40話~動顚~
「それで………テオ君。何か言うことは」
いつも通りの宿屋に入り、部屋に入った。
そして秋風さんとイルマの目の前で正座をさせられている。
「ええと……」
「すぐ話せ」
どう話そうか一瞬悩むとニコニコ笑いながら秋風さんが拳骨を落としてきた。この3人の中では一番腕力があるのだから正直涙目になるくらい痛い。そしてその笑顔もなんか恐いけどこの理不尽は一体なんなんだ。
――どうしてこうなった。
よし、冷静に思い返してみよう。
確か、宿屋の前に着くまではナナと世間話でもしながらのんびり歩いていたよな。
そこで突然裏路地で「テオってことを認めてもらわないと鍵の受け取りが出来ないじゃん」って言ったことを思い出して、ナナにそれを相談して、なんて言ってきたっけな?
ああ、そうだ。「テオって認めてもらわないなら認めさせればいいじゃない」だったな。どこの王女様だよ。って突っ込んだら「ただ、魔法使って元の体に似せればいいだけだよ?」って返ってくるし。
……やり方も知らない魔法を使えと言われて一瞬空気が止まったのは内緒だ。
その後はナナに詠唱とただの属性を考えない魔力を消費することで発動する変身する魔法を教えてもらって、意外にも消費量が多かったのに内心焦りながらもとりあえず成功した。
そしてカウンターの近くに秋風さんとイルマを見つけたから話をするために部屋に連れて来て、ちょっと体が変わっちゃったって言って変身を解除して……気づいたら有無を言わさぬ迫力で秋風さんが「正座」って言ったんだよな。しかも何を言おうとしても「正座」だから、中々恐かった。
――そして今に至る、と。
うん。何だか分からないけど俺が悪いってのは直感が告げてるし、ここは素直に全部ダイジェストに話そう。それがきっと一番の方法だ。
そう自己完結し俺は話し始めた。
「いつも通りランニングをしていて実験も兼ねて風の魔力を流して走ったら高く跳べるようになったから屋根の上を走っていたんだ。そしたらやたらと黒ローブをすっぽり被った怪しい人が街中をこそこそ動いてるのが気になって観察していたら後ろから麻痺毒付きのナイフで刺されて、そこからまためった刺しにされたり両腕両足を切り落とされて死んじゃった。そこでなんかよく分からないけど死後の世界の天国と地獄に行く前の所みたいな場所に気づいたら居て、ぼんやりしてたら偶然羽化した闇の精霊、に引っ張り出されて生き返らせる魔法みたいなのを使ってさっき生き返ってきた…きました」
先ほど状況整理した時に考えたことを簡単に伝えると、目の前の2人はそれぞれ違った表情をしていた。イルマは生き返ったと言った辺りで目が光った。幻覚か? そして秋風さんは張り付いていた笑顔が嘘だったかのように無表情になっている。もう表情筋がぴくりとも動いていない。……正直この重苦しい空気を何とかしたい。
耐え難い沈黙が永遠にも感じられる程続いていたが、秋風さんが溜め息をついたことでそれは崩れた。
「何で…後先考えずに行動するのかな? ここに来てまだあまり経ってない私でもちょっとした油断で死んじゃうかもしれないっていう考えは思いつくから用心しながら行動してるのに。………それが何? 怪しい人がいたから興味本位で尾行した挙句死んだ? ふざけないでよ。心配しない人でもいないとでも思ってるの? それにテオ君が死んだら私はそこらへんで何も出来ずにのたれ死ぬかもしれないし、両親を悲しませるじゃない。テオ君はいつも自分は特に他人にとって重要な存在じゃないとかよく言ってるけど全くの逆なんだよ。そのことちゃんと分かってないでしょ? もっと……自分の命を大切にしてよ」
ハイライトの消えた目でテオを見つめながら坦々と抑揚のない声で自分の怒りや思いを激情せずにあくまで冷静にぶつけた。そして最後の言葉を言い終えると同時に両目から大粒の涙が次々に流れ始めた。こういった状況には前世で体験したことが皆無のため、テオの事を知っている人が見たら驚愕するくらい何をしていいか分からずおろおろしていて、助けを求めるためにイルマに視線を送ると何か意味ありげにニヤニヤ笑いながら秋風さんを抱け、ということをジェスチャーで教えきた。そしてテオはすぐさまそれを行動に移し、秋風さんの頭を優しく自分の胸に抱き寄せた。そしてゆっくりと頭を撫でた。
ここでテオについて手助けをしておこう。
普段のテオは決してこのように勘違いをするような行動は意識的に起こしていない。というか元々異性の体に触れることすら戸惑う程のへたれも相まっていたことでこのような大胆な行動をすることは体が拒否していたのだが、それはキアーラの頑張りによって簡単なボディシップが出来る程度には改善されている。というのは余談だが。
まあそう言ったことで今イルマに言われたことも最低限勘違いされないような行動を数秒じっくりと考えに考えた後に行動に移すのだが、今回は例を見ない程混乱していたため、咄嗟にイルマの助け舟がどんなものかも吟味すらせずに行動に移したのだ。
……だからこのような軽率な行動に出るとだ。
「ふぇ? なななななに!?」
……何て言えばいいんだ。イルマ! ヘルプ!!
その思いを篭めてイルマを見つめると少し溜め息をつかれたが、また元のニヤニヤ顔に戻り、口パクで『心配させてごめん。次からは絶対に死なないから……俺が言うのもなんだけど、思う存分泣いてもいいんだよ?』と言ってきた。正直こんな長文を読み取れた自分に驚きながらもすかさず行動に移した。
「心配させてごめん。次から絶対に死なないから……俺が言うのもなんだけど、思う存分泣いてもいいんだよ?」
そう言うと、一瞬硬直した後、秋風さんはテオの服を掴んで大声で喚きながら泣いた。
さすがにイルマも空気を読んだのか音を立てずにテオに満面の笑みでサムズアップをして部屋の外に出て行った。




