60話~精霊流避難術~
「ナナ。まだあの人ここにいる?」
今現在俺は少し面倒くさい事態になっている。
「まだいるよー。多分隠れていると思っているんだろうねー」
辺り一面黒以外何も見えない場所で俺の少し上の場所で外の光景を覗き込んでいるナナがどこかのんびりした口調で答えた。そしてまだここから去ってはくれないようだ。
「中々慎重な性格をしているねあの人。早く秋風さんを回収しに行きたいんだけど……困ったな。誰かに運んで貰おうにも連絡を取る手段がないし……」
海の中にいる感覚がするが水圧のような圧迫感が無いこの場所でふわふわ漂いながらこの場を乗り切る方法を考えてみる。が、すぐに、本気を出されたら勝てそうにないあの人に相対することは頭から切り捨て、只諦めるのを待つという選択肢に決めた。
何故俺が主席で入学したあの人に見つかっていないのかという疑問に答えるのは簡単だ。
それは俺達闇精霊が自由に行き来出来る、4次元空間のような暗闇の場所、通称闇空間の中に避難しているからだ。
ちなみに言っておくが、今の状態では俺はこれを出すことは出来ないのだがナナは出すことが出来る。単純に精霊としての格の違いである。
これはナナやイルマ、図書館から精霊のことについて調べたから分かったのだが、精霊には力の強さや成長度合いによって5段階に格付けされており、最低限の魔力を与えられて生まれたばかりの妖精位から始まり、下位、中位、上位精霊の順に進化していくのだが、精霊達の頂点に君臨する精霊王は世界に1体しか確認されていない(らしい)。そして、その格が上がるにつれて、精霊としての能力が強化されるから、今使っているように中位精霊となったナナは闇空間(ただし、動き回るにしては少し狭い)が使えるようになったわけだ。更にこの闇空間は本人が入れようとしない限り闇精霊と闇魔法が使える者以外は入ることも出る瞬間以外は見ることも出来ない。
だからまだ、最近格が下位精霊になったばかりの俺でも闇空間に入ることが出来たわけだ。
「それにしてもさ、ナナってすぐに中位精霊になったけど、こんな感じじゃ、世界には上位精霊とか中位精霊がわんさかいるんじゃない?」
これはナナの成長速度を見た時からそう思っていた。現に入学当初は30センチだったその体は半年経った今では既に125センチとなっており追い抜かれている。…何がとは言わないが、悔しいとだけ言っておく。
「いやー、そんなにたくさんはいないよー。ボクの場合は毎日たくさんテオから直接魔力を食べてるからこんなに早く成長してるだけであって、他の精霊達は基本的に自分から動こうとしないのんびり屋が多いんだー。だから時間を掛けてのんびりと成長していく精霊達が多いからそんなにボク達の上司がいるわけじゃないんだよー」
「へー。ナナが異常なだけだったのかあ」
「……その言い方はちょっと酷いんじゃないかな。それと、あの……誰だっけ」
「グリーヴさん」
「そう、それ。グリーヴさんが諦めて何処かに行ったみたいだよ」
「まじで!? それじゃ外に出ようか!」
「おー」
いや、それにしてもまさかあの時の安請け合いがこんな出来事になるとは思わなかったな。
「ストーカー?」
自分の机の真正面に座っている少女から開口と同時に出たそんな言葉に思わず聞き返していた。ストーカーってあの気になる人とか調べたいあの子とかに気づかれないように四六時中行動を把握してからシャッターチャンスを狙うあれのことだよな。
「うん。実は最近ふと気づいたら後ろから視線を感じることがあるんだ。というわけでちょっとそのストーカーが誰か確かめてくれない?」
「ごめん、まだどんな話がいまいちのみこめてないからもうちょっと詳しく話を聞かせて」
「分かった。えーと…確か、1ヶ月くらい前から何度か寮部屋が荒らされていて、偶に色んな物が取られているの。その時まではまだただの変態かな? って感じで、今度見つけたらしばいてやろうかって話になって終わったんだ」
「うん、確かに秋風さんならそんな変態が出てきてもおかしくはないだろうね」
実際に秋風さんの容姿は絶世の美女とまではいかないが、クラスでトップ3はどこでも狙えるだろうという感じなので、声を掛けたいが声を掛けられなくてモンモンとした気持ちのまま変態的行動に出てくる男子もいるだろう。
「それはどういう意味なのかな…。まあいいや、だけどそこからがちょっと変態にしては変でね、3日前くらいから1人の時はほぼ毎回と言ってもいい位視線を感じるんだけど、その視線が何か嫌な感じがするんだよね。こう……なんていうかねばついたようで気持ち悪い感じじゃなくて、寒気がして何か大事な物でも奪われようとしている……そんな感じかな」
そう言って、秋風さんは震える右手を左手でギュッと握って抑えて俯いた。
……俺の予想だが、多分秋風さんにはその視線と、異世界に来たばかりの頃に襲われたあの視線が重なったんだろう。それがトラウマになっているとかそんな感じだろうな。
「んー……。分かった。そのストーカー捕まえるの手伝うよ」
「本当!? ありがとうテオ君!」
すると、勢いよく顔を上げて俺の手を掴んだ。その顔は見事な笑顔である。
「どういたしまして。それじゃ、作戦会議といこうか」




