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27話~耳痛~

俺に全身をペタペタと触られている間、彼女は赤面しながらも大人しくしていた。勿論、回復させるために触っているのであって断じてセクハラではないと言える。

そして傷を治している間に思ったことなのだが、予想以上に箇所が多い。特に擦り傷よりも殴られた痕の方が多く、服で隠されている所には火傷の痕もあるのだ。

そしてそれらは今日出来たものではないらしく、治そうとしても俺の力では結局少し痕が残る所までしか治せなかった。



「ごめん。……ここまでしか治せなかった」

約30分掛けて彼女の傷を治療して、結局治せなかった部分は謝った。

別に俺が作ったわけではないが、女性の体に傷が残るっていうのはあまり良いものでもないだろうからなんとなく申し訳なくなったのだ。


「ううん……こんなに早く傷を治してくれただけでも嬉しいよ。それに君に出会えて……その…少し安心したというのもあるし」

しかし彼女はぎこちない笑みを浮かべながらも笑って言った。最後の方少し恥ずかしそうに言ったのはもしかして俺が年下に見えたからだろうか? 実際に身長は彼女の方がでかいのだが……ちびで悪かったな。



「そう。それじゃ、宿に行こっか」

「は、はい。わぷ!?」

彼女が立ち上がった瞬間に俺は一つやり忘れたことを思い出し、急に彼女の方を向いた。

そして、手のひらに威力ゼロの水球を作り出し、彼女の顔にさっと全体に通した。彼女は一瞬だが、急に顔面が水の中に入って驚いたのだろう。奇妙な声をあげた。



「なにするの! いきなりで驚いたじゃない!」

「そうなんだけど、顔にそんなものを付けたままじゃ、外を出歩けないでしょ?」

「そんなものって……あ。……ありがとう、取ってくれて」

現在は俺の水球の中を漂っているさっきまで彼女に付着していたものを見せると、急に先程までの勢いすらなくなってぼそぼそとお礼を言ってきた。



――やっぱトラウマっぽい感じにはなってるか。



この調子で男性不審になっちゃったということにならないように俺が色々サポートしないといけないのかな。まあ半分は俺の気分のせいでなってしまった感じもするし……とりあえず、この世界でも生活出来る程度にはサポートしてこっちでも友達を作れるようにしとかないとな。


俺と彼女は裏路地を出て、大通りに出て見えた、夕方になってきているのに未だ衰えない人ごみに俺と彼女はうんざりしていた。

しかし、うんざりして突っ立ったままでいるのも仕様が無いので突入した。勿論この人ごみでうっかりはぐれてしまったということがないように相手の手を掴んで歩いている。


上を見ると、彼女は少し赤面している。俺が言えた柄でもないが意外と初心なようだ。

そんな顔を微笑ましく観察していてふとある疑問が出てきた。



――そういえばこの人は一体どうやってこんな状況になっていたのだろうか?



この人が何者なのかと問えば俺の予想通りだと勇者だと名乗るはずだ。なにせこの時期に勇者召喚が行なわれてなおかつ勇者召喚は失敗したとされているんだ。これは勇者が本当に役に立たなかったか、本当に失敗したかのどちらかだろうが失敗したという考えは多分違うのだろう。そんなに簡単にホイホイと異世界に来てたまるか。

だけど、どうして裏路地にいたのかが分からない。魔法を知らない様子を見る限り異世界に来て日は浅いのだろうから日本人の感覚は抜けていないとしたら、普通あんな暗くて汚い裏路地には絶対に入り込まないだろう。いや、むしろ異世界の服を着ていたんだからお世話になろうと思えば出来ただろう。


「……ねえ」

「…………うん? どうかした?」

気づくと彼女が声を掛けてきた。一体なんなのだろうか、と思って周りを見回すと分かった。俺が泊まっている宿屋が目の前にある。どうやら考え込み過ぎて目的地に到着したのに気づかなかったらしい。…念のために宿屋の名前教えといて良かった。


宿屋に入ると出発する前と同じように受験生達は鬼気迫る様子で勉強して、朝よりも数が増えたおっちゃん達はテンションが宴会モードになっているため俺達が入ってきたことには気づかない。気づいた人もいるが一瞥しただけですぐに視線を元に戻した。

だが、朝黄昏ていた奇妙な少年は俺達の方を見て何か信じられないものでも見るかのように目を見開いている。失礼だな……ん? 朝とは違って眼鏡を掛けてるな。目でも悪いのか? この世界では珍しい……。


まあいいや。

「マリアさん。ちょっと井戸を借りますねー」

「分かったわ。…あら? その子は?」

「えっと。ちょっと成り行きで連れて来ることになりました」

「そうなの……まあいいわ。井戸は裏側にあるからね」

「はい。ありがとうございます」


井戸に着くと今まで黙っていた彼女が口を開いた。

「ねえ。ここに来て何をするの?」

「そりゃあ、あなたの髪や体を洗うためだよ? それ、しばらく洗ってないよね」

「っう。そういえば5日くらい洗ってないかな」

「っはあ。それじゃ、今から井戸の周りに壁を作るからその中で洗ってて。その後着替え終わったら言ってね」

「え? 今から壁を作るの? え? え?」

混乱する彼女を井戸の近くまで押して、位置を確認した後に2メートルとちょっとある土壁を作って井戸の周囲を囲んだ。少なくともこうやった方が洗いやすいだろ。

……壁を作った時に内側から軽い悲鳴が聞こえたが気にしないことにする。



しばらくして中から呼んで来たので壁を元の土に戻すと、すっかりと綺麗になった少女がいた。ごわごわとしてて少し硬そうな髪は一直線に下に向かっていて風が吹くたびにさらさら揺れるほど柔らかそうな黒髪になっていた。

そして今気づいたのだがこの少女、普通に美少女と言ってもなんら遜色ない顔なんだけど……!!

「へー。これどうやってしてるの? 魔法?」

その美少女はさっきまで土壁があった場所を笑みを浮かべて見ながらこちらに質問をしてきた。

「うん。普通に魔法だけど」

「え?」

突如その笑みが凍った。

「うん? どうかした?」

「魔法って…。もしかして異世界によくある魔法?」

「そうそう。その魔法」

「……ど…」

彼女が何かを呟いているがよく聞こえない。

「うん? 何て言ったの?」

「……ここどこおおおぉぉぉぉぉ!!?」



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