63話~スコットェ・・・~
ヤタからの分かりにくい上から目線の激励を貰った俺が今いるのは3階。秋風さんが勉強をしているであろう、3-2の教室へと向かう廊下を歩いている。
俺が歩いている時間帯が放課後になってしばらく経っているので、人はあまりいない。いたとしても勉強に苦戦しているものや、訓練場に行く脳筋。それか図書館で資料集めをしている変わり者と呼ばれる部類に入る人ぐらいだ。
「っや、テオちゃん。テオちゃんがここを歩くのも中々珍しいね」
ふとぼんやりとしていると、前方から見慣れた姿が歩いてきた。
「こんにちは。メアリーさん。はい、ちょっと用事があるので」
「へえ。それが終わったら今日も図書室に行く予定?」
「いや、今日は多分行けそうにないと思います」
「そうなんだ。っちぇ。今日はテオちゃんと図書室でランデブー出来ると思ったのに」
「ランデブーって……」
「あはは…。冗談だよ。それじゃ、また明日」
「はい。また明日」
俺は苦笑しながら言葉の端々に俺に地味な攻撃を与えてくる彼女の背中を見送った。
彼女はメアリー・ハウエル。顔は綺麗で話してみると明るくて非常に好感を持ちやすい女性なのだが、普段の服装がねらったような紫色の目深まで被った魔女帽子と体の線を覆い隠すような大きな魔女ローブなため、初対面の人からは少し距離を開けられることが多い。また、「図書室の主」とも呼ばれており、その名の通り誰よりも図書室のことに精通して、最も図書室に通った回数が最多である
そのため、何か戦力増強に使えそうな資料探しで図書室に通い始め、それが習慣になった俺が彼女と話し始めるのも必然であり、彼女がこの学院に来てから俺の最初の友人になるまで時間は掛からなかった。そして、俺の資料集めもそれなりにスムーズになった。まあ、資料を見ている際に彼女がちょくちょくちょっかいを掛けてくることを除けばだが。別に嫌な気もしないので放置しているが、いつかは言った方が良いのだろうか。
「図書室では飲食は禁止です」
と、図書室を昼食の場としている彼女に。
「ま、いいか。……んー、場所はこの辺りで良いかな? ナナ、お願いね」
「りょーかーい」
今頃は1人、教室で宿題を消化している秋風さんが見える位置を探して、もしストーカーが来て、逃げた場合も捕まえることが出来るようにドア付近で死角になりやすそうな場所を見つけたので、俺はナナに呼びかけた。別に口に出さなくても伝えることは出来なくもないが、今の俺では少し実力不足なため、今は口に出すことで我慢している。
そして、俺の目の前に人1人分が入れそうな黒い穴がぽっかりと開き、俺は躊躇無くその中へと足を踏み入れた。
すると、急に重力が無くなった様な感覚を味わい、足下が何も無くても落下していくというような事は無かった。体験したことは無いが宇宙で漂うのはこういった感じなんだろう、とか頭の隅で思ってしまう。
まあそれはさておき。
「ナナ、外の様子を見るためにはどうすれば良いの?」
実はまだナナが作り出したこの闇空間の中には入ったことが無かったため、使い勝手が分からない。精々他人から見つからない程度にしか理解出来ていない。
ナナは少しの間右手を顎に当てて考え込んだと思うと、おもむろに左手を水平に振った。
すると、ナナの正面には窓のような物が2つ出現した。
「これは……?」
「見た目どおり窓だけど、これで外の様子が外からばれずに観察できるよ」
中々素晴らしいことをナナが今言った。それは今の状況にとってはとてつもなく役に立つ技であること
を証明している。
事実、秋風さんには声をかけていないため、気づかれておらず、ただ黙々と勉強をしている姿を見ることが出来ている。ただ、既にストーカーがいるのか、時々秋風さんは体を震わせて周囲を見回している。別に俺はそんな視線はしていないから俺による視線じゃないと信じたい。…ただ、ここで見張っていても他に見ている人が見当たらないというのがいたいが。まあ、毎日視線を感じていると言っているから今頃どこかで見ているという予想があるからここにいるが、正直これで今日は誰もいなかったら骨折り損になってしまう。
張り込みにはアンパンと牛乳を持ってくるべきだったか、とか少し後悔していると、急に俺の近くにあるドアとは逆方向のドアが勢いよく開いた。開けた人物は随分と機嫌が悪いのか、ドアを開けた衝撃で窓に少しひびが入ったことを気にも掛けず、ずかずかと教室に何かを左手に持った状態で入り込んできた。
「リサ!」
「な、なに? メリッサ。……って、その引き摺っている人誰」
「こいつが、リサの部屋を荒らしたり物を盗んだりしていた犯人だ。おい、早く謝れ!」
「うるっせえな! 誰が謝るかよクソが!!」
入ってきた人物はメリッサさん。普段から怒らない彼女が大分切れているということはこの事件は相当許せないことだったようだ。だから、引き摺ってきた人をわざと襟を掴んで引っ張ることで障害物にぶつかりやすくしていたり、秋風さんの前に突き出す時も故意に床に叩きつけるように投げていたように思える。
「さて、ここまでメリッサさんを怒らせる変態君は誰なのかな……ええ…」
興味本位で闇空間にある窓から顔を覗き見ると見覚えある顔が見えた所為で思わず素の声が出ていた。心の中ではある意味この人が変態行為をしてもすんなりと受け入れられるくらいに俺の中ではこいつの評価は低い。そしてこいつに関して語ることは無意味と思われる。
「……それで、私のは何処に持っていったのかな?」
「そんなん知らねっぶぼろぁ!!」
「……どこにあるの?」
変態が不機嫌気味に知らないと言おうとしていたが、言い終わる前に秋風さんが相手の右頬をビンタ。かなり力をこめていたらしく、簡単に逞しく大きな体が吹っ飛ばされようとするが、すぐに右足を秋風さんに掴まれたことにより逆方向の力が働き、少し痛々しい図が出来上がっていた。
「っつあ……」
「どこにあるのかな?」
「っひ! 分かりました! 今から出します!」
そうして変態は秋風さんが盗まれた物を取り出し始めた。
「おいおい……変態(スコット君)。何で常備してるんだよ。っていうか何てもんを盗んでるんだよ。……しかも胸ポケットて」
俺は流石に呆れの色を隠せなかった。何故なら変態――もとい同じクラスのスコット君が盗んでいたのは秋風さんの下着、そして取り出した場所は胸ポケット。しかも何故か表の方という「お前隠す気ないだろ」と突っ込みたくなる所に入れていた。
「……リサ。どうする?」
「ちょっと私1人に殺らせてね」
「あ、ああ…」
こちらから秋風さんの表情は見えないのでどんな表情をしているかは分からないが変態の顔がとても青ざめているため大体分かる。っていうかあまり知りたくなかった。
そして、秋風さんによるお仕置きが始まった。




