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第73話~勝利、気絶、死~

今回もグロ注意。っていうか、そろそろ「ほのぼの?」タグが詐欺に思えてきた今日この頃。

もう、この小説はほのぼの路線から大きく外れている気がします。


「っっっっつぅぁああぁ……」

右手首と左肘から感じる燃えるような痛みに思わず前のめりに倒れそうになるが、悪あがきで俺の左肘を噛み千切った後、再度気を失ったグリーヴの上に倒れ込むのは危険な気がするため、残った力を振り絞って揺れる地面を蹴り、後方に跳ぶ。しかし、着地した瞬間に目の前が揺れてバランスが取れず、みっともなく尻餅をついた。勢いで俯いた拍子に視界に入る、床に勢いよく広がっている血の水たまりと、俺の腕の悲惨な姿。

右手首は握りつぶし引きちぎられたからなのか、ウインナーの様な形になって上手く止血されている。だが左肘からは止血は一切されておらず、今も尚どばどばと血液が流れ続けている。止血しない限りこの調子だと、失血死するのは時間の問題である。

今俺の周りに味方はナナしかいないが、ナナが使える魔法は自分の実力にあった闇に準ずる魔法。つまり回復魔法は使えない。

そして、残りの今闘っている人達の中で回復魔法が自在に使えそうな人はイルマくらい。ヤタの魔力コントロールはまだ未熟すぎるから駄目だ。

だが、そのイルマもここに来る頃には俺は恐らく死んでいるだろう。

なら、自分で回復すればいいと思うが、生憎さっきグリーヴの脳に流した雷の魔力に全てを費やし、それこそ魔力が枯渇する程注ぎ込んだため一滴も残っていない。

「魔力さえ、あれば……なんとか、生き残れるん、だけどなっあぁ」

そう呟いて壁を背もたれに寄りかかる。これが本当に最後の言葉になっちまうのかなあ。とかぼんやりと思っているとグリーヴの真上からナナの鎌が落ちるように設置してもらった闇空間から小学2年生程の大きさの影がフヨフヨとこちらに向かってくる。言わずと知れたナナなのだが、いつもののんびりとした雰囲気ではなく、何か覚悟を決めたようなそんな顔をしていた。

「ナナ……。どうか、したのか…?」

喉から音を絞り出してナナに聞くが、ナナは無言のまま右手に持つ鎌で自身の左手首をばっさりと切断し、切り落とした左手を俺の口に押し込んだ。

「テオには死んで欲しくないから……それ、全部食べて。そうすればなんとかなるかも。私は死なないようにテオの中でしばらく寝ておくね。ピンチになったら呼んで。頑張って起きるから」

それだけ言ってナナは俺の腹に闇空間のような穴を開けて俺の中に入っていき、入った時特有の若干の不快感が襲う。この感覚に関してはまだいまいち慣れない。

「………」

さっきナナが話した内容を理解するのに少しの時間を要したが、その間、口の中にあるナナの左手を無意識に噛んで食べようとしていた。だが人の手、しかも仲間の物を食っているという事実に吐き気を催し、口の中の手を吐き出しそうになるが、そんな意思とは関係なく俺の口は黙々とナナの左手を飲み込める大きさになるまで噛み続ける。ナナの手は精霊というのもあるからか、非常に脆く、骨も簡単に砕ける。

いくら吐き出そうとしても出来ない。

本能が叫んでいるのだ。これを食えば生き長らえることが出来る。と……。

こんな地球よりも危険が身近にある世界じゃ、安全に生きることが難しく、偶に死んで楽になってしまおうか。と心のどこかで思ってしまうことがあった。だが、俺は毎回自殺に行動を移す事はなかった。心のどこかで死にたいと思うのと同じくらい生きたい。楽しみたい。という気持ちがあるのだ。


 必死で吐き気と戦いながらようやくナナの左手を全て飲み込んだ。

「……ぅぇ。吐きたい……っていうか水飲みたい」

血が足りなくなったお陰で霞がかった視界に、未だに痛みが弱まることを知らない両腕。このダブルパンチの所為でただでさえ気分が最低な状態だというのに、初めて人肉……いや、精霊の肉を何故か生で食べる羽目になり、吐き気も追加されトリプルパンチとなって俺に襲い掛かってくる。


「……あ? 何で……」

そこまで考えた所で不意に俺の中で不可解な事が起きていることに気づいた。

まず、枯渇していた魔力がいつのまにか3割程回復しており、自身の怪我を止血する程度なら問題無く出来る程度には魔力が回復している。そして何故か、俺の足下にはナナの使っていた漆黒の鎌と同じ形で、灰色の色違いの身の丈程の鎌が出現している。全く意味分からん。

更に1番意味が分からないのがこれだ。何故、使えるかどうかも分からず、使い方すら知らない魔法が頭の中に使い方とともに流れ込んでくる。時々俺が知っているもの、例えばナナが最近よく使っている闇空間や魔力貯蔵&吸収などが良い例だ。



…ここまで言って気づいたのだが、もしかして精霊としての格が上がって下級精霊から中級精霊となったのだろうか。ナナからの受け入りだから俺自身いまいち仕組みは理解していないのだが、前に妖精位から下級精霊に格上げされた時は何か黒いぐにょぐにょしたジェル状のモノに包まれ、それが終わると少し背が高くなった。だから今回も格上げされたなら身長が伸びるなり何かが付与されるなり何かしらの変化が訪れるはずなのだ。


だが変化は一切なく、左肘の傷が止血されるということもなかったので、仕方なく今現在1割の魔力を足から出して左肘の回復にあてている。ぶっちゃけ今まで手の平から魔力を放出していたから魔力の使用がかなり不便になったとだけ言っておこう。俺はイルマやヤタみたいに狂った魔力量はないから量にものを言わせてノーモーションで魔法は発動出来ない。これも「なんか出来たら空中も走れそうだよなあ」という妄想から始めた練習だったのだが……人生何があるか分からんな。


そして、回復し終わる間にこの俺が使った覚えの無い魔法が頭の中に流れ込んでくる理由。それが朧気に頭の中で纏まった気がした。

「もしかして……ナナの経験のフィードバックでこうなっちまったんじゃ…」

ただの妄想でしかないので答えではないと思う。まあ、ここはこれで一時解決としとこう。……ならその考えでいくと、この鎌はナナとほぼ同じものってことになるから……これは、【精霊武器】なのか……? 【精霊武器】のことなら散々ナナに力説されたからしっかりと覚えている。

試しに、足で鎌に触れて「戻れ」と念じてみる。これがもし【精霊武器】、俺の体から作られた物なら自由自在に出し入れ出来るはず。すると、鎌は俺の足下でガタガタとばたつき始め、ひとりでに空中に浮くとナナが俺の中に入った時と同じように俺に近付いていき、体に溶け込んでいった。ナナの場合は俺の中に異物に近いが心地よい何かがいるという感覚だったが、この鎌の場合は俺と同化したと言った方が適切かもしれない。

つまり、この「同化した」という時点で、これは俺専用の精霊武器と確定したという認識でいいだろう。正直この武器の存在はかなりありがたい。


何故、今まで使い慣れた剣より、一度も扱ったことのない鎌を手に入れたことの方がありがたいのか疑問に思うだろう。俺も最初はそう思った。

だが、それは人間に於いての話となる。俺らは精霊。恐らく俺が知る種族の中で1番貧弱な種族なのだ。どのくらい貧弱なのかと言えば、半分人間で一般的な精霊よりも多少は腕力がある俺が、戦い中では素の力で短剣以上の武器はまともに扱うことが出来ないことから分かってくれると思う。本当にギリギリの所で片手剣がアウトに近いセーフなのだ。まじ勘弁してくれ。

そこでこの問題を解決するのが、【精霊武器】。これは精霊である自身の肉体と魔力から生成される武器で、形状は様々だが闇の精霊は鎌、火の精霊は大剣というように大雑把なカテゴリー分けがされてあるらしい。この武器のなんとも不思議で最大の特徴は自分の武器は持っても重さが無く、自分の格と実力にあった威力を叩き出すというのに、他人がその武器を持つと、その威力に合った重さ。要するにめちゃくちゃ重くなってしまうという点にある。

つまり、ここまで説明して分かる通りこの精霊武器とは俺ら貧弱な精霊にとって特に力まずに持てて、尚且つ高威力を出せる夢のような武器なのだ。……まあ、俺の場合鎌を振る両手が消滅したため、何かの奇跡が起きて生えてこない限り無用の長物となるのだが。

嗚呼……これからどうやって生活していこう、俺。もう、イルマとヤタに元の世界に帰る方法を探すのは任せて、俺は家に帰って養生しようかな。……っあ、でもこの容姿で俺のこと息子だって理解してくれるだろうか。


 そこまで考えた所で両手を失ってしまったことに恨めしさを覚え、溜め息を吐くと、今まで壁となっており、おっちゃんとルーティアさん、イルマとヤタの安否を確認することを妨害していた黒ドームが崩壊した。そして、サウナに入った時のような熱風が俺の肌に纏わりつく。

その壁は拳程の穴を無数に開けて崩壊し、俺の視界に入った黒ドームの中の光景は想像を絶するものだった。


 置物といえる置物は全て灰と化し、最初に見た豪華な額縁や赤い絨毯は見る影もなく焼き払われ、グレーの床と壁はその余熱の所為かオレンジ色になり、そこに踏み入れればまず火傷は免れぬような空間と変貌していた。

そんな地獄の様な空間に立っているものは2人。おっちゃんとワグナ・グリモールだ。ルーティアさんは青白い光を放って壁にもたれて座っており、そこからは水蒸気が絶えず発生している。……彼女の右腕はこの空間の惨状を見るからに魔法で焼かれたのか、消滅している。肩から覗く凄まじい傷跡は痛々しいものだが、不幸中の幸いと言うべきか、焼かれてしまったことで血が流れ出ることはなかったようだ。

そして、おっちゃんとワグナ・グリモールは最早取り返しのつかない状況になっている。


 2人とも既に満身創痍な状態で最早生き残ることは不可能なように思えるほどぼろぼろいなっている。おっちゃんはいたる部位に火傷を負っているが特に酷い部位は腹と右足、それに目だ。腹は焼き焦がされ骨が見えており、背骨のみで上半身と下半身をかろうじて繋いでおり、左目がある周囲には黒くこげた何かが存在するのみとなっていて、右足も太股を大きく抉り、焼かれて明らかに生きている方がおかしい状態となっている。

だが、それでもおっちゃんは生きている。その証拠におっちゃんは今も尚、緩慢とした動きで、それでも確固たる意志を持ってワグナ・グリモールの体を貫いた右手が持っている1つのモノを握り潰そうと徐々に力を篭めているのが見てとれる。

 

対する、ワグナ・グリモールの姿は外見こそ出会った当初の形を保っているものの、4つの場所に大きな風穴を開けており、人間が必ず持っているモノが体内から全て取り出されている。1つは地面に転がっており、余熱で焼かれていても尚ドクドクと除々にゆったりとなりながらも脈打っていたが、今まさに動きが止まった。1つはおっちゃんが先程まで使っていたと思われる地面に転がっている槍の先端に刺さっていて、既に血が全て流れ終わったのか活動を停止させていた。そして残りの2つはおっちゃんの右手と左手、両方に1つずつ収まっており左手の中のモノは既に握り潰され、右手の中のモノも後ほんの数秒あれば破壊されそうである。

……俺には何故、俺たちには1つしか無い心臓をあいつは4つも持っているのか分からないし、あんなに真っ黒な心臓や真っ赤な心臓なんて見たことがない。


俺が目の前の光景にただ呆然としていると、ワグナ・グリモールが心底忌々しそうにおっちゃんを睨みながら、呟いた言葉が偶々耳に届いた。

「全く……何て方なんでしょうか、この人は。そこの娘を守るために私の炎に全身を焼かれ、最早意識も飛んでいるでしょうに……。私の心臓を4つ全て的確に抉り取り、尚且つそれを潰さない限り生き永らえることをまさか人間が知っているとは、その博識ぶりとその化け物の根性には賞賛を超えて畏怖を覚えますよ。………まあ、最後の心臓を潰される前に私の吸血鬼達に勝ったそこの子供達を殺しておきましょうか。これで、後の被害を私の同胞が被ることも無いでしょう」

すると、返事が無いはずのおっちゃんから蚊の鳴いた様な声が聞こえたような気がした。

「…………わしらは…………負けん」

「……私達七柱は存在は重要ではないのです。七柱・・という存在自体が重要なのですよ。……あなたたちがメルセン様に支配される未来は変えようがありません。精々闇の中でじっくりと分解されると良いでしょう」

そう不敵に口元を歪めて言うと、ワグナは素早くなんらかの魔法を使用した。すると俺の足下、そして遠くに見えるほぼ無傷に近いイルマとヤタの足下に黒ドームと同じ色の穴が開くのが見えた。何故か今も生きているルーティアさんの足下にはこれが無く、代わりにおっちゃんとワグナ・グリモールの足下に同じような穴が開いた。

そして、重力に従って落ちる俺たち。

元気に悲鳴をあげるイルマとヤタ。

体勢を崩し頭から落ちる俺。

とうとう目から光を失ったおっちゃんとワグナ・グリモール。


 穴に落ちて真っ先に感じた感覚は水の中に入ったのに水圧が無い感覚。夜の闇よりも少し肌にぴったりとして若干質量のある空間。何か、既視感があるのは気のせいではないのだろう。

「ここは、闇空間と同じような空間なのか。……なら、イルマとヤタの所まで行って保護膜作ってやらねえとあいつら死ぬじゃん!?」

俺にとっては眠りを誘ういつものリラックス出来る闇空間と同じ感じを受けたからとてつもなく落ち着いていたのだが、そこまで思考して一気に目が覚めた。急いで周りを見渡すと、少し下方に暗い闇には不相応な金髪が見えた。そこで俺は下に向かって、手……で水をかく様に出来る手は無いので、全力のバタ足でイルマとヤタに近付く。その際に視界の端に2つの死体が落ちていくのが見えたので、心の中で俺をここまで強くしてくれたおっちゃんに感謝の気持ちと冥福の祈りをこめて黙祷を捧げた。

バタ足して近付くと、そこには予想通りイルマとヤタが居り、人間である2人には闇に対する対抗手段が無いのか、指先が微妙に黒ずんでいた。

「イルマ! ヤタ! 大丈夫か!?」

「テオ!? お前その怪我大丈夫なのか!?」

俺の姿を見て、イルマが焦り、ヤタも言葉に出す気力が無いのか口は開かず表情でとても驚いていることを伝えてきたが、それら全てを無視して残りの2割の魔力の内、1割をイルマに、もう1割をヤタに向けて放った。周りの闇と酷く似た俺が放った魔力はイルマとヤタを優しく全身を包み込み、球体状の膜を作り出した。

「はい、これで多分この空間で死ぬことはないと思う」

「まじで!? 何をしたんだテオ!!?」

「俺の闇の魔力を使ってお前らに膜を張ったんだよ。前に闇空間に入れてやった時同じことをしただろ? それと同じ奴だ」

その言葉を聞いたイルマはようやく落ち着きを取り戻したのか、一旦深呼吸をした。

「……つまり、ここはテオの闇空間と似た場所ってことになるんだよな?」

「ああ。感覚が大体同じだからそういう考えでいいだろうな」

「それなら出口はどこにあるか分かるか?」

「いや、知らないな。……多分どっかに誰かがここに通じる穴でも開けた時に出れるんじゃねえかな。もしくは大魔力をどこが壁かも分からないこの空間でぶっ放してみる……と……か………な」

暗い視界からイルマとヤタの姿が消え、音が遠くなる。遠くでイルマとヤタの俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、俺の意識は真っ暗な闇の中に溶け込んでいった。


おっちゃん死す。この人の死を無駄にしないようにテオ達には動いて欲しいですね


後、私が考える最短距離を走って進んでいるので、大分短くなっているのです。


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