第72話~校長との談話×~
なんとか、状況描写を詳しくしようと脳をフル稼働して書いてみました。
するといつのまにか7000字に到達しました。
なので、今回は今までで一番長いです。
後、グロ注意・・・かなあ?
校長室に入ると見えたのはルーティアさんと俺達を庇う様にして立っているおっちゃんの後ろ姿。その鋭い双眸は前方の者を睨み殺さんとばかりに前を見ていて迫力がある。対するそれを受ける前方の者と言えば、座り心地の良さそうな立派な椅子に座ってこちらを見つめている60代半ばまでいっていると思われる男。頭の光具合が少し目立つ、何者をも包み込むような笑みを今も尚絶やしていない校長だ。まあ、その笑顔が今の阿鼻叫喚となっている学院では不信感をマックスで抱かせる要因となっているのだが。そして両サイドに立つ2人の生徒は、どちらもなんとなく見覚えがある。その内の1人の生徒、赤目で血赤色が混じった黒髪を首元で切ってスポーツマン然とした爽やかさを印象付け、それなりに整った顔立ちは何処かにいそうな紳士のようだと女子生徒から人気が高かったグリーヴ・アルトライトは俺の方を見て、口元を三日月形に歪ませ微笑んでいる。恐らく昨夜逃した獲物がのこのことやってきたことで、どうやって殺そうか―――とか、そんな風に考えて愉悦にでも浸っているんだろう。つまり、この流れからしてもう片方の金髪を肩まで伸ばした、赤目の女生徒も吸血鬼なんだろう。格は分からないけど、多分中級じゃない?
「なんのようかね? ギルベルト先生。あなたには今も苦しんでいる生徒達を救って欲しいのだが。私はここにいる生徒を安心させるのに忙しいのでね」
校長がにっこりと未だに厳しい顔をしているおっちゃんに笑いかけながら話し掛ける。その言い分はそこにいる2人が怯えるなり泣いているなり、なんらかの弱っているように見える動作をしていれば俺達も信じる可能性もあっただろうが、今現在ニヤニヤと笑っている2人の前で言われても白々しい嘘にしか思えない。
「お前が首謀者だということは分かっている。だからその化けの皮を今すぐに剥がせ。なんなら今すぐにでもわしが剥いでやろう」
遠回しな言葉など不要だとばかりに会話を一方的に断ち、おっちゃんは校長に襲いかかるべく柄に手をかけ、1歩前に進み出る。すると、校長は両手を上に挙げ―――所謂、降参の体勢をとって、次の瞬間目の前で驚くべきことが起きた。
「全く、一体どこで私の偽装がばれたのやら。まあ、君達を消してしまえば問題は無いか。少し面倒が増えただけだ。………ふむ。殺すにはこの空間は狭すぎるな」
肌は肌色で皺のある肌から徐々に灰色で艶のある肌へと変貌し、フサリと黒色の長髪が生え、蝙蝠のような羽に尖った尻尾、額には他の悪魔の時とは違い、角の代わりに三番目の眼が出てきた。そして、眼が黄色で瞳が縦に細長く、爬虫類じみたものへとなった所で変化はそこで終わり、60代半ば程の皺が深く刻み込まれた老然とした見た目から、20代後半ぐらいの細身で長身――おおよそ180くらいはあるだろうか。少なくともそれなりに長身のおっちゃんよりは高いだろう。そんな姿に変わり、何処からか取り出した紅の上質そうな生地に金色で複雑な幾何学模様の刺繍が縫い込まれている豪華なローブを纏うと、校長はおもむろに両手を左右に広げ、両手の平を壁に向けた。するとそこからは手の平大の黒い球体が飛び出し、左右の壁に当たると校長室の左右の壁が綺麗に跡形もなく消滅した。そして動き回るには狭かった校長室は見事に横幅が教室3つ分とかなり横長になり確かに闘いやすくはなったのだが―――、それは特にどうでもいい。
さっきのあの魔法はなんだ? ちょっと俺達が使う魔法とは威力が桁違いすぎやしませんかい? 第一、炎とか水とかそこらへんの魔法みたいに物量で押すみたいな感じじゃなくて、触れたら消滅というのは非常に闘い辛いものなんですけれども。
皆もそう思っているのか周りを見回してみると同じような表情をしていた。
すると、いまや上級悪魔の姿となった校長(偽)は俺達の反応に3人でニヤニヤと笑っていた。
「おやおや。この程度の魔法で驚いてしまうんですか。これは案外拍子抜けな結果に終わりそうですねえ。5人同時に来てもらっても勝てますが、万が一という場合もありますし。……あなた達、とりあえずそこの後ろに隠れている3人の子供と女兵士の相手をしていなさい。見せしめのために原型が残る程度に殺しておくのもいいでしょうね」
「「了解しました」」
「ルーティア。こいつらの援護を頼む。…彼奴は、わしだけで殺ろう」
「分かりました。ほら、私達の近くに来てっっ!?」
両者の指示が終わり、ルーティアさんがこちらにむかおうとくるりとこちらに回った途端、彼女は一瞬眉を顰め、素早く俺達の方へと跳躍し、横に並んだ。何が起こったのかと思ったが、目の前の光景を見て瞬時に理解出来た。
そこにはグリーヴが貫き手の動作のままおっちゃんに腕を捕まれて静止し、その貫き手の先端の少し尖った爪は血のようなもので第一関節まで赤く染まっていた。そしておっちゃんは左腕でグリーヴを殴り殺そうとでもしているのだろうか。やたらと力瘤の盛り上がったおっちゃんの握り拳がグリーヴの顔面へと迫り………その攻撃は阻止された。女生徒がおっちゃんの二の腕を蹴り上げ、軌道を逸らしたのだ。そして体勢を崩したのを機にグリーヴも何とかおっちゃんの右腕の拘束から抜け出し、2人は一旦退いた。相当おっちゃんの握力が凄かったのか、グリーヴが貫き手にしていた方の手は少し歪な形にぐにゃりとなっていて、2人とも肩で息をしている。
「くそ、化け物め。どんな握力をしてやがるんだ」
思わず悪態をつく程度にはおっちゃんはチートらしい。よかった。俺が弱すぎるわけじゃないん……だよね? だが、愚痴をこぼしている間にもおっちゃんが握力で歪にした右手は吸血鬼持ち前の脅威的な再生速度により、既に元通りになってしまった。って、そんなことより…
「ルーティアさん。大丈夫ですか? 背中」
「え? 少し痛いですが…まあ、大丈夫ですよ。ですが、応急処置をお願いします」
「了解です」
そう言って後ろを向くルーティアさんの背中にはグリーヴの貫き手により少し抉られ、びーだまくらいの大きさの穴が3つあったので、俺はその傷から血が出てこない程度に回復魔法を使った。いくらなんでも抉られた部分を元に戻すのは時間が掛かりすぎるし、魔力量的にも今はそんなに使ってられないからこの辺が妥当だろう。
「はい、出来ましたよ。とりあえず血だけはでないようにしました」
「そうですか。この短時間でそこまで出来るのは上出来ですよ」
そう言って彼女は俺に微笑みかけた後すぐに表情を引き締め、すぐに敵と向き合った。
「ウォーミングアップは済みましたか? それでは殺してあげましょう、と言いたいところですがせめてもの土産に私の名前くらい教えてあげましょう。我らが今代の魔王にして最強の魔王、メルセン様が七柱の1人、ワグナ・グリモールで御座います。どうぞ、短い間ですがよろしくお願いします」
俺達の準備が終わるのを見計らって、上級悪魔――ワグナは慣れたような動作で綺麗なお辞儀をした。そしてありがたい事にあちら側の情報をいくつか漏らしてくれた。魔王の名はメルセンと言い、やはり七柱というからには魔王の側近のようなものなのだろう。それが誰なのかはこのワグナ以外には分からないが……まあ、しゃあないか。
そこでギルベルトさんが構えるのを見て、俺達も戦闘態勢に入る。いや、決して気を抜いていたというわけではなく背後からの攻撃に備えていたのだ。まあもうこの周辺には悪魔が出現する兆候はもう見られないが念のために、だ。
そして全快した吸血鬼2人も腰の剣と盾を捨て、無手で構え、そこまで見て次にワグナに注目しようとしたが、出来なかった。ワグナをすっぽりと包むように何故か黒いドーム状のものが出来ており、それは徐々に半径を広げていっている。触れると危ないものなのだろうか。その黒ドームに対し2人の吸血鬼は間違って触れることが無いようにじりじりと距離をあけている。
そこまで考えたところで、俺はグリーヴを追いかけようとすると、黒ドームの中から唐突に声が聞こえてきた。
「まあ、万一貴重な将来有望な吸血鬼が減ってしまうことがあると困りますし、あなた達の分の人数は多少減らしておきましょう。そこの子供達3人ていど、あなたたちなら取るに足らない相手でしょう。良い報告を期待していますよ」
「「っは」」
「っな!?」
「ギルベルト!」
「ルーティアさん!? 消えた……!?」
ワグナと吸血鬼2人の会話が終了したかと思うと、一瞬の内におっちゃんとルーティアさんがこの場から消えた。死んだのか……?
「いや、多分あの中に引き摺り込まれたんだ。きっと、おっちゃんとルーティアさんは今ワグナ・グリモールと対峙している筈だから俺達はこいつらと戦うよ!!」
「うぬ。そうだな。我らが同時にかかれば彼奴らなど敵ではない!」
「ああ。だけど決して1人では戦うなよ。テオはあの男の方、グリーヴの攻撃で苦戦してたからな」
そして、俺が「了解」と言おうとしたところで今までゆっくりと半径を広げていた黒ドームが、急激に侵食スピードを加速させ始め、敵は黒ドームが障害となったせいでやむなく二手に分かれて左右の教室へと走り込んで行った。
「はやく隣の教室に逃げ込むぞ! このドームに触れるときっとやばいことになる!!」
イルマの若干恐怖が混ざった声を合図に俺達も隣の教室に逃げ込んでいった。
俺は右側のグリーヴがいる教室へ。
そして、イルマとヤタは左側の女の吸血鬼が逃げ込んだ教室へ。
これまた黒ドームが障害となって、左に行くことを不可能にしたのだが、早速イルマが言った死亡フラグに近い状況が出来てしまったわけだ。そしてその黒ドームというと、校長室全てを侵食した所でぴたりと動きが止まった。
(大丈夫! テオには私がいるよ!)
(これは本当に死ぬかもしれないなあ)とか、何時ぞやの熊が迫って来た時の事を思い出していると、ナナの声が頭に響いた。ナナは筋力、耐久どっちも皆無に近いんだから闘うのは難しい………いや、もしかしたらこの方法ならいけるかも。
(ナナ。今から言う作戦は出来るっとお!?)
(大丈夫!?)
「考え事をしてる暇などあるわけなかろう。……また前みたいに逃げるつもりか?」
ナナに作戦を告げようと考えを頭に思い浮かべようとすると、顔面に拳が迫ってきている。すかさず【軽業】でブリッジで回避し、その勢いのまま後方にバック転の要領で飛ぶ。勿論【軽業】をしているわけだから飛距離と高さは素でやるより断然高いため、グリーヴが追撃のために繰り出した右足の攻撃範囲から離脱し、壁に着地。すぐにグリーヴから最も遠い場所に跳んで移動し、雷の魔力を最大出力で体に流すのではなく長時間保てるように流していく。恐らくこれでグリーヴの攻撃には対応出来るはず。
「その曲芸じみた動き………まるで猿だな。それにその体電気でも生成してるのか?」
「企業秘密だよ。まあ、驚いてくれたようでなによりだ」
準備を終えて、何故か動きがなかったグリーヴの表情を確認すると普段より目が開かれていて、少し意外そうな表情をしている。多少は驚いてくれたようだ。っていうか、俺もこのスキルがどんな仕組みで俺の体に作用してるのかが分からん。だって、さっきの動きを素面でしようとしたら、まず背骨を痛める。痛みを我慢して足を跳ね上げるも腰を痛める。そしてバック転の要領でなんとか跳ぶと、ほとんど跳ばなくて床に頭が直撃。そして悶絶していると目の前にはグリーヴの右足が。死亡フラグ回収完了。ってなるのは目に見えている。それだけ【軽業】は戦闘には直接影響しないものの、慣れればかなり無理をした動きを無理をせずにすることが出来る、とても重宝出来るスキルなのだ。正直なんで皆これを持っていないのか理解に苦しむ。
それじゃ、次は俺から仕掛けるとするか。ナナ、さっき言った事は出来そう?
(多分出来るよ。テオは信じて動き続けてね)
いつもののんびりとした声ではなく、メリハリのあり元気な声を出すキリッとしたナナの声に返事をする。本当に生死が危ない時には全力になってくれるのだから心強い味方だ。さっき言った1人という言葉は訂正しないといけないかもしれない。ナナもいるから見た目1人でも実質2人だ。
俺は半年間陽の光を浴びても何故か日焼けしない真っ白な肌をしている左腕を腰で留めて力を溜め、右腕を手刀の形にしてゆらりと体の正中線に構える。
グリーヴも、すぐにでも迎撃出来るように足に力を篭め、こちらをじっと見据える。
歴史を感じさせる校舎の壁は今や所々穴が開いており、そこから生温い風が俺とグリーヴの頬をくすぐり、突如グリーヴの背後から死神の鎌のような物が闇空間から飛び出し、標的の首を狩るために落ちてくる。微かに聞こえる風を切る音が気のせいか死神の唸り声のように思える。
「っ! っちぃ!?」
流石吸血鬼と言うべきか風を切る音をいち早く察知し、首を狩られないよう頭上に意識を集中させる。それを合図に俺はグリーヴへ一直線に亜音速で飛び込む。目標は……目だな。
グリーヴの元にたどり着いた瞬間急停止、真上に跳躍する。同時にグリーヴが俺がそのまま突っ込んでいくと貫かれるであろう位置に拳を放つ。
真下で息を飲む音が耳に入ってくるが今は気にしてる場合じゃない。上昇し続ける体を無理に体勢を頭を床に、足を天井に向けた状態にしながら風の魔力を体に流すと同時に体中を流れていた雷の魔力が消える。
代わりに体が軽くなった感覚がして、手応えなどあるはずがない空中で足を踏みしめる。
「っらあ!!」
そして全力で真下に向かって空気を蹴り、1メートル下にいるグリーヴ目掛けて貫き手にした手を突き出す。それと同時にグリーヴが上を見、1秒前に跳躍したはずの俺が高速で落下している事実で驚愕に目が見開かれ、その両目に俺の人差し指と中指が吸い込まれるように進んでいく。
「…っが、っぁぁあ!!」
「っ!! …………もういっちょういくぞおらあ!!」
両目に指が第二関節まで突き刺さり、ぐちゃりと指に纏わりつく感覚に視界が揺れ、頭の中が真っ白になりそうになるが、手首をグリーヴの吸血鬼らしい万力で挟まれたような握力で握り締められる痛みで正気を保つ。後2秒もしたら俺の手は握り潰され引きちぎられるだろう。どうせ抜けられないなら……このまま脳を焼いてやる!!
既に手首が異常な程に圧縮され、その痛みに悲鳴を上げるのを堪えながら最も使い慣れている雷の魔力を目に刺さっている指から最大出力で流し込む。こうすれば、確か目は脳と繋がっているはずだから過度に送り込まれた雷の魔力で脳はぐちゃぐちゃになってくれるはず!!
そして、この方法が成功かどうか確認する前に右手首からブチブチと何かが引きちぎれる音と、何か硬い物が粉々に砕け散る嫌な音が聞こえ、同時に気を失いかねない程の激痛が襲ってきた。だが、後少しで気を失うところで、地面に落下した痛みで正気を保つことに成功した。
「ガぁぁぁぁぁぁああアアァアアアア!?!?」
(っつうああぁぁあ! …ナナ! 用意してた銀の短剣を!)
(そのまま心臓に向かって殴りつけて!)
ナナの指示にほぼ無意識に従い駄目になった右手ではなく左手で握り拳を作り、地面に倒れ悶えているグリーヴの心臓目掛けて殴る。
すると、心臓に届く拳一個分手前で小さな闇空間が出現し、そこから出てきた銀の短剣を殴り飛ばすと、多少軌道がずれたものの上手く心臓に突き刺さった。
「アアアァァァアアァァっ……」
「っ! っはぁ。っはぁ。……後少し」
そこでグリーヴの動きは停止したが、まだだ。まだ、吸血鬼を殺すための「銀の武器で心臓を刺し、首を刎ねる」の首を刎ねる工程をしていない。
俺はふらふらと立ち上がって意外と出費のあった短剣を抜き、首に向かって振り下ろした。
「……っち。力不足か」
しかし、型なんぞ関係ないとばかりに振り下ろされた斬撃は【剣術】の補正が掛からず、首に2センチ埋まったところで止まった。
「ここは……あれだな」
ふらつく足をなんとか倒れないようにして、意識を集中させる。すると、体の内側――大体心臓の近くから熱いものが溢れ出し、先程まで死に体だった体に活力が戻ってくる。メリッサの力の正体をおっちゃんの所に尋ねに行くと、正体は分からなかったが使い方は知っていたのでついでに俺も教えてもらっていたのだ。一応半年で意識すれば仕える程度にはなっている。
だが、活力が戻るといっても意識はほぼ限界に近いから急がないとな。
俺は左手に持った短剣を今度はしっかりと握り締め、しっかりと型に従って振り下ろす。
この時俺はグリーヴの心臓を刺して動きが止まったのを見て心のどこかで気を抜いていたのだろう。
だから、俺は何時の間にかグリーヴの首が回転して俺が振り下ろす先にグリーヴの口が待ち受けていることにも気づかなかったのだ。
振り下ろした時に感じたのは、短剣が首を切り落とす嫌な感覚ではなく、肘に何かチクチクして湿ったものが挟まっている感触だった。それに俺は何か嫌な予感がして即座にそれを外そうとするが、右手首を捕まれた時……いや、それ以上の力で挟み込まれている。
「っは。ざまあみろ」
そしてグリーヴの声が耳にかろうじて届いた瞬間に左肘から火傷をしたかのような痛みが襲い掛かり、そこから下の感覚が無くなった。




