5話~探検前日~
あれから数ヶ月経ち、季節は夏から冬に変わっていた。
その数ヶ月の間、なんとなくスキルや体を鍛えていた結果、自分のステータスを見ることが出来るようになっていくつかスキルや能力値の秘密が分かるようになった。
例えば、能力値はその能力値に見合った行動、つまり体力なら走り続けることによって上昇する。そのため毎日暇つぶしに川を泳いだり、散歩していたことで体力はそこそこついているらしい。だが、上昇率も関係しているらしく人によって伸び方が違うようだ。
ちなみに俺は力があまり上がりにくいらしい。
……ん?ということは俺、将来身長が伸びる見込みなし!!?
「い、いや。きっと気のせいだ。今力が無いのは単純に子供だからだ。成長期がきたらきっと伸びるさ」
俺は釣り糸を垂らして魚を待っている間に出てきた想像を打ち消した。いくらなんでもそれはないと信じたい。そして魚が引っ掛かると俺は力負けして川に落とされないように気をつけながら釣り上げた。最近力が微々ながら上昇してきたから前より少し大きめの魚が釣れるポイントへ移動したのだ。
釣りスキル――恐らく俺が今持っているスキルの中で最も熟練度が高いスキルの一つだ。
そしてそれが上昇するとどうなるか詳しくは分からないが、体感的にはどの場所に魚がいるかがなんとなくで分かり、魚を釣るタイミングが頭ではなく体で分かるようになってきていた。
釣った魚をいつも通り食べるために木の枝で突き刺して乾燥した小枝と葉などを積み重ねて燃えやすいようにした。ここで以前なら小枝と小枝をひたすら擦り合わせて火をつけていたのだが、今俺には魔法で火を出すことが出来るのだ!
しかし、初めて嬉々として魔法を使った時は、そう上手くいかず、火を起こすのを通り越して一瞬で灰になってしまった。
そしてようやく加減を覚えたから枝が中々見つからない日でもかなり快適に魚を焼けるようになったのだ。
そしてこんがり焼けた魚を頬張りながら、スキルについて考えていた。
いや、考え続けないと暇なんですよ。
スキルというのは恐らく才能を目で見えるようにしたもののように見えるが、少し違って実は努力によって得られることが出来るもののようだ。これに気づいたのは軽業のスキルを手に入れた時。
これは暇な時に『倒立とか側転って格好良いよね?』って思って練習していたらスキル覧に追加されたのだが、最初は倒立すら出来なくてまさかの運動神経の低さに落ち込みはしたものの現在まで毎日かかさず練習していたら、いつのまにか跳躍力が上昇していたりバック転が軽々と出来るようになっていた。
……いつかは壁も走ることが出来るんじゃね?
実はそういう忍者みたいな動きをしたい一心で練習しているというのは秘密の話である。
他にも人間観察や動物の動きを見ていたら、身につけた観察眼や石を目標目掛けて投げることをして手に入れた投擲など、便利なんだかそうじゃないのか分かりにくいスキルも習得していた。
そんなことを考えていると、背後から誰かが近づいていることに気づいた。
これはセリアの悪戯にびくびくとおびえていたら付いた弱者の本能の効果で、ちょっとした身の危険を数秒前くらいに察知することが出来るのだ。
…偶に外れるけど。
振り返ると同時に「ひゃあ!」っと体をびくりと震わせて驚く、このスキルを手に入れることになった張本人がいた。
「姉さん…。背後からこっそり近づいて悪戯しようとしないでよ」
俺は呆れるように目の前で悔しそうな顔をしている姉に言った。が、今回おどかす気は無かったようで、本人曰く「無意識にやってしまうんだから仕方ないじゃない」だそうだ。
俺はセリアが毎日朝早くに出ていって夕食の時に帰ってくる俺を心配してちょくちょく様子を見に行っているのだと、母が笑いながら「お姉ちゃんには内緒よ?」と密告したのを思い出した。なんでも俺は生まれた時少し体が弱い子だったため、セリアやカーンは俺が読書三昧の時によく「運動して頑丈な体になりなさい」と言っていたのだ。あの歳から家族を思うって凄いね。
「それで、今日は何の用があって来たの?」
「それはね、家族には内緒でちょっと探検をしようとしない?」
俺は嫌な汗が流れているのを感じた。セリアがこの悪戯をする前の笑みを見せた時は大体ろくなことがない。
どんな危険な場所を探検するつもりなんだ…。
「…それで、どこを探検するつもりなの」
「この川の上流にある滝の奥にある洞窟よ」
「ふーん」
この川の上流に滝なんてあったのか。この川は下流でしか釣りをしてないから気づかなかったな。
「それで、どうするの?」
「僕が姉さんに付いて来るかどうかだよね。僕が付いてこなかったら姉さんはどうするの?」
「勿論一人でも行くわ。きっとあの洞窟の中には面白いものがあるに違いないのよ!」
――姉さんってトレジャーハンターでもしてたっけ――。
いかん。このまま一人だけで行かせたらなんか帰ってきそうにない気がする。
俺は必死で探検を止めさせる良い説得を考えていたが結局思いつけなかった。
「…僕も一緒に行くよ」
「ほんと! それじゃ明日の朝から出発よ!!」
そう言って姉は一瞬で走り去っていった。
そして俺は溜め息を吐いて、気晴らしに釣りを再開した。
「テオ。準備は出来た?」
翌朝、自分の部屋で念のために包帯や散歩中に見つけた薬草などを鞄に詰めていた時にセリアが様子を見にきた。
「出来たよ。って、姉さん。…その手に持ってるのは?」
大丈夫だと言ってセリアの方を向くと何故か両手に青銅の短剣が一本ずつ握られている。
「え? 探検してる時に何か危険があった時に対処できなきゃいけないでしょ?」
「それはそうだけど…」
俺は続きを言うのを止めて「行こっか」と促した。
少し怪訝そうな顔をしたけどすぐに考えるのを諦めて、俺に左手の短剣を渡してきた。
「それじゃ、急いで行きましょうか」
「うん」
…きっとどこからこの短剣を持って来たかは聞くべきじゃないんだろう。
川沿いを進んでいくとすぐに水が激しく流れ落ちる音が聞こえてきてそれからあまり時間が掛からずに滝の前に到着していた。
だが、洞窟へと入る入り口のようなものは見当たらない。
「姉さん。洞窟へはどうやって入るの? 入るには滝を強行突破するようにしか見えないんだけど…」
姉はステップするように滝へと近づいていった。
「さすがにそれはしないわ。確かここらへんにあるはずなんだけど…」
そう言って滝の近くの壁を叩いたり押したりして隈なく調べている。そしてある場所を押すとそこの周囲だけ扉のように開かれた。
「あった! それじゃ、入りましょ」
「姉さん。どうやってこの隠し扉見つけたの・・・」
「テオを探している時、暇だから滝を上から見ようと思って崖登りをしていたら偶然見つけたのよ」
「それ暇だからすることじゃないし偶然にもほどがあるよ!」
隣で叫ぶのを笑顔で無視してセリアは洞窟へとすぐに入っていった。




