56話~受験⑫~
テオ君はそれほどチート的な要素は持っていません。ただ工夫すればなんとか勝てる程度のレベルなので理不尽な力なんかは持っていないのです。まあ魔眼は強くする予定ですが。
まあそんなわけで(?)今回はいつもよりちょっぴり長めです。といっても数百文字程度ですが(笑)
「一応僕は男ですよ。ちゃんとつくものはついてます」
自身のくじ運の無さに半ば思考停止状態のまま呆然としながらも、一応訂正するべきとことはした。別に俺だってここまで顔が女よりになるとは思わなかったんだよ。少なくともこうなる前までは、ちゃんと普通の男の子してたのになんで今は男の娘しなければならないのか。これについてはいくら考えても答えは見つかりそうにならないので無視することにした。
っていうか、これは時間が解決してくれる……よね……?―――
「おう! 嬢ちゃんじゃなくて坊主だったか! ちなみにわしの名前はギルベルトだ!!」
俺の返答に一瞬驚くも「こりゃいけねえ」とばかりに右手で頭をわしわしと掻き、豪快に笑って訂正してくれ、ついでに名前を教えてくれたおっちゃん、改めギルベルトさん推定50歳。別に「わし」っていう程老けているのか微妙なラインではあるがここは気にしないでいいだろう。それにもし聞いたとしても「そんな細かいこと気にせんでもいいだろう!」って感じに笑い飛ばされそうな気がする。絶対この人こんな性格だ。
「……ん? もう戦う時間か。早いな時が経つのは。それじゃあわしらも戦うことにしよう。ほら、坊主も武器を構えろ?」
俺がだらだらと人間位観察をしていると、周りが戦い始めたのもあってか、ギルベルトさんも得物の先に怪我をなるべくさせないようにスポンジのようなものが付いている槍を両手で握って前方に突き出した状態で構えており―――
「ああ。いけねえ、こっちじゃなくてこっちだった」
そう言って槍を背中に背負うと腰にさしている片手剣を鞘から引き抜き、構えた。どうやら俺相手には槍(メイン武器)じゃなくて片手剣(サブ武器)で十分だと言いたいらしい。
「ん、確かに武器は構えますが、ちゃんとギルベルトさんの得意な武器で戦ってくれませんか?」
こうあからさまに手を抜かれるのもの多少癪にさわるんだよね?
……これは言葉には出さずに目で伝えようと試みたがこの意味が伝わったのかは反応を見る限りよく分からない。だけど
「はっはっは! それに気づくってえことはさっきのギラギラして目に痛い餓鬼よりかは多少は出来るってえことだな!! よし! それならこうしよう!! わしはさっき戦った餓鬼には一割の力で倒した。だからお前がその力に対抗することが出来たら2割、その次は3割ってことにしようじゃねえか!」
「分かりました。それでは始めましょう」
俺がそう言うと、おっちゃん――ギルベルトさんは3メートルの間合いを一瞬にしてつめ、俺に上段斬りを仕掛けてきた。だが、やはり一割というべきなのかこれが一割というべきなのか分からないが、スピードは秋風さんに劣っていてイルマと同じ程度だろうか。まあこれならいなせないことは有り得ない。右手に持つ剣を相手の剣の根元に横から当てるようにし、攻撃を逸らした。真っ直ぐにぶつかる合って押し返すよりも、ベクトルの力が働いていない横から力をぶつける方が簡単で、俺みたいな貧弱な筋力な人には重宝できる技だ。
「ほう。中々上手いじゃないか。誰かから仕込まれたのかそれは?」
おっちゃんが興味有り気な目をしながら聞いてきた。その間もおっちゃんの剣は襲い掛かってくるが秋風さんのように素直な剣筋で襲い掛かってくるため全神経を集中しなくても問題なくいなせる。
「いえ、俺は力があまりありませんから剛で対応出来なかった結果ですよ。なんとか試行錯誤して自力で習得しました。まあまだ荒削りですが」
「そうか。自分の実力も把握済みってわけか。坊主、お前本当に子供か? そこらの受験生よりも頭1つ飛びぬけてるぞ?」
「いえいえ。周りが強かったからそうなっただけですって。そんなことより2割にはならないんですか? 一応全部防いでるんですけど」
「せっかちな奴だなあ! まあ坊主のその姿勢は気に入った!! どのくらいの力まで出せるか試してやろうじゃないか! 坊主! 名はなんだ」
「テオです」
「そうか。テオ! それじゃあ2割を飛ばして3割でいくぞ!!」
「はい。って、ええ……」
そう言うや否やおっちゃんは素早く剣を腰に戻し、背中の槍を構えた。やはり、他の熟練度よりダントツで飛びぬけているだけあって先程より隙が圧倒的に少なくなっている。これは迂闊に攻めたりすれば一瞬で負けるかもしれない。そんな気迫もなんとなくだが感じる。
「それじゃあいくぞ!!」
おっちゃんを見るが踏み込んでこない。しかし、何時の間にか目の前に円状の何かが迫っていた。
「っぐ!!」
咄嗟に首を捻ったことで回避し――ここで先程何があったのか理解した。
長槍だ。今おっちゃんが持っている槍はどのような方法でなのかは分からないがさっきよりも長さが1.5倍にまで伸びており、それが俺とおっちゃんとの間の3メートルという距離をあって、無いようなものにしていた。おっちゃんの突くスピードは意外と速い。悠長に構えていればそれこそ俺は簡単にノックアウトされているだろう。詰まる所何が言いたいのかというと、だ。
「そらそらそらあ!! まだ3割なんだが、もう限界かあ!?」
「……っち」
舌打ちしたくなるほどのテンションで襲い掛かってくる突きを全力で集中して見極めないといけないほどピンチです。気を抜いたら速攻で穴空けられるかも。
正直言って、早く4割に突入して欲しい所なんだが。
そう俺が溜め息を吐きかけた所で突きの雨が止まった。
「……ふむ。3割も大丈夫みたいだな。次は4割にいくぞ! 驚いて一瞬で負けるなよ?」
おっちゃんはニヤリと笑って槍の長さが身の丈より少し小さいぐらいの大きさになり、そこでおっちゃんが槍を持って初めて駆け出した。そして半ばで止まると同時に両腕を振り上げ、その先を目で追うと、既に俺の脳天直撃コース目掛けて槍が迫っていた。
「っくお!」
剣とは違ったリーチの長さでタイミングを読み誤ったため、片手剣で咄嗟に真っ向からぶつかり合い防ごうとした。そして視界の端でおっちゃんの口元が歪むのが見えた。
「とうとうミスを出したな。それは悪手だ」
「え? っな!? おっも!!?」
剣と槍がぶつかった瞬間その槍から伝わる力に俺の足は負けて少し体が沈み込んだ。しかし、すぐに上から掛かる圧力がふっと無くなった瞬間地面に影が差し――
「これにてテスト終了だ。学院に入ったらまた会おう。鍛えて欲しかったらいつでもわしの所に来るといい。中々気に入ったぞテオ」
そう言って俺は子を褒める親のような顔をしたおっちゃんを視界に入れながら、掌底をくらったことにより空を飛んでいるかのような浮遊感を味わった。




