35話~事後~
今俺はぼんやりしながら長い行列に混じっている。ここがどこなのかははっきりと断定は出来ないのだが、霞がかった思考で考えるに恐らく死後の世界というものなのだろう。辺りには何も無く、左右に伸びる光景はまっさらで何処まで続くか見当もつかない。そして、唯一存在するオブジェクトがこの長蛇の列の最前列に存在する天に続くかのように何処までも伸びるエスカレーター(・・・・・・・)とポッカリと開いた大穴である。
最前列で何がなされているのかはなんとなくは想像出来るが、端から覗き見るとある人はエスカレーターに乗ってのんびりとなんか光を放ちながら上昇していき、またある人は諦めた様な表情や時には悲鳴を上げながら大穴へと落ちる、あるいは落とされていく。この天国か地獄だと思われるとこに行く前にこの最前列で何かしらの判決が出て行き先が決められるのだろう。
しかしそれでもこの並んでいる人たちは動じない。それどころか目の光は消えて、操られるかのよに淡々と進んで行く。……いや、俺も同じか。
声を出そうとしても出す気力が起きず、魔力や力も動く上で必要以上に使うことも出来ない。出来ることとしたら本当に気合を入れて列に合わせて行動する以外に後ろの人の様子を確認したり、列から顔を出して最前列の様子を覗き見ることくらいだ。
さて。ここまで考えるのもかなり疲れたが、もう少し頑張ってみようと思う。
恐らく朧気に覚えている記憶では俺は姿すら目におさめることが叶わず、あの暗殺者と思われる男に殺されて二度目の人生を終えてしまったのだろう。なんて呆気ない。まだ秋風さんだったかな? その人に何かを教えるのすら終えていないはずだったのに。それに、もう1人の……なんだっけ。名前は思い出せないけど友達には少し寂しい思いを多少はさせてしまうだろう。後、家族の皆にもなんだか分からないけど家族の事を思うと、期待を裏切ってしまった様な気持ちでいっぱいになる。
……そう言えば前に死んだ時はこんな所に来た覚えは無いんだが、一体あの時はどうやって記憶付きでこの姿に生まれ変わったんだろうか。
…まあいい。思いつかないことよりも今のことを考えよう。そろそろ自由に考えることも出来なくなりそうだ。
俺の番にくるのも後20人程となってしまったが、一体天国か地獄、どちらに向かってしまうのだろう。やはり、人を殺めたことがあるのだから地獄に行くのだろうか。まあそれは仕方ないことだから甘んじて受けようじゃないか。もう考えるのは止めて俺の番がくるまでぼんやりとしておこうじゃない。なんか本気で考えることが億劫になってきた。
不意に腕を引かれ、列からはみ出た。
「ん!? …って、あれ。声が出る。なんでだ」
「それはテオが、生きる権利を得て、この死人達の列から抜け出たからですよ」
「………誰?」
声が出たことに対する疑問をなんとなく口に出してみると返ってくる筈がないと思った返事がした方向に困惑しながら顔を向けてみると、俺と同じくらいの背丈で鼻から上を隠すような白い仮面を被り、漆黒で少し先がボロボロになっているローブと背中に身の丈程もある大鎌を身につけた子がいた。その姿はさながら想像上の死神のようである。声の高さから考えるに恐らく女の子だと思われる。
そして俺がポツリと問うと、なんだか嬉しそうに応えた筈なんだが、次の言葉に一層俺は困惑することになる。
「んもう。朝も夜もあんなに激しくボクを可愛がってくれたのに忘れちゃったの?」
……だそうだ。
俺の目の前で頬をほんのりと紅潮させてくねくねとしているこの子は俺を下から見上げながら言ってくる、声の調子からして涙目と上目遣いで言っているのがなんとなく把握出来てしまう。だから俺は敢えてこれを言おう。
「……不幸だ」
「何が? それにどうしたの? 急に上を向いたりして。上を見ても天井しかないけど」
「いや、何でもないっす。言ってみたかっただけだから」
俺の言葉に何だか不思議そうに首を傾げていたこの子だが、何かを思い出したかのようにはっと顔を上げ、俺の腕を掴んで列を遡り始めた。先ほどまでの若干崩れた表情ではなく今は凛として何だか頼りがいのある出来る人みたいな雰囲気を醸し出している。
「え? っちょ、何するつもりなんだ!?」
「話は移動しながらにしましょう。まだ時間に余裕はありますが、ここに留まってテオに良いことはありません。むしろデメリットしかありません」
「何処に向かってるんだこれは? それにデメリットって。後、君は誰なんだ?」
「これからあなたを生き返らせる準備をするための環境が整った場所に向かっています。デメリットは多いので簡潔にまとめると悪霊、魔物、死神、もしくはリッチに使役されてしまうことになりますね。後、ボクはテオがいつも肌身離さず抱いている闇の精霊だよ」
最後の言葉だけ音符が出てきそうな程弾んだ声で言ったことに若干の驚きを受けたが、とりあえずここにいれば絶対に悪いことになるっていうのは分かった。……ていうかさっき聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが。
なんとなく首元を確認してみる。首には普段常備している首飾りの紐はあるが、それに付いていた黒色の精霊石は跡形もなく消滅している。
「……闇の精霊とな?」
「呼んだ?」
「うん……。もしかして、俺が毎日毎日魔力を送り込んでいたあの闇の精霊?」
「そうですよ。まだ名前は無いのですが」
「分かった。後で一緒に名前を考えよっか。それと俺はなんでこんな風になったかその経緯を教えてくれない?」
「分かりました。私が知ってる限りのことを今から誇張せずに説明させて頂きます」
そう前置きを置いてこの子は語り始めた。
死後の世界ってどんなのをイメージすればいいかわかりにくくなったので質素な空間にしてみました。的な?




