44話~魔眼~
「それで、私に何か言うことはないの?」
挨拶の次に出てきた言葉がこれである。言葉だけを見るならば怒っているようにも見えるのだが、実際は全く怒ってないようだ。入ってきた時に着けていたメガネでちゃんと秋風さんが魅了【強】という状態になっていることは確認済みなので性格が大分変わっているのは確かなのだが、いつも通りの表情の読み取り方で大体あっているようだ。っていうか、【強】ってなんだ。【強】って。どんだけ悪化してるんだよ。
そして言うことか。怒っていないとはいえ、やっぱり電気で気絶させちゃったのは悪かったかな? ここはそれを確認してみよう。
「……さっき、電気で気絶させちゃったこと?」
「うん。それについては私は特に何も怒っていないけど強いて言うなら…」
「……強いて言うなら?」
よし、魔眼の使い方は分からんがとりあえず解除するようなイメージで見つめてみよう。多分目元に意識すればなんとか発動出来るだろう。笑ったら勝手に発動したんだからなるようになるはず!
そして俺は秋風さんの言葉を待ちながらそれとなく眼力を強めてみた。勿論魅了出来るならその逆も可能だろうという希望を篭めて、である。
「んー…ならハグをしてくれないかな? やってくれたら許すよ」
おお、魅了【中】に格下げされたお陰で気のせいか要求が少し柔らかくなった。やってみると出来るもんだ。っていうことは後もうちょっと目に気合を入れればまだ下がってくれるかな?
そう思い、秋風さんを軽目に外人が挨拶をするようにハグをした後に秋風さんの目をじっと見つめた。なんとなくだが、魔眼で魅了というだけあって、相手に魔眼を見せなければ発動しないような気がするんだ。だって見られてないのにいつのまにか魅了されてましたじゃ、何か間違っているよ。うん。
「……うん? ちょっとテオ君大胆だね。どうかした?」
じっと見つめ続けること30秒。ようやく魅了【弱】に更に格下げされ、秋風さんの目にも若干のハイライトが戻り、普段の理知的な光が宿っていた。
そして大分性格の方も戻ってきたのか、朝よりもかなり軽目のハグなのに不思議そうに上目遣いで俺のことを見ていた。もうこの辺が掛かった当初と同じくらいの反応だろうか?
「いや、なんでもないよ。一旦イルマの所に向かってから朝御飯を食べよう」
ここで、俺は普段の秋風さんに接するような態度に戻した。
さて、イルマの方は何時頃に完成するのかな?
「イルマ。入っても大丈夫か」
「大丈夫だよー」
今回は特にドッキリ作戦をするつもりもなかったため、普通にノックをして返事を聞いてから入った。そして秋風さんはさっきまでのニコニコ顔は何処に行ったのやら消えていて、代わりに今目が覚めたかのような半目で眠そうな顔をしていた。うん、まあ昨晩から終始笑顔を貼り付けたみたいだったから俺的にはこっちの無表情に近い方が落ち着くな。
やっぱり静かなのが一番だ。
そして中に入ると、先程とは違ってシーツは整えられ、イルマ自身も身だしなみをきっちりと整えていた。しかし、後ろ髪が数本はねてるぞ。
「……イルマ君。身だしなみは整えているみたいだけど後ろが少しはねてるよ?」
俺が心の中でツッコミを入れていたところ、実際に秋風さんがしてくれた。するとイルマはわたわたと魔法や櫛を使って寝癖を直し始めた。
「それで、結局成功したのかいテオ?」
「ああ。まあ一応何段階かは下げたから後少しかな?」
「えーっと。テオ君とイルマ君は一体何について話してるの?」
話についていけていない秋風さんが割り込んできた。だけど、さすがに本人の事だよ。と言う訳にもいかないので適当に目を見て誤魔化しながら、魅了【弱】を解除できるか試してみた。…まだ解除できないようだ。やっぱり見つめた時間の長さで解除できたりするのか? これは。
ちょっとした疑問を残しつつも俺達は朝御飯を食べるために食堂に行った。
「……っお」
「あら?」
「どうかしたか?」
食事中に急にテオが声を上げた。そして同時に目をパチリと開きキョロキョロと辺りを見回している理沙。それらにイルマは怪訝そうな目を向けていた。
「いやさ、ようやく秋風さんの魅了が完全に解除出来た」
「成る程。それじゃあ早速これを着けといて。なんか、魔眼って特徴的らしいから念のためカラコンも造っといたよ」
「サンキュー」
俺は秋風さんを元に戻せたことを告げると、イルマは何処から出したのか、何時の間にか手の平には簡素な銀色のブレスレットと黒色のカラーコンタクトが乗っていた。それを俺は取って早速、着けた。ステータスを確認……魔眼の部分の色が灰色になっている。さすが創造の魔法だ。チート羨ましい。後カラコンは後で部屋で着けよう。前世でメガネ派だった俺には少し恐怖心があるからな。
「ちょっと! 魅了って一体どういうこと!?」
「なんとなく覚えてるんじゃない?」
実際に見聞きしているんだから覚えているだろうという仮説を立てて尋ねてみた。
「そんなわけない……じゃな………ぃ………うああ!!?」
最初は食いつくように反抗していた秋風さんだったが、徐々に尻すぼみに声は小さくなっていき、しまいには頭を抱えてうめき始めた。やっぱり覚えていたんだろう。
……黒歴史決定おめでとう。




