68話~脆弱な精神~
「隷属て……なんで勝手に奴隷にされてんだよ。あれかご主人様って呼べってか? っていうかご主人様って誰だよ。それにステータス見た限りじゃ、この隷属って魔法っていうより呪い扱いされてるよな。魔法だったとしても少なくとも禁止魔法以外有り得ん。……そんなことより皆は気づかねえのかよ。こんなに簡単に分かるのに」
一瞬思考停止して、とりあえず普段心の中でツッコミを入れる所を口に出して言うくらいにはツッコミ所満載の出来事だった。まあ……とりあえず。俺、奴隷になっちゃいました。
そして、恐らく隷属を俺たちに掛けた黒幕は多分上級悪魔だろうし、先生は絶対このことを知らないでやってる。…どこのどいつが生徒を隷属状態にして「俺はやったぜ」的な清々しい顔で汗を拭く真似をするんだよ。いたとしたらどんだけSっ気があるんだよ。
「テオ! これは一体どういうことなのだ!!」
「んあ? どうしたヤタ。そんなに怒って」
「どうしたもこうもあるまい! なんだこのれいぞむぐう!」
何故か怒っているヤタがいらんことを言う前に俺のゴッドハンドが火を噴いた。ぶっちゃければ、俺の手から風魔法を飛び出させて、安眠用の為に必死で練習した防音魔法をヤタの口の周囲に放ったので、正確に言えば俺のゴッドハンドから風が吹いた、になるんだがこの際どうでもいいだろう。ニュアンスが重要なんだ。
ついでに言っておくと俺が普段寝る時に使用している防音魔法は俺の周囲を風の魔力で覆い、膜のようにしてからその部分の空気は一切振動させないようにするという、やり方的に言えば単純だが、いざ実行してみると地味にコントロールが難しかったりする。寮に入ってからあまりの隣の部屋の煩さに思いついたから、まだ半年しか練習出来ていないが、練習を初めて4ヶ月ぐらいの時はよく、間違えて自分の周りの空気の振動を止めるのではなく、俺の身の回りを含めた空気を完璧に固定してしまって真空状態になってしまうことがよくあり、何度か死にかけてイルマに助けてもらったのは苦い思い出だ。
防音魔法は普段このように使っているが今ヤタに使っているのはそれより小型のもので、きっと口に何か物が入り込んで喋れないという感覚に陥っていると思う。まあ、鼻から息は出来るから死ぬ心配は皆無だけど。
「んで? そのステータスを見たかって? 勿論見た」
「っぷはあ!! ………それなら何故それを皆に触れ回らないのだ!」
「あーもう、煩いな。ちゃんとそれをしない理由があるからとりあえずイルマのとこに行って話すぞ」
「そうか………我が納得出来る考えを用意しておけよ」
「あ? いちいちその上から目線やめろよ。うぜえな。いっそのこと口数限界まで減らすか? っていうか喋るのやめてくれよ?」
「っな!?」
「……っち」
すっかり興奮してしまった頭を冷やすためにヤタから1度離れた。まったく、気持ちが動揺しかけたところに、少し俺の考えを否定されただけでこの様か。この脆いメンタルはどうしたもんか。自分の考えを否定されれば、むきになって無意識に他人を傷つけ、そしてその加減も度を過ぎている。ヤタからすれば、突然何の予兆もなしに隷属状態にされたのだから、上級悪魔が潜んでいると知っている俺とは違い、激しく動揺するのは当たり前だろうし、あの口調も望んでやっているものじゃないはず、しかも聞いたところコンプレックスにもなっているのにそれに暴言を吐いて、傷口を抉る様な真似をするとか……。俺って卑怯で臆病者で汚い奴だな。
どうしようもなく駄目な俺に自己嫌悪を感じていると、誰かから肩を叩かれた。
「……どうした、イルマ」
「テオ。絶対今自己嫌悪中だろ? 滅茶苦茶顔が歪んでるぞ」
「知らん」
「知らんて、なんやねん」
「知らんものは知らんのだ。さっさとヤタも含めて会議を始めるぞ」
「……はあ。ちゃんと精神は安定させておけよ? この状況で動揺したら多分やられるぞ」
「……………了解」
そんなことは俺も分かってるよ。……会議の前にはヤタに謝っておこう。
それから少ししてから、ヤタがとぼとぼやってきた。ああ、中々に効いちゃってるね。
「……ヤタ」
「ッ! ……………何だ」
俺が声を掛けると一瞬ヤタの瞳が揺れた。そして返事をするかどうか悩んでいるような動きを見せた後、ゆっくりと小さな声が聞こえてきた。
「すまん。さっきはイライラしてた所為で八つ当たりした。以後こういったことが無いようにする。だからさっきの言葉は真には受けるな」
「そ、そうか! 良いぞ! 気にするでない。我は塵程も気にしておらぬ」
「そりゃよかった」
謝られた時に安心したのだろうか。次第ににやけだしている顔で「気にしておらぬ」とか言われても、明らかに気にしていたのはバレバレだから、悪いことをしてしまった罪悪感と一緒に笑いもこみ上げてくる。ああ、ヤタは優しいね。こんなに簡単に許すなんて。
そしてしばらくヤタと俺で笑っていると、横から咳払いが聞こえてきた。……イルマ。会話に入ることが出来なくなって寂しかったのかな?
「それじゃ、仲直りもしたことだし、この状況をどうするか考えようか」




