66話~なりきり校長の演説~
「ここ最近学院内で女子生徒の多くが授業中に貧血で医務室へ運ばれることが頻発しています。そしてその原因を私達教員共が調べてみたところ、ギルベルト先生が吸血鬼の仕業ということを突き止めました。なので女子生徒、または男子生徒の方々は常に私達が配布する十字架を―――」
学年主席入学者の名前は調べてみると、グリーヴ・アルトライトという名前であることがすぐに分かった。そのグリーヴとの追いかけっこの次の日、俺はてっきり1人になった時を狙って吸血鬼であることの口封じのために殺しにかかるのだと思っていたのだが、朝にばったり出会っても俺の顔を見て、昨日までの少し狂ったような雰囲気はどこにいったのか。爽やかなイケメン臭を纏わせてにっこりと笑い、挨拶をしてきた。
さて、ここで何故吸血活動をするのを見て殺されそうになっていたのか、俺は理解していなかったため、試しにイルマに聞いてみたところ、こういうことらしい。
この世界には様々な種族があり、大まかに種族が二分されて、その間で今現在も争いが起きている。人と交流をするようなエルフ、ドワーフ、獣人、後気まぐれに精霊などの種族はそれなりに人間に友好的だと世界の人々に知られている。所謂これは、いざとなったら人間の味方をしてくれる側、例えるならば光サイドである。
しかし、味方がいれば必ず敵がいるというように、ダークエルフや悪魔などの人々が邪悪だ。不吉だ。などと罵り、差別し、集団でかかって町から追い出すなどの迫害を受けるような種族が人間側を恨んで魔王側、つまり闇サイドとなる。まあ、大元を辿れば「昔はどの種族も友好的で争いを起こすことも無く、仲良く暮らしていたのです」とかなっていそうだが、イルマからの話と図書館で得た古い歴史書を合わせる限り、今は大体人間の偏見の所為でこのような事態に陥っているという可能性が最も濃厚だと俺達は考えている。
そして、あちらの闇サイドの長、というか群集を指揮、または支配はダークハイエルフや、恐らくベルゼブブとかその辺りの、種族の中でも上位に位置する存在がするのだろうが、その頂点には代々魔王が君臨し、全てを取り纏めているとされている。
何故この部分が断定的じゃないと言うとだが、魔王についてはイルマが街中から集めた情報や俺が図書館で調べた情報のどこにも記されておらず、精々「全てを支配し、我々人類の存在を脅かすものである」とかその程度にしか書かれていない。魔王を倒したと言われる異世界から召喚された勇者、またはこの世界で勇者として生まれた者の活躍については事細かに、それこそ宿屋で起きたことすら全てその場で見たような描写で描かれているのにも関わらず、なのにだ。
まあ、このように長々と種族間の対立について誰に説明するともなく頭の中で考えているが、ここまで話せば分かるように、グリーヴ・アルトライトは吸血鬼。魔王側の者である。しかもこちら側の吸血鬼に関する情報は「見つけた瞬間に銀の武器で心臓を貫き首を刎ねろ。それをしない者は我々人間の敵とみなし異端者として排除する」としっかりと本に書かれてある程の徹底具合であるため、恐らくだが吸血鬼の人数は今現在かなり少数の種族となっている可能性があると思われる。それ故にグリーヴは俺らに狩られないために先手必勝とばかりに俺を殺そうとしたのだろう。うん。非常に動機は理解出来るが何か解せぬ。っていうか俺らの先人がかなり迷惑なことを仕出かしちゃってると思うんだけどな。
さて、ここで疑問だが何故昨夜、グリーヴは俺の事をこうも簡単に見逃したのだろうか。吸血鬼が置かれている状況とここに吸血鬼の味方はいないということを考えれば、俺が今現在長々とつまらない話をしている校長にこのことを告げれば後は、先生なり兵士なりランクの高い冒険者達などが適当に排除してくれるだろう。
しかし、イルマにそれをすることを止められた。しかも「親友がみすみす死にに行くのを態々黙って見ているだけなわけないだろう?」というわけが分からない理由を腹の立つドヤ顔付きで言われたのだ。だから、背負い投げをした俺は悪くないんだ。そこで何故俺が校長にこのことを告げるのを止めるのか、はっきりと俺が理解できる理由を持って来いと言った結果、イルマからある物がすぐに俺の手の上に乗せられた。
「……ということからして、吸血鬼とは強靭な肉体に強い魔力、更には銀の武器で心臓を突き刺し、首を刎ねない限り、いくらでも再生出来るという非常に厄介極まりない存在であるため………」
未だに延々と吸血鬼の対策法や特徴について、図書館で探せばすぐに見つかるような知識ばかりを生徒達に教えている。正直そんな知識は自分で調べろと思うが、半分の生徒が初めて聞いたというような顔、というか雰囲気をしているのはそれで大丈夫かと問いたい。まあ、それはともかく俺はイルマから昨夜借りた物、地味な黒縁メガネを着けた。
そして、装着と同時に生徒達の頭上に現れるたくさんの文字と数値。数値の大きさは大きい順に3年から一年の順番におおよそになっていて、偶に種族名に人間と書かれてはなく獣人と書かれてたり、俺とナナを除く1人には火精霊とも書かれていた。このようにステータスだけでなく、種族も分かるメガネの厚さ2ミリの薄いガラス越しに校長を覗く。
「……上級悪魔」
俺は思わず呆然とその言葉を口に出していた。入学した当初に見た名前とは違う名前が表示され、種族も人間ではなく上級悪魔。どうやらいつのまにか校長が上級悪魔に入れ替わっていたらしい。そして俺が知る限りによると上級悪魔は、悪魔の長とまでは行かなくても側近を勤めることは余裕で可能なレベルの存在だということぐらいしか分からないが、それでも分かることが1つ。…俺が戦ったら瞬殺されるだけの存在ではあるし、ステータスも俺のそれを全て悠々と上回っている。参考程度に言うと、グリーヴはあれでも中位の吸血鬼であるにも関わらず俺のステータスを超えている部分が数多くある。
なるほど。これがイルマが俺を止めた理由か。つまりこの学院は魔王の手下によって既に侵略されつつある状態であり、下手したら俺らが相手方にマークされる危険性もあるから、って辺りかな?
「それでは、これで話を終わります」
そして丁度良く、いつのまにか本物の校長と入れ替わった上級悪魔の吸血鬼談義は終了し、朝のホームルームは無事に、これで終了した。




