49話~受験⑤~
目の前の女子が言ったことを言葉通りに理解するのに数秒の時間を取ってしまい、咄嗟に「は、はあ…」っていう肯定なのか否定なのか曖昧な返事をしてしまった。
そして、返答した後にすぐに湧き出た疑問を口に出した。
「……何で僕なんかと手を組むのでしょうか? この通り貧弱な体をしていますが?」
まず、さっき俺が他の受験生から恐喝紛いのことをされて、それに対して俺は特に何の反論も抵抗もせずただ俯いてるという、取り巻きから見たら年上からの恐喝に怯える年下という光景が成り立っているのは間違いないだろう。しかも、それが行なわれた場所は人目が無い場所ではなく、寧ろ視線が集中する試合場のど真ん中で実行されたのだから知らないから声をかけたということも有り得ない。
よってここから割り出される答えが、受験生の中でとりわけ正義感、もしくは年下趣味のある人が、俺が5人の屈強な受験生に恐喝されている場面を目撃し、被害者である俺は怯えているように見えた。そこで可愛そうに思ったその人はなんとかしてあげれないだろうかと思い、ならここだけでも手を組んでから合格の手助けをしてあげよう! という考えに至った。とかそんな感じだろうか。
「別に同情してもらわなくて結構ですよ?」
俺が若干不機嫌そうに言ってみると目の前で黙って微笑みながらこちらを見る彼女は首を横に振った。あれ、違うのか?
「私は同情なんか塵ほどもしてないわよ。寧ろ君はあのくらいなら倒せる実力を持っているんでしょう?」
「えっと……どうしてそう思うんですか?」
「普通なら予想しなかった出来事が起きた時、反抗するか、体のどこかが震えたりなにかしらの行動を良かれ悪かれするもんだけど。君はただ、顔を見られないよう下を向いていただけだったじゃない。まるで相手にする気が起きない程の雑魚に相対する時のように、ね。……それで、どうするの? 手を組むの? 組まないの?」
おおう……何でここまでばれてるのかは知らないけどこの人洞察力凄いな。っていうか別に見た目どおりの実力を装う必要性は皆無なわけなんだから普通にこの人と組んでもよくね? どのくらいの実力かは分からないけど、後ろから刺すような真似はしないだろ。
「分かりました。こちらこそよろしくお願いします。テオ・ウィステリアです」
「ん、よろしい。私の名前はメリッサ・ディルグランドよ。一緒に頑張りましょうウィステリア君」
俺が笑顔で了承し、握手を求めるとすぐに彼女、ディルグランドさんも先ほどから変わらない微笑みを顔に貼り付けたまま、俺の手を握り返した。その手は女性の手にしては硬く、甲も多少の傷がついていたから何かしらの修行を丹念にしていることが容易に分かった。こんだけ手の平が硬いんだから多分強いんだろうな。
「はい。それとテオでいいですよディルグランドさん。堅苦しいのは苦手なので」
すると急にディルグランドさんから笑みが消えて、表情が一変した。さっきまでは微笑み続けていて、なんとなく気品のようなものを感じさせていたが、今は表情が凛としていて、微笑みはしているのだが、気品があるというより挑発的な、獰猛な笑みを浮かばせている。
「そうか。なら遠慮なくテオ君と呼ばせてもらおう。後、敬語は止めさせてもらうぞ? あれは私にとって中々肩が凝るものなんだ。それとテオ君も私のことをメリッサ呼んだらどうだ?」
「あ、はい。分かりました……メリッサさん」
あるぇ? なんかメリッサさんが急に男らしくなったぞ?
それになんか、纏う雰囲気もそこらへんの男に負けていないし。
メリッサさんは敬語が素だと思ってたんだけどな。思わず声で動揺しているのがばれそうになったじゃないか。
そこからは簡単な打ち合わせをしていると試合開始の合図がなった。
「それでは、武運を祈る!」
「メリッサさんこそ」
そう言うとメリッサさんは他の受験生のもとへと走り去っていった。その顔は何処か嬉々としていたのを見て、俺は若干戦慄した。もしかしてあの人戦うの好きなのか?
ちなみに手を組むというのはごく単純なことで、基本的には個々で受験生の場外の数を増やし、多対一で負けそうになったら助けにいくという寸法だ。要するに基本1人でもいける自信はあるが万一のことに備えて保険として手を組むことにしたんだろう。
「さてと、俺はどうしようか」
適当に周りを見回すと近くにさっき俺のことを散々馬鹿にしていた男達が5人纏まっていた。……丁度良い。あいつらの後ろは場外だからここはさっきのちょっとした恨みも含めて実技は失格にさせるか。
「いよっし!!」
気合を入れ、電気属性を体に流しこんで身体能力を上げた。
そして俺は一瞬であいつらの目の前に現れ、一番俺を罵っていただろう男を場外に向けて殴り飛ばした。
「っうあ!!」
「んな!? お前は!!?」
「1名様ご退場お願いしまーす。ってか?」
俺が悪がきAを殴り飛ばすと男達はすぐに臨戦態勢を――とる前に続けて悪がきB,CをAと同じように殴り飛ばした。
「お次は2名様ご退場お願いしまーす」
「お、お前! 奇襲をかけるなんて卑怯だぞ!!」
「卑怯で結構。勝ち残れるなら何でもするさ」
自然と俺の口元には嗜虐的な笑みが生まれていた。
ああ……やっぱ俺もこういうこと好きなのかな。




