4話~慣れ~
今日は大晦日というのもありますので普段より少し多めに書いてみました^^
書斎でこの世界の情報収集を始めてから数年が経過して、最初の1年で既に俺は家族内で変人と見られていた。
まあ、ただでさえこの村では本を読む子供は二人いるかいないかなのに、3歳の子供が一心不乱に大人でも頭が痛くなりそうな分厚い本を読んでいるから当然と言えよう。
その後の1年は、急に出来た暇をとにかく持て余していた。
前の世界でならここですかさず、ゲームやパソコンという言葉が出てくるがここでそれは存在しない。
セリアやカーンの友達と遊んでいても時々素が出て途中から奇妙な顔をされてしまう。
そこで俺は、父の所に度々相談にやってくる村人に話し相手をしてもらったり、村全体を散歩して何か楽しめそうな場所はないかと日々を過ごしていた。
このような自由きままな生活をしていた時に気づいたのだが、ここでは放任主義が一般的らしく、朝外に出て行って偶然見つけた川で夢中になって夜に帰ってきたときも、特に咎められずに夕食に参加できたのだ。
この生活を続けてもう1年経ていた。
「子供にとっての2年は早いなー…。っと、きたきた」
生まれて初めてする魚釣りを日課にして早半年。小慣れた手つきで魚を引き上げた。
この川では子供でも釣ることが出来る程度の魚しか出てこないので考え事をしながらでも出来る。
そして、釣った魚を木の枝で刺してから火で焼いた。
この動作も慣れたものだが、どうにもおかしい。慣れ方が順調すぎる。
どうにかして自分のステータスでも知ることができたら良いのだが…。
「ステータスを見たいって思ったら出てくるのかな。――っな!?」
疑問に思ったら試してみる。この世界で始めて身に付けた心構えだ。一応冗談のつもりでもやってみる価値はあるだろう。
だが、ふざけた気持ちとは裏腹にその通りに知りたいと強く思ってみると、頭の中にゲームでよく見る図が出てきたのだ。
これは、この2年間の中で一番驚いたことじゃないだろうか。
よく見ると、名前の下にレベルと能力値が書かれてあり、その下にはスキルがある。しかもスキル名は今までの生活で培ってきたようなものばかり。
「まさか出てくるとは思わないよ…。ちゃっかし、釣りスキルとか制作スキルとか入ってるし。能力に至っては…魔力?」
釣りスキルの横の数値が他のスキル名のものよりも何故か頭一つ高いのも気になるが、能力値のところを見ると一番下に魔力と書かれてあり数値が10と他の力や俊敏さよりも少し高いことに、すぐにある疑問が思い浮かんだ。
「もしかして…。魔法の素質あり?」
そう思った瞬間、体がうずうずし始めた。まさか自分がそれを使えるとは思っていなかったからこれは良い想定外だ。
「ま、まあ善は急げとよく言うし…」
俺は急いでこんがり焼けた魚を食べて、書斎へと走っていった。
「確か”魔法の心得”だったよな。題名からしてあれが多分入門書だろ」
実際は読破している時に他にも見つけたのだが、専門用語が多すぎて理解出来なかったのだ。受験勉強でこういうのに慣れていなかったら5分で数時間寝れる自信はある。あの頃はきつかった…。
昔の受験生時代を思い出すと、あの頃は辛かったと誰しも思うのではないだろうか。
…まあ俺は結局志望校に落ちてしまい、あの努力が水泡に帰してしまったのだが。
ふと、あの頃を懐かしんでいる間にも子供の手でも届く高さのところに目的の少し古びた本を見つけて、すぐにそれを取りテーブルにのせた。
もちろん以前に読んだことがあり、内容もなんとなく理解できたので一応確認程度に開くだけである。さすがに屋内で実験をするのは危険だし、外に本を持っていくのも気が引けるからここで手順を覚えることにしたのだ。
「とりあえず何か簡単なものは…。うん、この手から火を発生させる魔法がいいな」
魔法に名前は付けられてないらしく、ほとんどが文字で説明するか絵で描かれてある。
その中から最初のページの方に紹介されてある火の初級魔術を実験することに決めた。
だって、大体のゲームで最初に覚えられるのが火の玉を出す魔法じゃん。
魔法書を元の場所に戻して書斎から出ると。丁度玄関にふくよかな体型をした、見るからに明るそうな男性がいた。
「こんにちは!」
俺は子供特有の無邪気な笑顔で挨拶して、忘れずにお辞儀をした。
すると、俺の存在に気づいた彼は笑顔で挨拶を仕返した。
「おお、こんにちは坊や。行儀が良い子だねえ。うちの子にも君を見習って欲しいものだよ」
俺は苦笑して、外に出た。今ぐらいの子供はそんなに礼儀がなくても大丈夫だろうに。
(荷物の多さを見ると、さっきの人は他の町から来た商人かな?)
別にこれといった確証はないのだが、村の近くに停められた馬車の荷が普通の人にしては多いからそう考えて良いのだろう。後で聞いてそうだったら商品を見せてもらってみよう。
そう考えている間にもさっき魚を食べた場所に着いていた。
まあいいや。そのことは魔法が出来るか試してからにしよう。
「よしっ! まずは集中だな」
どうやら魔法を使うための共通の手順は集中すること。…そりゃ当然だろ。
そして次は火を点すイメージをする。
(イメージねえ…。とりあえず指先にでもするか)
イメージしやすいように目を閉じてみた。
そして、指先に火がつくように念じてみる。
すると予想していたよりも時間がかからずにぽっと小さな音がして、指先に何か奇妙なもので包まれている感覚がし始めた。
目を開けてみると実際に指先に蝋燭ぐらいの大きさの火が出来ていた。
「ふう…。出来てよかった」
「なにが出来たんだ?」
「うわ!?」
魔法が出来たことに安心して息をついた瞬間に、背後から不意に声を掛けられた。
「ほう。君は魔法が使えるのか。この村にしては珍しいな」
驚いた時に消えてしまったが俺が魔法を使っていたのが見えたらしく、後ろにいる可愛らしい格好に似合わない口調の少女が少し驚嘆していた。
「だけど、今はこれしか出来ないから全く実用的じゃないけどね。それにしても君は誰なの?」
「私より君が先に名を名乗れ。聞いた方が先に言うものだろう?」
目の前の少女は俺を見下ろしながら言った。少し話し方にむかつく。
…が、確かに道理には合っているから俺は渋々名乗った。
「僕の名前はテオだよ。それじゃ今度こそ聞くけど君は?」
「テオか。顔に似合わない勇ましい名前だな。私の名はアレシアだ。そしてさっき君が魔法をしていたが、使い方がなっていないな。まるで魔力を集中出来ていないじゃないか」
いきなりの辛口評価にむっとした俺は少し刺刺しい感じに言ってみた。
「それならアレシアさんは魔法を使えるんだろ?」
勿論俺は魔法を使えないものと思っていたが、アレシアは胸を反らして言った。
「ああ。少なくとも君の魔法が話しにならないくらいには使えるぞ。なんなら今からやってみせよう」
は俺の返答も聞かずにその場で集中し始めた。手に力が入っているのを見たところ手の平で魔法を発動させるつもりなのだろう。
するとアレシアを中心に異質の空間が出来たような感じがして、ふと自分の腕を見ると鳥肌が立っていた。
この嫌な感じがして数秒後アレシアの手のひら大の火の玉が完成していた。このぐらい大きいとぶつけたらただの怪我では済まないんじゃね? 嫌な思惑が一瞬頭をよぎってしまった。
「ふう…。どうだ? まだまだ本気を出せばこんなものではないのだぞ?」
アレシアは大量に流れ出た汗を拭きながら、誇らしげに自慢してきた。しかしこの様子を見るとさすがに最後のは見栄を張っただけだろう,疲れすぎだ。
「確かに君は凄いね。それにしてもその大きさの魔法はどうやってするの?」
好奇心でなんとなく聞いてみると、俺が負けを認めるようなことを言ったからだろうか。
少し上機嫌になったアレシアは偉そうな口調で答えてきた。
「私みたいに教育を受けている者はやはり無知の者には手をさしのべてやるべきだろう。ちょっともう一回さっきのを出してくれないか?」
無言で頷いて、先程と同じように発動してみると蝋燭のような火がともった。
「ほう…。君は基本を理解していないみたいだが、周囲の魔力を利用したらどうだ?」
「周囲の魔力? そんなのがあるの?」
「はあ? 当たり前だろう。周囲には魔力が満ちている。だからそれを自分の体内に取り込んで一時的に魔力を増幅させるんだ。分かったか?」
「う…。り、理解できた」
まさかの罵倒に戸惑いながらも俺は周囲にあるらしい魔力というものを意識…してみた? よく分からんが火を出す前に周囲の魔力が自分の中に入っていくようなイメージをしてみた。
「ぬ…。その調子で集めるんだ」
隣のアレシアの声を軽く聞き流してそのまま集中し始めた。
そして途中から脳が締め付けられる感覚がし始めたあたりで、魔力を取り込むことを止めて指先に集中した。
すると、すぐにアレシアの火の玉よりは小さかったが最初の火の2、3倍くらい大きさになっていた。
「ほう…。もしかしたら君は魔術の才能があるのかもしれないな。…あ、もう時間のようだから私は戻るとするよ」
俺は指先についた火を消しながら聞いていたが、ふとアレシアは思い出したように言った。
「そうなの? じゃあねー」
「…」
「…? どうした――って痛い!」
手を振って別れようとしたが、目の前の亜麻色の腰まで届く髪をほどきながら少女は何故か俺をじと目で見ていて、少しの沈黙の後に俺の頭を叩いた。
「普通、何か獣が出るかもしれない森の中を可憐な女子に一人で歩かせないものだろう! その…、まあ、あれだ。…付き添えと言っているんだからはやくする!!」
俺は恥ずかしそうに顔を赤くしたアレシアを見て、内心微笑ましく思った。
あれだ、いくら俺がそういうのに慣れてなくてもさすがに精神年齢の高さで余裕が出るんだろう。
ここは少しふざけてみるか…。
俺は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「分かりました、お嬢様。それでは行きましょうか」
「う…うむ」
小さくアレシアは俯いたまま頷いた。言い出しっぺなのに恥ずかしいらしい。
村に帰りついた時には既に夕方になっており、どこまで付き添えばいいのだろうか、と思っていたのだがどうやら父のところに来ていたあのふくよかな男性。つまり商人の娘のようなので、結局家に辿り着くまで一緒に来ていた。
「それじゃ、ありがとう」
「うん。今日は魔法教えてくれてありがとうアレシアさん」
そして軽くお礼を言って俺は家に入ろうとした。
「あ、少し待ってくれないか? すぐ済むから」
そのまま待っているとアレシアはバッグから綺麗に輝く小さな石がついたネックレスを取り出した。そしてこれを見て少し考えた後、意を決したように言った。
「少し目を瞑っててくれ。見られるのは恥ずかしいからな」
目を瞑っていると首に冷たいものが触れる感じがして、頬に何か柔らかくて温かいものが軽く触れる感じがした。…ん?
「…え?」
「ふふふ…。久しぶりに楽しかったからこれはお礼だ」
慌てて目を開けると頬にキスをして少し楽しそうな顔をしたアレシアが商人のところに戻りながら言った。
あまりに想定外なことにしばらく呆けていたが、はっと正気に戻った俺は慌てて動き出そうとしている馬車に手をぶんぶんと振った。
その後食卓でこれが良い話のネタになったというのは言うまでもないだろう。




