で頷く。そして、右手首から魔力球をいつものように出そうと思い集中して……気づいた。

手のひらから出していた物を同じように手首から出せるのか、と。

結論から言えば、出せた。魔力の調整が少し難しく、魔力球を作成するのに無駄な魔力を消費してしまうが一応出来た。

ひとまず、ナナの言われた通りの場所へと魔力球を射出。雷球が火花を散らしながら飛んで行く。目標の場所に到達すると、微かな音を立てて電気が放出される。

何故か、ナナと俺の間に微妙な雰囲気が流れる。

「……テオ」

「何?」

「音を立てちゃ駄目だって言ったよね」

「うん」

そしてナナはゆっくりと俺の肩に両手を置いて、良い顔で言う。

「しっかりと逃げられたよ」

「……まじか」

俺は、地面に崩れ落ちた。


 「あー…これで何匹目だっけ?少なくとも二桁目くらいには到達したと思うんだけど」

勿論失敗回数が。たかが、兎と嘗めちゃいけない。無駄にスペックが高いのだ。

「だいたいー…27羽かな? 流石の私も探すのには疲れてきたんだけど?」

「そんなに失敗しちゃってる? じゃあ、どんな攻撃が一番効果的かな? っていうか、今までの俺の攻撃方法で無音で更に一回で成功出来るようなのはあったっけ?」

俺の記憶だと、まず水、雷、炎の魔力球。土の魔力で地面を変化させる。カマイタチを放つ、木を作り出して操る…等々どれも発射時に音が出るものだったり、決め手に欠ける技ばかりだ。

カマイタチはやり様によっては無音で狩ることも可能なのかもしれないが、兎との間の障害物も切断して進んで行くだろうから威力的な意味でも、音の面に於いてもアウトになる可能性の方が高い。

「そのことなんだけどね。……テオ君。前から思ってたんだけど聞いていい?」

「何を言いたいのか分からないけど、……何?」

少し落ち込んだ気分のまま、ナナに促すが何故か言いにくそうに言葉をあー。だの、うー、だの口を開閉させている。一体なにを言うつもりなんだ?

「何で、闇の魔力を使わないの? ここなら上手く周囲と溶け込むし、闇属性は基本的に音が出ないんだよ?」

「……盲点だった」

「しっかりしてよ、テオ君。ボクの補助無しでも大丈夫なレベルまで強くなってもらわないと。時間は有限なんだよ?」

「分かってるよ」

そう。これは俺の修行のためというのもあるのだが、時間はそれほど無いのだ。至急片付けなければならない厄介事であり、しかもこれを放置すれば俺らまで殺されかねないという面倒くささ。

始まりはあのなっちゃんの現状説明という名の一種の死刑宣告を受けてからだった。


話はナナがなっちゃんの前から姿を消す少し前、およそ800年前から始まるから、少しどころじゃない程話は長くなった。

そこで簡単に纏めてみるとこういう話らしい。

 まず、ナナはなっちゃんの前の精霊王であり、居眠り戦乙女ヴァルキリーという渾名で呼ばれていたらしい。本人は恥ずかしそうにイヤンイヤンと体をくねらせていたが……本当は気に入っているんだろうな。そしてナナがある時上級吸血鬼との戦いに負け、精霊石となってどこかに消えてしまった。

ここで、疑問が出たから聞いてみた。何故殺されたと言っていたのに今ナナはここにいるのか、と。返ってきた言葉は、ボク達精霊王は他の格の精霊とはちょっと違って一回殺されたとしても精霊石になってまた転生することが出来るんだよ、と。はいはい。精霊王はチートなんだね。

ここで、なっちゃんの力が最も強いことになったらしく上級精霊から精霊王へと格上げされた。

そこから500年間は何事もなく自分の力を磨きながらナナを探していたが、ある時一人の上級精霊から決闘を挑まれ、負けてしまい自身も精霊石になってしまった。

その精霊は狡猾な男で、卑怯な手段をあの手この手で使いつつも闇精霊を支配していき、なっちゃんが全力で急いで、やっとこさ上級精霊になった頃には今代精霊王は取り巻きを数人引き連れて森の外へ出て行った。

この時点ではなっちゃんはいつものように、あのうざい顔をニヤつかせながら帰ってくるのだとうんざりと思っていたらしい。

しかし現実は違い、今代精霊王と思しき者しか帰ってこなかった。取り巻きは全て死に、その今代精霊王も今までのそれとはまるで違う姿となっていた。

闇精霊の特徴である、黒髪白肌に赤い目は全て無くなり、髪と肌は濁った灰色に。目は濃い紫色に染まり、額には第三の目があったらしい。

それからの今代精霊王は前からも可笑しかったが、以前にも増して様子が可笑しくなり、精霊の目を見つめるだけで精霊を虜にしていき、現在では闇精霊の森にいるなっちゃんを除く全精霊を、洗脳と言えるレベルで支配下に置いているとのことだ。


何か嫌な感じがしたなっちゃんは、とりあえず精霊の洗脳は色々やったが元に戻すのは不可能な事が分かったため、殺して魔力を貰うことにしたと。

同じ事を繰り返して2年くらい経った頃。つまり2週間前も何時も通り家の外に繰り出した所珍しく洗脳されていない精霊みたいなのが俺だったらしい。


そこからは俺らが知っていた通りの展開だったが、なっちゃんが言うには後少しすれば、精霊王がここの精霊全てを引き連れて、魔王の軍勢と共に人間達を支配下に置くために侵略しにいくらしい。要するに魔王が侵略してしまえば、この闇精霊の森に侵略しに来る敵が増えてくるから何とか頑張って阻止したいから、手伝ってね! と。

つまり、なっちゃんの言い方からすると俺、なっちゃん、ナナの3人で精霊王抹殺を遂行するということである。

だが、当面は準備に時間が掛かって、俺とナナも精霊としての格は俺が下級、ナナが中級と精霊王と戦うには心許ないレベルだそうなのでなっちゃんが準備している間に頑張って上級精霊にまで格を上げていて欲しいとのこと。時間が無いから急ぎで。


というような話があって現在、この森に生息している生き物を狩っている最中だ。

どうにもここに生きている生き物を食うと普通にここで暮らすよりも圧倒的に格が上がるらしい……のだ…………が。

ちょっと待て。……この森に生息している生き物とな?

なっちゃんの言葉をそのままの意味で受け取るならばこの森は生き物、それこそ人の形をしたものだけでなく、植物や動物さえも闇精霊で構成されているということになるはずだが。

「なあ……ナナ?」

「何? 今兎を探しているんだけどこの近くにはいないみたいだよ」

「いや、そのことなんだけどさ……今俺らが狩ろうとしている兎って、もしかして闇精霊なのか?」

「うん、そうだよ。もしかして知らなかった?」

あまりにあっけらかんとした言葉。普通の人ならば激昂してナナに掴みかかるだろう。何故、そんなに平気でいられるのか、お前は本当に人間なのか、と怒鳴りかけるだろう。

だが、そんな気は全く起きない。ああ、やっぱりそうなのか、と、何故かすんなりと受け入れることが出来てしまった。

確かに、生き残るため、魔王討伐に貢献するため、などと幾らでも言い訳をすることは出来る。だが、俺はそんな高尚な人間でもないし、正直言ってここまでボロボロになったのだからもう死んでしまっても良いのではないかとも偶に思う。

「ああ、まあね。……共食いになるけど仕様が無いか。さ、次はちゃんと狩ってみせるよ」


……俺はもう、一般人の神経とはかけ離れているのだろうな。


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