54話~受験⑩~
イルマが一番乗りだったせいか他に受験者は見当たらないので、兵士の人達と話しながら待っていた。内容は分からないが笑っているところを見るとそれなりに打ち解けているんだろう。何で初対面の人とあんなに話し込むことが出来るんだよ。俺はすぐにどもるぞ。
……キアーラに出会うまで家族以外と必要最低限の会話しか話さなかったのが原因か? しかも前世のデンションで話していいのか分からなくて若干挙動不審になりながらで。
「……絶対これだな」
「どうしたのテオ君?」
「なんでもないよ。それより、ほら。もう皆集まったみたいだし戦い始めるみたいだよ」
俺が誤魔化すために丁度始まった戦いの方に注意を促すと2人とも真剣な顔で戦いを見始めた。やはり自分がこれから戦うかもしれない相手がこれから手の内を見せるのだからある程度は情報を手に入れておきたいのだろう。
さてイルマと戦っているのは誰だろうかとイルマの姿を探すとすぐに見つかり、相手の兵士を見た時、思わず俺は手を顔に当てて上を向いた。
相手はあそこの7人の兵士の中でずば抜けて高いステータスを持つおっちゃん程ではないが、他の兵士よりは明らかに強いステータスを保持しているあの長身で長い髪の毛を後ろで1本にまとめている女性だった。しかも現状のステータスをイルマと比べてみると魔力量以外でイルマが勝てている部分は無かった。
成る程あいつも運がねえなと思い、イルマを見てみると予想通りというかなんというか普段のニヤニヤ顔はなりを潜め、歯をくいしばって必死の形相で懸命に戦い、それとは対称的に女性は軽々とはいかなくても体重移動でもして瞬間的に力を上げているのか分からないがほとんどの攻撃をいなしていた。
「……イルマ君って弱かったっけ? イルマ君の剣筋って読みづらくて私ほとんど防げてなかったよね?」
「うん。そうだね。俺もイルマのは大体5割くらいしかいなせないよ」
ちなみにここまでいなせているのは元々俺がいなす練習をメインにすることが多かったからこうなっているわけで決して秋風さんが不器用というわけではない。それならあの女兵士はどうなるんだということになるが、ひと言で言うならやはりこれに限るだろう。
「強すぎるんだろう。単純にイルマの方があの戦いではほとんどの面であの兵士に劣っているだけの話だろうな。イルマの強さは私はよく分からないが、リサ達の話を聞く限り決して弱くないだろうし。驚愕するべきはあの女にしてイルマを一歩も仰け反らせるあの力の入れ方だな」
……まあこんな理由でイルマの勝つ道理5割は確実に下回っている
そんなことを話している間にどうやらイルマとあの女兵士は一気に攻めることにしたのか2人は一旦後ろに跳び、そのまま勢いよく地面を蹴って互いに突進していく。口の動きから見るにどうやら叫びながら突進しているみたいだ。そして、後少しで剣と剣がぶつかり合う瞬間、イルマの口元がにやりと歪み体勢を更に低くして地面すれすれを飛ぶように地面を更に蹴った。さすがにこの行動は予想外だったようで女兵士の体が一瞬硬直した。
しかし、さすがというべきか、イルマの脛をなぎ払うように振った剣をすんでの所で跳躍して避け、そのまま空中で反転して、イルマの背中を両足を勢いよく伸ばして踏みつけた。
その際に何故かイルマの気合の声は聞こえなかったのに今回は背中を踏みつけた時に出た凄まじい音は俺達の耳に届いた。そして他の戦いが終わっていたというのもあるが、それでもつい先程まで話していたのも途絶え、その場が静寂で包まれた。代わりに皆の視線は一部に固定されており、そこには踏みつけられてぴくりとも動かないイルマを中心にひび割れた石の床。その側にはおろおろと右往左往しているさっきまで冷静だったはずの女兵士。さっきまでの冷静な性格はどこにいったんだよ。今こそ発揮すべきじゃないのか?
「………イルマ君、死んでないよね」
そんな中秋風さんがぽつりと呟いた言葉は試合場によく響いた。
「えええ!!? もしかして死んじゃったの!? ねえ君大丈夫!!? とりあえず体はどこも動かさなくてもいいから腕を上げて!!?」
さっきの懸念の声が女兵士の耳に届いたのかより一層狼狽し、予想外に涙目な声でおろおろとイルマの背中をバシバシ叩いたりグラグラ揺らしたりしており、言葉の内容も最早混乱しているのか矛盾している。
これは俺が連れ帰った方が良いかと思い、試合場へと足を向けると目の端でイルマがよろよろと起き上がるのが見えた。イルマは俺らの中では体格的に頑丈な方なんだが。いよいよ急いだ方が良さそうだ。
今回はイルマはネタに走りませんでした。
さすがに背中を床に皹が入るほど踏みつけられちゃあね・・・^^;




