23話~到着~
見張りをロイに途中で代わってもらって寝た後、俺は早朝に起きて空手の鍛錬と剣の素振りを済ませた。剣はまだ持ち歩いていないので父さんから許可を貰い借りている。少なくとも十分に冒険者として活動できる頃には剣も扱えるようにしておきたいと思う。
……いくらなんでも素手で殴りこむには色々と無理な相手もいるだろうよ。
ここで本当は父さんにも相手をして貰ったほうが熟練度の伸びが良いのだが、今は眠っているのでそれの邪魔を出来ない。っていうか、熟練度の伸び方が素振りよりも伸びやすいってことはそれほど命の危機に瀕している方が得るものが多いってことなんかねえ。
練習の内容によって熟練度の伸び方が違うことに考察をしていたが、明確な答えが出る前に目標の回数に到達した。自分のステータスを見ることが出来る人が周りに自分しかいないのが悔やまれる。
「まあこんな考えても分からないもんは無視するに限るか」
俺は父さんを起こす前に仕上げの魔力量の底上げをする作業をすることにした。
と、いっても大それたことをするでもなくただ単に魔力枯渇寸前まで魔法を行使するという単純な作業なのだが、どうせならここで魔法の実験をしている。
例えば、魔力合成で思いついたコーティング。これが中々面白いことに属性の相性がそこまで悪くなければ、ある魔法に別の魔法を覆い被せるように発動させて、属性が相殺しない限りは相手には複数の属性攻撃を同時に味わうことになる――中々恐ろしい魔法である。
まだまだ魔法で遊んでいると色々と可能性が見えてくるがそろそろ空が白んできたのを見るとさっさと魔力を枯渇させた方が良さそうだ。父さんに見つかる。
そう思い、俺は魔力そのものを体中から放出し始めた。正直言ってこれは中々きつい。
――何故父さん、特に母さんの前で魔力を枯渇させるようなことしないかというと実は魔力に対する考え方にある。この世界では魔力=生命力という図式が成り立っているために魔力を枯渇させることは自身の生命力、つまり寿命を縮めたり体に何か異常が起こるなどのようなことがあると信じられているのだ。だからそれに沿って考えれば今俺がしている行為は自分で生命力を垂れ流しにして自殺願望者のように見えるのだろう。
しかし、この考えが正しいのかと言われれば俺からすればノーだ。
俺はステータスで体力と魔力が現在進行形でどうなっているか分かるのだが、今の状態はというと体力は一ミリも減少していない。その代わりとでも言うように魔力の減り方が凄い。例えるならば普段は水道から水を流していたのに、今はバケツに入った水を次々に投げ捨てているような感じだ。それほど、魔法を使うときと魔力そのものを放出するときでは魔力の減り方には差がある。
「…っとと。これくらいでもう十分か」
ボーっと考え事をしながら放出していたために危うく魔力欠乏を起こして気絶をするところだった。
そして丁度良く父さんも目が覚めたらしく、体をほぐしている最中だった。
「おはよう。父さん」
「ああ、おはよう。すぐに出発するか」
「うん」
今回は残りの距離が後少しということもあり、少し早足で移動したところ、日が頂上に達する前に目的地に到着した。ユーグタイス王国は広い城下町の安全を確保するためなのかは知らないが、大きな城壁で国をぐるりと囲んでいると事前に話は聞いていたので分かっていたのだが、聞いて想像するのと見るのでは全く違うことが分かる。勿論上方修正の方向でだ。
「でっかあー…」
近くから見るとまた更に普段見ない光景に只俺は口をぽかんと開けて15メートルはあるかと思われる城壁を見上げていた。しかも、父さんが関所の人に何かを見せて入るときに側面も見たのだが、厚さも1メートルちょっとはあったから驚きだ。
「テオ。まずは宿を探そう」
俺が門を潜り抜けてもその人の多さというより獣人やエルフ、ドワーフなどを目を輝かせて見ていると父さんが声を掛けてきた。
「え? まずは学院に行くんじゃないの?」
とりあえず、願書とかは貰っとかないとまずいよね?
「学院に入学するための試験はまだ一ヵ月後だ」
ほうほう
「だからそれまではこの国の宿屋に泊まって試験勉強でもしておくといい」
…ほうほう
「安心しろ。ソルリス学院はここらではトップの実力を誇るが」
…ふむ
「筆記試験は文字の読み書きが出来て計算が12歳と同じレベルで出来れば問題ない」
……
「それに、実技試験も一般兵とまともにやりあう事が出来ればすぐ合格できるさ」
「……父さん父さん」
「なんだ、テオ?」
「父さんさ。もしかして僕に1ヶ月で試験に合格させようとしてた? 聞いた限りじゃ年上の中で実技が必要な試験に」
「俺の息子なら大丈夫だろう」
父さんは至極当たり前のように答えてきた。その視線にはお前は何を変なことを言っているんだという意味も含まれているのだろう。
「それは、少しおかしいと思うな。僕は筆記試験はともかく実技試験は自信ないよ?」
「お前なら1ヶ月みっちり剣の修練のことだけを考えればすぐに良い勝負するところまではいけるさ。俺の血が流れているなら武器の扱いは得意になるはずだ」
「ええ!? なにそれ!?」
特に後半部分には驚いたんだが。父さんの血が流れているってだけで武器の扱いが得意になるって……父さんのスペックはどのくらいなのかとじっくりと問いただしたい。
っていうか父さん武器を持った状態でまともに打ち合ったことなかったな。
……いや、まさかね~。
「父さん。もしかして素手で戦うより武器で戦うほうが強い?」
俺はわずかな希望を篭めて聞いてみた。あれで素手が苦手でしたじゃ済まされないだろう。
「勿論だ。どちらかというと無手で戦うのは苦手なほうでな、俺は長剣を使う。っん? どうしたテオ? 急に頭を抱えてうずくまったりして」
「……っあ。うん。大丈夫ダイジョウブ」
先程の常識外れな返答を聞いて俺は思わず頭を抱えてしまった。その後ですぐに持ち直してすぐに元の調子で答えた(後から聞いた話だとこの時俺は死んだ目をしていたらしい)。
……ああ、そうか。俺の父さんは中々に俺の想像を越えた化け物だったのか。
「そ、そうか。まあ、もうすぐ宿屋に着くからそこをお前の一ヶ月の間の拠点にしようか」
「リョーカイ。ちなみにに宿屋に一ヶ月泊まるのに掛かる費用は?」
「金銭面に関しては大丈夫だ。俺がなんとかするからお前は剣の鍛錬と筆記で落ちないように勉強しておくといい」
俺は無言で頷いた。だが1つだけ気になることがある。
――さり気なくニートみたいになってもしょうがないような生活を与えられた気がするのは俺だけだろうか?




