7話~帰宅&増員~
洞窟を出た途端に飛び込んできた陽光に俺達は目を細めた。
「…まだ昼だったのか」
早朝に入ったのもあるが、思っていたよりも時間は掛かっていなかったらしい。
それにしてもこの眩しさでの目の痛さを感じると内心では目がぁ! 目がああああぁぁぁぁ!!!! って叫びたい。勿論某大佐のようにね。だけど…
俺は隣で同様に目を細め、目の前に広がる風景を眺めていた少女を見た。日の光が反射して黒髪が綺麗に輝いている。だが、ふとこちらをちらりと見るとすぐにフードを被りなおしてしまった。
…黒髪を見ると日本のことが懐かしくなってくるからついガン見しちゃってたよ。
その視線をどう解釈したのか少女は少し不快そうに言ってきた。
「あなたも…私の髪を見て……不吉だと思うんでしょ」
まあ、なんとも…予想外なことを言う子だことで。
「なんで? 特にこれといって不吉なことなんてないと思うけど」
「この黒髪が問題っっ!!」
今までの静かな口調から一変して唐突に怒ったように叫びだした。まるでそれが常識だとでも言うように…。
だが、俺からしてみたら黒髪が普通の国に生まれていたからただの黒髪である。まあ強いて言えというなら一つくらいしか思い浮かばんのだが。
「…その黒髪が凄く綺麗なせいで周りから疎まれた?」
っあ、顔赤くした。けどなんか怒ってる…?
そして何か言おうと口を開く前に横槍が入った。
「テオさー。あんた初対面の女の子をなにナンパしようとしてるのよ」
セリアがいつのまにか近くに来ており呆れた顔をしていた。調子は一応いつも通りに戻っていて更に男を倒す際についた返り血も小川で洗い流したらしく、服や髪が多少濡れているもののこざっぱりした格好にはなっていた。
「姉さん…そんなことよりもこの子をどうするかでしょ?」
「え? さっきいった通りうちに連れていくわよ」
「え?」
俺とセリアの会話に何か聞き捨てならないものでも感じたのだろうか。獣人の少女はすぐさま会話に割り込んできた。
「『え?』って当然よ。だって身元も分からないし、あなた一人を置いていっても絶対野垂れ死ぬでしょ? 見たところあなた、私達と歳はそう変わらないよね」
「ぇぅ…」
「姉さん。怯えてるからそう捲し立てないで」
この子はセリアのことが苦手なのか、それともまだ話してないからなのか分からないが、セリアが一気に話していると若干だが体が震えてきていた。
「分かったわ。とりあえずここで話していても仕様が無いから行きましょ。」
「うん」
さっさと家に向かうセリアをすぐに追いかけようとしたが、唐突に何か思い出したようにこちらに向き直った。
「っあ!! 勿論体の血は洗い流しておきなさいよ」
「…つまりだ。お前達は無謀にも人攫いをした男からその子を奪い返したと。そういうことなのか?」
父のロイは普段から使っている食卓の椅子に腰掛けて言った。眉間には深いしわが刻み込まれている。
「はい…。その通りですお父様」
それをロイの目の前で床に正座させられているセリアが辛そうに答えた。まあ、俺もその状態なのだが。
何故こうなったか? これは言うまでもない。家に帰るや否やセリアの擦り傷を見て両親共々大慌て。そしてその真相を突き詰められていく内に段々とロイの眉間にしわが。母のファイからは黒い笑みがこぼれるようになっていった。
それで現在に至り、かれこれ2時間は正座させられている。
ちなみにファイは獣人の少女の姿を見てすぐさま体を洗いに行って、次は着せ替えタイムに。いやあ、女の子の着替えって長いね。もう一時間経ってるよ。
「テオ」
「あ、はい」
足の痺れを紛らわす為にひたすら考え事をしていたが、次の質問は俺の方に回ってきたようで、見事に現実に引き戻された。
「お前は何か他に言い残すことはないか?」
言い残す事て…。遺言ですか。
言い残すことではなく気になることはあるから聞いてみるか。
「さっきの子の話を聞いてから分からなかったんだけど、なんで黒髪は不吉だと思われてるの?」
するとロイは先程の空気とはまた違った厳しさを醸し出し始めた。やはりこの類の話は世間的にあまり話されちゃいけないことなのかなあ。
「お前にはまだ理解し難い話だとは思うが話してみよう。テオ。お前は村人皆の髪色が黒い人はいたか?」
「…いなかったよ」
「そう。黒髪の人は普通はこの世界にいない。だがな、偶にあの子のように何の予兆もなく黒髪の人物が生まれてくるんだ。そしてそれを不吉だとどこかの国の王が言ってその黒髪を見つけ次第死刑にした。ただそれだけの理由で黒髪の人物は不吉だと民衆に広まり、今に至るまでずっと不吉だという理由で差別し迫害されてきた。というわけだ」
「なによそれ! そんなのただの理不尽じゃない!!」
隣で一緒に話を聞いていたセリアは憤慨していた。
成る程。確かに黒髪の人は見かけないし人間っていうのは分からないものには徹底的に弾圧する傾向がある。例えば魔女狩りみたいに…。だけど、その理由にしちゃやることが激しすぎないか?
「父さん…。黒髪の人が不吉だと思われる理由ってそれ以外にも、もしかしてあるんじゃないの?」
途端にロイは目を大きく見開いた。
「お前……。何故そう思った」
「だってそれって黒髪の人が迫害されるにしては少し理由が抽象的だよね。しかもここまで抽象的だと誰かこれを疑問に思って反乱を起こしたりするのかなあ。と思って」
「お前はその歳にしては賢すぎないか?」
「そんなことより、僕が言ってることは本当なの? 嘘なの?」
「…本当のことだ」
ロイは苦虫を噛み潰したような顔で渋々答えた
「何で嘘を吐いたのかは何となく分かるけど…」
「理由が分かるなら話が早いな。この話はお前がもう少し大きくなってもまだ、聞きたかったら聞くと良い」
「そうするよ」
「え? 何の話? ねえ、テオ。あんた何を理解してるの?」
どうやら話に途中からついていくことが出来なかったらしいセリアが戸惑っていた。
いや、この歳ならその反応が普通なのかな? 俺一応精神年齢16歳ぐらいだし。
「この話をするのはもうやめよう。セリア、テオ。もう動いていいぞ」
「「はーい。…足が……!!」」
二人して二時間長にも及ぶ正座の為床で悶えているとようやくファイと獣人の少女が二階から下りてきた。
「セリア、何寝転がりながら踊ってるのよ。…まあいいわ。そんなことより」
階段から下りてくるなり呆れた様にファイが言っていたがすぐに真顔に戻り「ほら」と後ろに隠れるようにして来ていた少女を前に出して言った。
さっきはフードや魔法使いみたいに全体を覆う様なローブを着ていたが、今はセリアの動きやすい服を着ている。そのため先程見えなかったフサフサした黒い尻尾がゆらゆら揺れているのが見えた。…だけど、心なしか尻尾の揺れが弱くて耳がしょんぼり垂れ下がっているのは気のせいだろうか?
「この子親から売られたみたいだから私達が引き受けることにしたわ」
「「そんな簡単に決めちゃっていいの!!?」」
俺と話を盗み聞きしていたのかカーンが急に入ってきて叫んだ。それをファイは笑顔で一蹴し、続けて言った。
「いいのよ。この子可愛いから。どうせなら私とロイが教育してもいいわよ?」
…嗚呼、もう駄目だ。今までの経験で分かる。この笑顔になったら母さんはテコでも意見を変えないんだよな。というかあの獣人の少女のあの垂れ下がり具合はこのことによるのだったのかな…?
「だからね。あの子達に自己紹介してあげて」
すると、獣人の少女はおずおずと話し出した。
「…キアーラです。……よろしくお願いします」
正直言ってさっきの黒髪の話をしたから家族の皆は少しでも嫌な顔をするんじゃないだろうかと心配に思ったのだが、それは杞憂に終わったようで、家族皆が笑顔でキアーラを歓迎していた。




