第70話~支配開始~
今日から一週間東京に友達と旅行に行ってきます。
「ふむ…。お前達の話を信じるならば、ここは魔王に侵略されかけているということか?」
「はい。偶然テオが隷属の魔法について多少の知識が合ったので詠唱で気づきました」
「この7年間一切動きが無かった魔王が何故今更……。お前達の話は俄に信じがたいが、信じた方が得策のようだな」
「ありがとうございます」
俺達の方に顔を向けないまま、歳は40には到達しているだろう微かに無精髭が残る男は、現在進行形で襲い来る木刀を次々に槍を用いていなし、時には木刀の腹に裏拳を当てることで相手の攻撃を尽く防御していた。だが、それは相手の攻撃が弱すぎるからではなく、この男が強すぎるのだ。実際、あの相手のまだ20にいったかいってないかぎりぎりなとこの、まだあどけなさの残る童顔な女性の攻撃を俺達3人が同じように対処しろと言われても十中八九無理だし、まともに打ち合うことすら難しいかもしれない。
「っ! ですが、本当にこの学院は今支配されているのでしょうか? 私の記憶だと、隷属魔法を掛けられた方は例外なく隷属状態になった瞬間に痛みを感じているのか、悲鳴をあげるか悶絶するかの、どちらにしろ苦しむような行動はしていましたが」
「そうだな。確かに、罪人に掛けられた時は似たような反応をしていた。……む? テオ、その光はどうした」
模擬戦をしていた男と女、ギルベルトさんとルーティアさんは、突如として俺の足下を中心に広がっている水色の魔方陣から俺を覆うようにして黒色の闇を連想させるようなもやが出現した。そして、それがしばらくして何事も無かったかのように霧散した。何だ、何か掛けられたのか。別にどこにも身体的異常は見られないが。
(テオ~。とりあえず解呪は終わったよー)
ああ、さっきのはナナが解呪してくれたから出てきたのか。ってことはあの黒いもやが俺を隷属状態にさせていたものってことになるのか? いや、そもそも隷属状態にしているものなんて視覚化出来るとも限らないからなあ。……まあ、そんなことはどうでもいいや。
(ありがとうナナ)
(どういたしましてー。この分のお礼は普段より多めに闇魔力をくれると嬉しいなー?)
(あはは…。まあ、それはこの事件が一段落してからね。それと、解呪はどうやってしたのか?)
(それはねー。こうやって……
新しい玩具を自慢するように話すナナに苦笑いしそうになりながら俺はギルベルトさんに何が起きたか説明しようとした。
「あー、これは俺の隷z「ああああぁぁァああアぁあ!!!」……どうした?」
だが、それはヤタの悲鳴ともとれる絶叫によってかき消された。そして何があったのか確認するためにヤタのいる隣に視線をやると、ヤタはしゃがみこんで自分の手で自らを抱くようにしていて、イルマは多少苦しげな表情をして胸を抑えていた。そして2人とも隷属魔法を掛けられた時のような蛍光灯を思わせる光が内側からあふれ出ていた。
「っ! 多分、こっれが…隷属状態にっ! 掛けられた状態なんっじゃないかな!?」
「そ、そのようですね。そんなことより大丈夫なのですか!? 大の大人でも恥も外聞も関係なく絶叫する人が多いのですから、子供のあなたたちが絶えられる痛みじゃないでしょう!」
ルーティアさんが除々に正気に戻ってきて、苦しんでいる2人を見て次第に焦り始める。確かにルーティアさんの言っていることも理解出来る。現にイルマは多少は耐えられているように見えるのだが、ヤタは心臓の位置を強く押さえつけて地面で転がりまわっている。そして、これと同じ事が起きているのだろう。少し離れた場所にある校舎からは恐らく学生全員分の悲鳴が聞こえてくる。
(ナナ! さっき解呪したばかりで悪いけど、もう1度解呪お願いできる!?)
ひとまず、イルマとヤタを解呪してまともに動けるようにしないと。……秋風さんは大丈夫なのか……? もしこれがレジストの強さに関係した痛みだったらかなりやばいだろう。
ここは、この後に急いで解呪しにいくべきなのか?
……いや、ここは他の生徒の無駄な妨害を避けるためにこれを先に済ませるべきか。
(りょーかい。それじゃボクはイルマ君の方を解呪するね)
(分かった)
「イルマ! ヤタ! 今から解呪するからじっとしてろ!」
「あ、あ! 頼んだ」
ヤタから返事は聞こえず、未だにのた打ち回っている。そして、俺に解呪方法を丁度教え終わったナナが、俺の腹から黒い闇空間のようなものを空けて飛び出して、イルマに向かって小走りで向かい、解呪を始めた。
「ちょっと、きついだろうが我慢しとけよ。ヤタ?」
またもや返事が返ってこないことに少し苦笑いしながら、ヤタの動きを止めるために一旦電撃を当てて数秒間痺れさせて、土の魔法で両手足を地面に入れて固定した。
さて、解呪を始めるか……。
確か闇の魔力を使った解呪方法ってのは呪いの上書きだったな。
俺は初めてする解呪に緊張しながらヤタの胸に手を当てた。




