2話~現実逃避は無理~
いつのまにか知らない場所で目が覚めたので不思議に思って周囲を見回した。すると、さっきまで俺が寝ていたベッド…と思われるものや、木製の丸椅子が一脚あるだけでそれ以外に置物はなく、外の景色が見えるはずの窓は傷がついて曇りガラスのようになっていて見えないようになっている。
っていうか、窓に手が届かないんだけどなんで?
そこで俺はある重要なことに気づいてしまった。
そういえば俺の身長だったならまず窓は、胸より下に来るはずなのに何で俺は窓を見上げているんだ。
窓を再度開けようと手を伸ばす。とても柔らかそうであまりに頼りなさそうな小さい手が視界に入る。
……は?
もう一度、手を伸ばす。先程見た、見慣れない小さすぎる手が視認される。
「………おぅ」
一瞬、頭の中が真っ白になる感覚を覚えた。そして無意識に自分の体をぺたぺたと触り、何か異常が無いかを確認し、念のため今の俺の体を目でも見てみる。
髪は、さらふら。俺の髪は剛毛だ。ほっぺたはぷにぷにでマシュマロみたい。俺の頬はざらざらしているぞ。小枝のような手足。俺の足はごつかったし、腕にもそれなりに筋肉はついてましたが? そして、軽く声を上げると聞こえてくる甲高い声。歌のパート分けは常にバスをキープしてましたよ。
結論、こんなの俺じゃない。
これは……夢だろう? 夢だと誰か言ってくれよ。普通死んだら地獄か、天国。もしくは三途の川に行くんじゃないのかい? なのに、さっきまで変な浮き沈みするのを感じた後になんで見知らぬこどもにならないといけないんだよ。
目の前に突きつけられた現実に目を背ける自分と、俺は生まれ変わったのだと直感が告げているという2人の自分がいる。それがより一層俺を混乱させる。
「ああ、そっか。痛みを感じれば夢かどうか分かるじゃないか」
ふわりと浮上してきた名案をすぐに実践するために、右手で頬を抓る。思いっきり抓る。凄い痛い。
「えぇぇ~……。痛いし、目が覚めないし散々だ」
すぐに頬から手を離すが、痛いものは痛い。普段よりも繊細に感じる痛みに視界が軽くぼやける。
それでも、何か方法はないかと諦め悪く考えるが思いつかない。それどころか考え疲れたのかすぐに、目蓋が重くなってくる。生理的欲求に従い、ベッドで横になろうとするが、扉の向こう側からノックの音が聞こえてきたため口を開こうとする。しかし、返事を待たずに勢いよく扉が開け放たれる。
…返事をしようとした瞬間にドアが開いたから、心臓が飛び出るかと思ったじゃないか。
見ると、俺と同じ茶髪を持つ少女がヒョコリと顔を出している。どうやらさっきのはわざとだったようで、俺の予想通りの反応に満足そうな顔をしていた。
「テオ! 夕食の準備出来たからはやく来ないと無くなっちゃうよ!」
「うん、わかったよセリア姉さん」
「よろしい」
俺の返事に満足したのか、ニコリと笑って少女は出て行った。
…何故自然に名前が出てきたし。
理由は分からないが、顔を見た瞬間に名前が思い浮かんだのだ。
もしかしたらこの体は俺とは別の人のものかもしれない。
そうだとしたらこいつは一体何者で、この俺が目覚めるまでの間をどう過ごしていたのか早急に知る必要が出てきた。多分、俺なら出来る! カモン! マイバディーズメモリー!
適当に気合で(脳内で)心からのシャウトをしてみると、頭の中にバラバラではあるがいくつかの情報が流れ込んできた。さっきの幼い少女、セリア・ウィステリアは俺の3歳上の姉。さっきの行動から見て思った通り悪戯好きだが、誰にでも優しい?らしい。
「そして俺の名前はテオ・ウィステリア……3歳か。………3歳!?」
自然と流れ込んできた外国人っぽい名前と、驚愕の年齢に思わず目をひん剥いたが、さすがにこれ以上考えても仕方ないと思い、家族の居る所へ行こうと扉を開けようとする。しかし、開かなかった。
「……こういう経験は初めてだから新鮮だ」
この幼い外見には不相応な諦観したような溜め息を吐き、仕方なく全力で跳んで取っ手を回す。全く、なくなって分かることがあるっていうけど、まさにその通りだね。早く伸びてくれないかな。
扉を開けると、目の前には手すり。下を覗くと玄関らしきものがあり、家の内装は非常に質素で、余計な飾り物はぱっと見一切無い。っていうか、生活で必要になるもの以外は全て削り取ったような印少がする。そして、俺が居る場所より上の階は無く、素材が木製であることからこの家は2階立てで木製の家だということが判明した。ついでにこの体、今日まで碌に考えてなかったな。ここまで考えただけで少し頭痛がするとか………ボチボチ頭も使っていこうか。
階段を見つけて家族が集まっている所、まあリビングだろうな。そこになんとなくで歩いて辿り着くと多分家族だろうね。若い男女の大人、どっちも男らしく女らしいオーラを纏ってる。と、セリア姉さんとあと一人俺より頭1つ2つ大きいくらいの男の子が居た。……兄かな。そんなことを考えながら席に着くと、左目に三本の大きな傷跡をもつ男、多分父。が、口を開いた。非常に痛々しそうである。
「よし、皆集まったな。それじゃあ、”頂きます”」
父の号令に続いて俺達も手を合わせて言った。自然の流れだったから俺もするりと言葉が出たのだが、ここで、ようやく気づいたことがある。
……何で俺、日本語じゃないのに言葉が理解出来て、尚且つ言葉が喋れるのかな? まあ、自分から喋ろうと思ったら普通に日本語になるんだが、咄嗟に出る言葉は俺が聞いたことのない、それこそ英語でもフランス語でも中国語でもない言葉だった。
えぇ~……俺、新しい言葉覚えないといけないの? 本当にこれ夢じゃないのかこれ。早々に現実逃避したくなってきたんだが。
内心汗と涙を流し、それをニコニコと笑って誤魔化しながら食事を楽しんでいた。少し硬めのパンとブドウを1、2粒食べた。食事終了です。頑張ってお腹の減りが遅くなるように何回も何回も噛みました。そんなに美味しくなかったです。…………はあ。
とりあえず、現状じゃ俺は率先して喋ることなんか出来ないので会話の内容からここがどんな所かを考えてみることにした。出来るだけ世間話が混ざってくれていると尚嬉しい。
そこで気づいたことは、まず、規模が国というにはあまりにも小規模で農作物を作って税金を領主に納入していること。
そして、識字率はそこまで高くなく、我が家では父と母以外には長男である兄のカーンが文字の読み書きが少し出来る程度だということ。話の流れからして、書斎がある様子。文字が読めたら読むか。
他にも魔法があったり、モンスターがいたりなど挙げてみるといくらでも出てくる。
まあ、全てを簡潔にまとめるとここは異世界。以上。
………っていう風にあっさり納得出来たら良いんだけどねえ。食事中に見知らぬ言葉の応酬が次々とされて、ただ呆然と口の中にある少し硬いパンを噛み続けることしか出来なかったよ。
そんなこんなで俺にとっては衝撃的だった食事を済ませた後、何をしようかと考えていると兄からもう寝ろと言われた。っあ、こいつ絶対真面目だな。将来堅物になるね。俺には分かるよ。
………うん。まあ、丁度なんかどうでもよくなってきたから早く寝るか。明日にはこれが夢であることが分かることを願って。……もし、これが現実だったらどうしよう。




