42話~脳回路混乱~
今回テオは一歩も動いておりません(笑)
普段より少し早い時間に起きてしまったようで、まだ外は薄暗い。そして夢であれば良かったと思ったが昨日の寝る直前の記憶は鮮明に覚えている。どうやら夢ではなく本当にあったことらしい。それならすぐにイルマを叩き起こしてあのメガネを借りてから秋風さんを診ないとな。
俺はそう思い、体を起こそうとした。が、何故か右手右足だけが万力に挟まれているかのように微動だにしない。そして俺を挟んでいるものは木や鉄のように硬いものではなく肉感のある柔らかい感触がするものというのがなんとなく分かる。そして俺が入ることによって盛り上がる布団の面積が明らかに広すぎる。
……いや、まさかねえ。ちゃんと土壁でお互いに侵入できないようにしといたし。
俺は嫌な予感がするのを抑えながら布団を捲った。そして視界に入る布団の静電気により乱れている俺のものじゃない黒髪。更に捲ると俺を捕獲しているものの全貌が明らかになり、そこには勿論のごとくすやすやと気持ち良さそうに寝ている秋風さんが俺の右半身に腕と足に絡み付いている状態でいた。なにこれ。
「……なるほど」
ふと横を見ると、確かに土壁は存在していたが人1人が入れる大きさの穴が開いていた。恐らくだが、秋風さんがここに召喚されたことで手に入れた馬鹿力で粉砕したのだろう。
……どうやら寝たくらいでは治らない類のようだ。
そして、はやくこの万力から脱出したいんだがどうやって抜ければ良いんだ? 右腕の感覚が全く無いんだが。
「…………」
試しに右腕に絡まる秋風さんの右腕を外そうとしてみる。…真面目に力を篭めても一ミリも動かない。本当にこの姿になってから前よりも腕力が下がったようである。いやまじで。
昨日スペックを確認していると、どうやら腕力はナナのスペックを多く受け継いだようで大体前の俺の腕力の7割5分程になっていた。只でさえ3人の中で軒並み腕力が低かったのに更に下げるとか……どんな縛りだよ。身体能力的に危ない時期から紙装甲とか嫌だよ。
実はスペックが技術面ではそうでもないが、身体能力の面で言うとちょっとどころじゃないほどあべこべになっているため今までの戦闘法を変更しなければいけない。という可能性も出てきているため少し焦っている。ただでさえ実技のテストで年上と剣を使って戦うというのに腕力が低すぎて打ち合った瞬間弾かれましたじゃあ話にならないだろうし。
なんやかんや考えていていつのまにか並列思考習得したら戦略と学問を同時に学ぶことが出来てもっと効率良く成長出来るのになあという思考に行き着いて嘆息すると、漸く秋風さんが身じろぎをした。もうすぐ起きるのだろうか。起きるのなら速やかに行動してもらいたい。腕が真っ白を通り越して紫っぽくなってきてるんだ。
焦れったい気持ちでまだかまだかと待っているとゆっくりと瞼が開き始め、除々に目の焦点も合ってきた。
「ん……ぅ。あ、テオ君おはよう」
「…おはよう。早速で悪いけどこの腕と足から離れて貰えないかな? 感覚が今全く無いんだけど」
「……い~や♪」
…可笑しいな。俺は幻覚でも見ているのか。普段は真面目で話が分かる優等生タイプっぽい感じがする秋風さんなのに、今の至近距離でこの満面の笑みでそれを言うのはどうだろうか。不覚にもやられた。
そして理性の方にダメージを加えられた俺に更なる追撃が襲い掛かる。
「おはようのキスがまだでしょ? してくれるまで離さないよ♪」
その言葉を聞いて秋風さんの顔を見た瞬間悟った。
嗚呼。秋風さんは今ヤンデレとかそういった状態なんだな。と。
先ほどの言葉を言った時、秋風さんの目は見事に単色で途中から表情が希薄になっていくような感じがした。それと同時に絡んでいる両腕両足の力が増すのも。
……正直言って俺は普通の女の子に対してどのような触れ合い方が最も無難なのかということも分からないため、ヤンデレの娘にどうやれば上手に立ち回れるかなんて既に出会った時点で白旗状態だ。それにツンデレなんてもってのほかだ。
よってこの状況で俺に導き出される状況は1つ。
「……ん…」
こちらを向いてじっと見ていた秋風さんの柔らかな唇に俺のファーストキスを捧げた。前世こみで、これ重要な。
俺の行動に少しでも驚いて硬直してくれれば良かったのだが、秋風さんは一ミリも驚いた様子を見せず、寧ろ笑顔で迎え入れ、ここが好機とばかりに強引に俺の口の中へ舌を割り込ませ口内を蹂躙し始めた。驚いて、首を後ろに反らそうとしてもいつのまにか右腕を掴んでいた左腕だけ離しおり、それが俺の後頭部を押さえている。
恐らく、これは長い間拘束されそうな気がする。
そう俺は直感し、ほぼ無意識に昨夜も発動したスタンガンもどきを左手で発動し、秋風さんの首元にそれを当てた。
「……んん!?」
すると、秋風さんは一瞬目を見開いてびくんと体が跳ねると、気を失い、それと同時に俺を拘束していた力も弱まった。
「よいしょっと」
そして晴れて自由の身となった俺はのびをして全身の骨を鳴らし、イルマのいるであろう部屋へと秋風さんをきちんと寝かせてから向かった。




