21話~組み手~
俺は父さんに勝つための計画を即席で完成させた。勿論これで魔力量が足りるかは分からないが精々枯渇寸前で残ったら良い方だろう。
俺は覚悟を決めて相手の後ろ側を指差しながら叫ぶ。
「っあ! あんなところに珍しい武器が!!」
「!!!?」
――…かかった
父さんは極度の武器マニアだというから賭けで試してみたがうまくいったようだ。
すかさず、後ろを振り向いた父さんを一瞥し、俺は素早く、そして大きく息を吸い込む。
「―――!!!!」
俺が最大魔力の5分の風の魔力をこめて全力でロイに向けて叫ぶとそれは咆哮となった。
中級魔法レベルの風が吹き、耳をつんざくような大音量がロイへ襲ってきた。
恐らく予想外の攻撃だったのだろう。体が硬直したのを俺は視認し、電気が流れ出る肉体で一瞬にしてロイの背後へとまわりこんで2割5分――つまり残り全ての魔力を麻痺させる雷をイメージしながら父さんへと流し込んだ。
「う、ぐ…」
ここにきてようやく父さんの口から苦痛による声が漏れ出た。体全体がぴくぴくと痙攣しているところを見ると麻痺が効いたことに安堵した。
ちなみにこの組み手での勝利条件は相手を無力化することであり、気絶させたり、半殺しにしたら勝ちとかいう物騒なルールではない。
――あれ? ってことは俺勝ってね?
事実5秒経つが未だに父さんは痺れており、動くことすら出来ていない。
「兄さん」
「…っは。 勝者! テオ!!」
俺が兄さんに声を掛けると父さんの状態を理解したらしく、高らかに叫んだ。さり気なくその姿が様になっているのが地味に面白い。
「……っはああぁぁぁぁ。本当に疲れた」
「テオ! 大丈夫!?」
俺がその場に膝から崩れ落ちるとキアーラが心配そうに寄ってきた。しかしどこか不快そうな表情をしているのは俺の気のせいだろうか?
「一応魔力は枯渇一歩手前だけど大丈夫だよ。っていうか何か顔色悪い?」
「……あの大声は私の耳にはきつすぎる」
「ああ。確かにあれは威力も強くするけど声量もいくらか大きくなるもんねえ」
そう言う俺の声は若干枯れている。あの魔法は魔力消費自体は少なく叫ぶ声の大きさで威力が決まるので今回みたいに全力だと中級魔法レベルにも匹敵するのだが、喉への負担が魔力消費よりも激しいからあまり連続しては使えない少し残念な魔法だ。
「その様子を見ると私にはあまり縁のない魔法のようね」
姉さんが俺の声の様子を確認してから言った。確かに姉さんみたいに風の魔力が他の属性より頭1つ2つ分飛び抜けているならばいざというとき心強い味方になるだろう。幸い声の大きさも俺よりでかい。だが、喉の枯れさせたくないならば本当に縁のない魔法だ。
俺も声を出さずに同意した。
「まさかこんなに早く負けてしまう日が来るとは思わなかったぞ」
背後からの声に振り返るとそこには既に動けるようになっている父さんがいた。まあ痺れを除けば肉体的なダメージは無いに等しいのだから当然と言える。
そんな息子の成長に嬉しさと悲しさを混ぜたような声で言ってくる父さんに俺は悪戯小僧が浮かべる笑みをして自分の頭を指差した。
「まあここが違うからね。不意を突くなら父さんよりも得意かもしれないよ?」
実際に不意を突いた攻撃や状態異常攻撃、身体強化など色々と支援をしなければ父さんには最初の一撃で葬られてしまうのだからこれは冗談ではない。身体強化も2倍が最も実用的かつ魔力消費がエコだということでなんとか賄っているのだからなおさら父さんの強さが身に染みて分かる。分かりやすく例えると、フルアーマーで素早く動けて、剣を持っている俺と、褌一丁の父さんが戦うみたいな? そのくらいのドーピングの差がある。
「ふむ。まあお前の頭なら出来ないことでもないか。それより、テオ。今日は早く家に戻って支度をしなさい。明日ユーグタイス王国へ出かけるぞ」
「っへ? …うん。分かったー」
「私たちは?」
父さんがユーグタイス王国というところへ出かけると言った時、やはり俺限定のところに違和感があったのだろうか。セリアがキアーラと自分を指差して言った。
「お前達はまだ外に出るのは危険だから駄目だ」
まさかのここにきて「女子は危ないから」を使うとは思わなかったぞ。っていうかキアーラと姉さんの実力なら外に出てもそこらへんの敵なら十分に対応出来ると思うのだが。
「大丈夫だよ! 私達でもテオに勝つことは出来るって!!」
「そういう問題じゃない。確かに勝負では勝てるかもしれないが、キアーラとセリアには唯一テオとは違うものがある。そこが無いからまだ外に出すことは出来ないな」
なにその台詞。別に俺は言ってないのに話のネタにされたお陰で凄い恥ずかしいんだけど。まあ父さんが言おうとしてることはなんとなく分かるんだけどなあ。
「っというわけらしいからお先に外に行かせてもらうよー」
手をひらひらと振ってわざと挑発するような言葉を言ってみた。多分こうすれば大丈夫だろ。特に問題は起きないはず。
「……テオ。今日の夜は送別会をしてあげましょうか」
姉さんが今までに見たことがない威圧感を出しながらゆらりとこちらに振り向き優しい声で言った。泣いてる子供でもたちまち安心しそうな慈愛に満ちた笑顔というおまけつきで。
――あれ? もしかして踏まなくてもいい地雷踏んだ?
「い、いや。僕は今日はゆっくりと休みたいから遠慮しとくよ」
「だーめ。テオのために送別会を開いてあげるんだから主役がいないと駄目でしょ?」
俺が素早く立ち上がり家の方角へ走って逃げようとするが、走る寸前に背後からキアーラに羽交い絞めにされた。ギギギと音が聞こえそうなほどぎこちなく首をまわすとそこにはセリアと同じような表情が存在していた。
――兄さん!! ヘールプ!!!
俺は全身全霊の眼力でカーン兄さんに助けを求めた。が、兄さんは俺が言わんとしている意味に気づき…ゆっくりと横に首を振った。
――嗚呼。駄目だ。
そこで力を全て使い果たし、がっくりと首を項垂れた。それをキアーラは優しく両腕で包み込んだ。
「たっぷりとセリアと一緒に可愛がってあげるよ?」
非常に楽しげな声で言っているが、内容は俺にとって途方もなく絶望的だ。
「これと…これと、後何か必要な物はあるかな?」
自室に早々と逃げるように入っていた俺は明日に必要なものを確認していた。こういったことをしてると昔、遠足の準備から興奮していたのを思い出す。――まあ、命の危険があるかないかの違いはあるが。
「…うん。まあ移動するだけとはいっても気は引き締めないとな」
命の危険があるというだけで俺の中から楽観的な気持ちは消える。転生前の記憶を思い出す時も思うのだが、俺は事前に様々なシュミレーションをして完全に安全と言い切れそうなくらいにまで対策をするくらい慎重というか――チキンらしい。こんなファンタジーな世界なのだから大概は予想の斜め上をいくからほとんどアドリブで行動する羽目になってしまうのだからやはり慎重という言葉は似合わない気がする。
実際に父さんと本気で組み手をするときも身体強化して、ヒットアンドアウェイを狙っていけば、スピードでいえば完璧にこちらが上回ることも可能なのだからいけると思っていたのだが、蓋を開けてみると渾身の正拳突きや顎にサマーソルトをしても父さんは凡人とは比べ物にならないほど立ち直りが早く、逃げる前に掴まれてしまったのだ。
雷の魔力で一時痺れたのも、咆哮が上手く効いてくれたのも本当に偶然だったとしか言えない。――要するにさっき「頭が違う」とは言っていたが、結局は運が良かっただけなのである。
あんな化け物によく勝てたものだと、遠くを見つめているとノックの音が響いた。
「テオ。そろそろ時間だよ」
「うん? 時間?」
なんのだ? そう問う前にドアが開いた。そこにはキアーラと姉さんが立っている。
いや、まさかな…。
「勿論送別会の時間よ」
にっこりと笑って告げるセリア。キアーラも隣で頷いている。
「い、いや。今日はもう遅いし、俺もゆっくりと休みたいから――」
言い終わる前にセリアとキアーラは素早く動き始め俺の口と体を拘束する。
「それじゃ、いこっか?」
その夜、小さく悲鳴が木霊したという。




