25話~買い物~
最近花粉症の影響なのか、鼻がむずむずして目が痛いです。
・・・つらいのう。
結局その日は剣の型の復習に力を入れすぎた為、部屋から出ること事態が億劫になり、そのままベッドにダイブをした。
そして朝起きた時の空腹感によって夕食を食べ損ねていたことを思い出し、起き上がる体勢のまま10分固まっていたのは内緒の話だ。
そんな悲惨な出来事をなんとか受け入れた俺は現在、宿で朝食を摂っている。だが、若干な違和感を感じるのだ。だけどいまいちその原因が分からない。
「………」
俺は食事の手は止めずに黙って周りを調べる。
俺より少し年上程の幼さが残る雰囲気の少年少女がちらほら見えて、そのどれもが鬼気迫る様子に、片や事務的に、更には友達同士談笑しながら本を片手に勉強する様子が見える。
少し視線をずらすと冒険者らしき人達が集まって、作戦会議をしてる姿が見えたり、カウンターには朝っぱらから酔っ払った勢いでそこらへんの女の子にセクハラをして洒落にならない威力の鉄拳制裁をくらっているおっさんが見える。
そして窓際を見ると、俺と同年代ほどでこの世界ではあまり見ない黒髪の少年がコーヒーを飲んで黄昏ており、その手元には他の少年少女が持っている本より遥に分厚い本が開かれている。
ふむ……特におかしいところは無いな。気のせいだったか。
………んん!?
俺はもう一度窓際を凝視した。
そこには先程見た時と同じようにコーヒーを飲みながら黄昏ており、その手元には分厚い本が置かれている。
………
いやいやいや可笑しいだろ。確かに少年少女は俺と同じくソルリス学院への入学を目標として猛勉強をしているからなんともいえないアウェイ感はあるものの違和感はない。飲んだくれのおっさんについてはいつも通りらしいから違和感があるわけがない。冒険者なんかも同じように日常的風景として馴染んでいる。
だが、窓際の少年よ。お前は違和感ありまくりだ。
どこの世界に色々と人生を体験しましたよみたいな表情をして遠くを見る8歳児がいるんだよ。しかも、よくよく見るとその本は上級魔法が書かれてある魔法書じゃねえか。色々と可笑しすぎるだろ。
「………はあ。もういいや。無視だ無視」
俺は溜め息を吐いて気持ちを切り替え、今日の予定を頭の中で整理をしていった。
…散々人のことを言っておきながらテオ自身も時折その表情をしていることに本人は気づいていなかった。
朝食を終えた後、とりあえず町を適当に歩き回って大雑把に地理を覚え、その時に偶然見つけた本屋にそのまま入った。そしてソルリス学院を紹介しているものがあったため、読んでいると大体のことが分かった。
まず、この辺りの学院では唯一ソルリス学院だけが飛び級制度を実施している。飛び級をするには次の学年の内容のレベルでも高レベルであれば認められるようだ。そして父さんが言っていた通り、入学試験は筆記試験と実技試験とがあり、筆記試験は簡単な読み書きと計算にちょっとした歴史があるくらいだろうか。実技試験の部分は何度も見直したが、王国の兵士と戦う(武器によって多少の違いはある)ことは変わらなかった。恐らく俺は片手剣で試験を受けることになるのだろう。
ちなみに入学する人は色々いて、亜人と総称されるエルフや獣人から王族までもが普通に実力で入学して楽しく学校生活を送っているらしい。凄いなソルリス学院。
…とりあえず感心するのはここまでにしといて、次の本を探すか。
「さてと、次はどこへ行こうか」
あの後、他の本も探したのだがこれと言って実戦に役に立ちそうなものは置いておらず、”薬草大全”が一番使えそうなものだった。どちらかというと料理や裁縫、サバイバルに関する本や”できるメイドになるには”というなんともコメントし難い本が並んでおり、それを見た時につい手が伸びていたのには自分でも驚いた。
結局立ち読みするには時間が勿体無いと思い、”薬草大全”と裁縫に関する本を買った。懐に関してはほとんど心配は無いだろう。少しくらい無駄遣いをしても全く懐には支障がないから気軽に買い物が出来るのは嬉しい。
そのままホクホク顔で大通りを歩いていると色々と話を盗み聞くことが出来た。それと、今は軽く前世の都会並の混雑具合だが普段はこれほど混んではいないようだ。なにやら近頃この国では初の勇者召喚が行なわれたらしく、その勇者の姿を少しでも見てみたいという興味から来た人達が他の所からやって来た結果こうなった、と。今俺の目の前を歩いている筋肉隆々の男と、眼鏡を掛けた少し神経質そうな女性の話が耳に入ってきて知った。ちなみにこの二人は冒険者なんだそうだ。
「それにしても結局勇者様を見れないとなっちゃあ来た意味がなくなっちまったなあ!」
「そうですね。でもまあ折角来たのですからここの特産品でもお土産にしましょう」
それからはここの特産品についての話にシフトしたため、俺はその場から離れた。
勇者が見れないとは一瞬どういうことなのかと思ったがどうやらこの国では初めての勇者召喚だったらしく、それが失敗してしまったからなんだそうだ。とりあえず、無意味に拉致されるこの世界と無関係の被害者が出なくて少しほっとした。と同時にふとある疑問が思い浮かんだ。
――勇者召喚に失敗した場合はどうなるのだろうかと。
俺の想像する勇者召喚と、この国が使った勇者召喚がもし同じものだとしたら失敗したら非常に迷惑極まりない結果を残すのではないかと思ってしまう。例えば召喚された場所が悪くて魔物密集地のど真ん中にいつのまにかいた、や魂だけ召喚されちゃった――など、色々と召喚された人にとっては迷惑でしかない結果しか思い浮かばない。
そして思考に没頭したテオが無意識に動かしていた足がいつのまにか裏路地に向かっていたことに気づ
いたのは召喚について考えるのを諦めたあたりだった。
「……ん? 俺はどこにいるんだ。今」
ふと周りを見回すとついさっき(実は30分前には裏路地に入っている)まで歩いていた活気溢れる大通りとは打って変わって寂れた雰囲気の場所を歩いていた。建物もさっきより薄汚れて一段階ぼろくなった感じがする。
――スラムにでも入りこんだのかな?
俺は呑気に考えた。実際は周辺の人達の目がなにかに飢えているのを見た感じじゃ、いつ襲われても可笑しくはないのだろうが俺はそれでも気軽に歩き続ける。
理由は簡単で麻痺の魔法があるからだ。ひとまず父さんを痺れさせたこれさえあれば大体の大人でも無力化出来る自信はある。
「………んあ?」
俺がそんなことを考えながら悠々と歩いていると、すぐ近くから女の人の悲鳴が聞こえた。恐らく男達が物でも剥ぎ取っているのだろうか。なんとなく悲鳴が聞こえた方向に興味本位で近づいていった。
今思えば、このなんとなくした行動が俺の人生を少なからず良い方向に導いたのかもしれないが、当時の俺にはそれを知る由は無かった。




