26話~興味→苛立ち~
「んーと……こっちであってるのかな?」
裏路地を歩きながら先程の悲鳴を頼りに目的地へと向かっていった。しかし、悲鳴が聞こえたのは偶然だったからなのか、少し歩いたくらいじゃ、争っているような声も何かに怯えるような声も聞こえてこない。
こりゃ無駄足かな――と、思って大通りに引き返そうかと考えた矢先に野太い男の声が聞こえてきた。
「おとなしくしやがれ!」
そう怒鳴り声を上げた直後、来る前に聞いたものと同じ悲鳴が聞こえてきた。
「ああ? 何わけの分からないこと言ってんだ。また殴られてえのか!!」
どうやら男に何かを言ったようなのだが、更に殴られたらしい。今度は悲鳴が聞こえてこなかった。そして俺は無意識に歩く速さを上げながら、話を聞いていたが、この男達は声から判断する限り3人はいるらしく、今から強姦をしようとしている……と。
「………」
内側から何かドロドロとして何か熱いものが込み上げてくる感じ。丁度キアーラが盗賊に襲われかけていたのを見た時と同じような気持ちが俺の中を満たしていた。
今の俺には最初の見物でもするかという傍観者でいく気はさらさら無くなっている。
気づくと俺は全力で走っていた。
――いた。
人目が入らないような大通りからかなり離れた場所になってはっきりと男達の姿が確認でき、そこで俺は自分の体に無理やりブレーキを掛け、物陰に隠れた。人数を確認すると大柄で頑丈そうな男4人がズボンを半分下ろした状態で輪になって立っており、丁度その隙間から女性の姿が見えるとそこには肩にかかるくらいに伸びた黒髪をもつ少女がいた。さすがに年齢までは分からなかったが、俺より少し年上くらいだろう。
今すぐにでもあの男達をぶちのめしたい。そんな気持ちで溢れかえっているが、さすがに真正面から「なにをしている!」とか「やめろ!」とか言って相手の注意を引きつけて戦っても体格差で負けてしまうだろう。それに相手が場慣れをしていたなら負けてしまう可能性もある。
――なら奇襲だな。
早々に考えをまとめるとすぐに雷の魔法でスピードを上げ、両手に電気をまとわせた。威力は大体スタンガンと同じようなものだと思って大丈夫だろう。
クラウチングスタートの体勢で相手が俺がいる方向から視線を外すのを待ち、その時が来た瞬間俺は亜音速で駆け出した。狙いは一番手前にいる2人の首筋だ。
「ぐがっ!?」
「っう」
「は?」
狙い通り2人の首筋に俺の手が一本ずつ触れられ、手にまとっていて電気が消えた。
次の瞬間には2人して呻き声を出して口から泡を吹いて気絶した。そしてそれを唖然として見る残りの男2人に見つからないように急いで背後へと回り込んだ。出来るだけこういった輩には顔は覚えられない方がいいだろう。
もう一度両手にさっきと同じものをまとわせた時には俺の体からパチパチと発せられる火花のような音に振り向きかける男達。だが、既に俺の姿は消滅しており、怒鳴り声をあげようと2人が口を大きく開けるも、その2人の首筋に背後から小さく、少し柔らかなものがそっと添えられた。
「っが!?」
「――っ!!?」
そして3秒前に起きた出来事によって倒れている男達と同じ状態に残り2人もなり、そこにはものを見る目で男達を見下ろす俺と、何が起こったのか理解出来ていないのかポカンとぼんやりとした目で俺を見上げていた。
数秒後俺は正気に戻り、はっとなって少女の無事を確認するために視線を男たちから少女へと向けた。
そして俺はあの時ゆっくりと歩いて向かったことを少なからず後悔した。何日もここにいたからなのか髪はぼさぼさとして少しかたくなっており、一般庶民が着ているような少しごわごわした服より質の良さそうな滑らかな絹の服はところどころ破けており、そこから見えた素肌にはところどころ青痣や擦り傷などがあった。
所々に白い液体が付着していて、その少女の唇は細かく震えており、俺を見るその目もぼんやりとして焦点が定まっていなかった。とりあえず不幸中の幸いと言うべきなのか服は脱がされていなかった。
「……大丈夫ですか?」
途端、彼女はビクリと肩を震わせながら、恐る恐る口を開いた。
「あの………何を言っているの?」
そう言い終わる時には彼女は「っひ」っと言って、後ずさりをした。俺がその言葉を聞いた瞬間に目を見開いたからだ。この世界にあるはずのない言語、俺が久しく聞いていなかった懐かしい言語。
「…日本語……だと……!?」
実はこの世界で広まっている文字は日本語なのだが、言語はそうではない。文法は英語のようだが、発音の仕方は日本語とも英語とも違う別のものだ。だから、俺も3歳の頃の記憶を頼りながらも多少苦労してこの世界の言語をマスターした。
だから、この世界では日本語など聞く機会などゼロのはずなのに聞くことが出来た。いや、聞いてしまった。
――いや、ひとまず落ち着くんだ。
すっかり混乱してしまった頭を軽く振ってから、後ずさりをして壁にぶつかった彼女に近づいた。そして、黒っぽい茶色の光をまとった俺の両手を見て彼女はまた何かをされてしまうのではないかと思ったのか涙目になって叫ぼうとしていた。
「大丈夫だから安心して。ね?」
「……え?」
今度は数年振りに使う日本語を多少たどたどしくではあるが、それで話した。3歳の頃に一度日本語は話したきりだったのだが、かろうじて俺の体は覚えていてくれたらしい。
驚いたまま動かない彼女に俺は近寄って、逃げにくいようにされたと思われる太ももの深い切り傷と、顔の殴られた跡に触れた。
「なな、な…何するつもり!?」
彼女は若干上ずった声で赤面しながら叫んでいた。そりゃあそうだろう。8歳の子供とはいえ見ず知らずの男が急に自分の太ももとか顔とかに触れ始めたらそりゃ、動揺するわ。少なくとも俺が異性からそんなことをされたらオーバーヒートする。とは言え、話が通じることで少しは安心したのか、俺の手を反射的にどけようとはしたが、途中でその手は止まっていた。
「何をするって……その全身の怪我を治してるんだけど。太ももの痛みは大分なくなってるだろ?」
「怪我を治す? あれ!? 本当に傷跡が無くなってる!! 一体どうやって…」
30秒ほど手で触れ続けてそこから手を放すとその場所にあった切り傷は跡形もなく消えていた。右頬の痣や腫れも大分おさまってきている。
っていうかこの子は魔法を知らないのか。
「……とりあえず、どうしてこうなったか事情を聞くから俺が泊まっている宿屋までついて来てね?」
そう言って彼女が少し迷いながら首肯するのを見届け、残りの目立った傷を治す作業に取り掛かった。
テオ君が少女を拉致った回です(笑)




