50話~受験⑥~
俺の言葉に反論をしたことでなにやら勢いが戻ったのか刃を潰した片手剣を抜いて、2人は構えた。どうやら奇襲されたショックから漸く立ち直ったらしい。一気に俺に殴り飛ばされないようにジリジリと二手に分かれながら背を試合場の中心に向けるようにしている。
2手に分かれられるのは面倒くさいな。いっそのこと気絶をねらうか?
「っは。 こんな貧弱な体のチビに簡単に負けるわけがないんだ! さっきのも偶然だ!」
「そ、そうだな! よし! 挟み撃ちするぞ!」
「応!」
悪がきDが先ほどの出来事を無かったかのように自分に言い聞かせている。っというか、この見た目からさっきの光景が生まれたことが信じられないようだな。俺の周りにはそういった現実逃避を本気でする人はいなかったから本当に新鮮だ。かなりいらいらするのも事実だけどね。……一気に攻めるか。
そして俺は頭の中で一連の行動をシュミレーションし、未だ身体強化されている状態で悪がきDの背後に振り向かれる前に近付いた。
そして目を見開いて驚きのためか、一瞬体が硬直した。俺は卑怯宜しくとばかりに肩甲骨目掛け、剣を勢いよく突き出す。……正直に言うと、俺の腕力が落ちすぎて単純に斬るという行為じゃ、西洋で作られるような剣は叩き潰すタイプのものが多いため俺に合わないものが多い。だから、突きという当たる面積が小さく、やろうと思えば中々の速度で出せるこれが俺にとっての最善の策だ。
「ッッ痛ッ!!」
「せあ!!」
そして穴は開いていないが勢いよく突かれたことによって悶絶している悪がきDを正拳突きで殴り飛ばした。今回はギリギリ場外というところだろうか。そもそも本来はこの突きも2,3メートルも飛ばせるほど強くはないのだが、如何せん相手が突かれた痛みで無防備だ。だから易々と飛ばすことが可能なのだが……。
「調子に……乗るな!!」
「!! っち」
攻撃後の硬直をねらって、悪がきEが横から頭目掛けて剣を振り下ろしてくる。
……このタイミングじゃ完璧に防ぐのは無理だな。
そう思い左腕でなんとか襲いくる剣をいなそうと構えていると急に悪がきEの顔に何かが当たり、悪がきEは吹っ飛ばされ、その場所にはごついナックルが握りこぶしの状態で止まっていた。
「大丈夫か? 最後まで気を引き締めないと簡単にやられるぞ」
腕に沿って視線を顔に向けていくとそこにはメリッサさんがいた。その男前な喋り方のまま行動してたんですか。まあいいや。俺はそれにそれとなく感謝の言葉を返しつつも先ほどの飛ばされた悪がきEを探す。そして悪がきEを探している間に少量の合図が聞こえた。どうやら大分数が減っていたようだが構わず探す。
そこまで遠くにはいないだろうなと思い近くから探し始めるが少しして見つかった。
……10メートル先に。
いやいやいやいやい。可笑しいだろ。
「あの、メリッサさん?」
「なんだ」
俺は審判の元にいこうとしているメリッサさんを呼び止めるとすぐにこちらの方を向いてくれた。
「さっきあの悪が…男にしたのはただ殴っただけですか?」
これだ。メリッサさんは確かに年上で女性ではあるが俺よりも身長が高いということもあって多少は力は上だろう。だからあの悪がき達なら無防備な状態な時に全力で殴れば吹っ飛ぶことも予想はできる。
…だけど10メートルは無いだろうよ。
そこで考えたのがこれだ。
恐らくメリッサさんは天才的に見た目の細さを見事に騙すような馬鹿力であるという例外を除いて、俺が知らないなんらかの身体強化の術を知っているんだろう。それが魔法を使ってなのか、別の何かなのかは知らないが。少なくとも俺は例外はありえないだろうと思う。何故なら俺が襲い掛かられる寸前に見たメリッサさんの位置は俺から軽く見積もっても10メートルはなれていたからだ。普通そんな遠くから一瞬で辿り着けるか。
そして半分予想通りの言葉が返ってきた。
「ふむ……まあ確かに殴っただけとも言えるがそうじゃないとも言えるな。偶に全力で動こうとする時に体の内側から何か熱いものが噴き出してくる感じがして、その時は普段とは段違いの動きと力になるんだよ。これが何かは分からないんだがな。テオ君は何か分かるかい?」
なんと、まさかの魔力以外だったのか。っていうか残念だ。俺に少しでも素質があるなら教えてもらおうと思っていたけど、メリッサさん自身がその力の正体が分からないんじゃ仕様が無いよな。
「いや……僕にもよく分からないです。もしかしたら僕の友人が知っているかもしれないので一緒に観戦ながらその時に考えてみませんか? その力の正体が分かれば更に強くなるかもしれませんよ?」
そしてあわよくば俺にもその使い方を教えてくれ!!
「ん……そうだな。特に誰かと来ているわけでもないから一緒に行こう。それと君の主流は徒手空拳なのかい?」
そして俺達は審判の所でまた紙を貰った後、イルマの元へと向かいながら話を続けていた。
「徒手空拳……まあ、拳主体ですけどそうですね。メリッサさんも徒手空拳が主流なんですか?」
流れからしてほぼそれで当たりだが、念のため聞いてみるとやはり首肯した。
「ああ。私も徒手空拳が主流で、よく手甲をはめて修行しているよ」
「へーそうなんです…か」
「ん? どうかしたのか」
「い、いや。なんでもないです」
言えない。すっかり手甲の存在を忘れて今までずっと素手で岩とかを殴って修行してきたなんて絶対言えない。




