1話~プロローグ~
こんにちは、こちらに初めて小説を投稿させてもらう黒部 愁矢です。
この小説は主人公がのんびり生活するものですが、意外とノリで進む場面もあるはずですので気軽に楽しく読んで頂けたら幸いです。
人の多くは人生の中で死にかけるような体験を1度はしたことはあるだろう。
そしてそういうことを他人に言うと、大抵クラスに1人は「一度もそんな体験はしたことがない」と胸を張って自慢をする奴がいると思う。
…確かにそんな死にかける体験をしていないこと自体は一度も危険な状態になっていないから誇れることなのだろう。だが、決してそのことは誇れても自慢出来る事ではないと俺はそんな奴らに忠告してやりたい。そんな出来事は特に憑かれてない限り人生で数回あるかないかなのだから、幼い頃にしっかりと遭遇して無事に死地から生還してくると良いだろう。きっと成長した後に遭遇したら幼い頃とは洒落にならないくらい危険度が上がっているに違いない。
だから、俺は早いうちにそんな危ない体験に出遭ってさっさと済ませてしまうことを全力で推奨する。
ん? なんでこんなことについて語っているのかだって?
「グルアアァァァアア!!!」
「うおぉう!!? あっぶな!!」
俺の右横にいる少年が咄嗟にしゃがみ、その頭上を三本の線が空気を切り裂いて通り過ぎた。そして、そんな攻撃を放った奴の容姿を俺はぼんやりと確認した。
俺より縦にも横にも大きな体格、全身を覆う黒い毛、両手両足から生えている鋭く長く伸びている爪、血走った目、何でも噛み切れそうな歯、熊のような耳。
……どう考えても熊ですね。しかも左側に二頭目………はあ。
そんなわけで俺は今絶賛現実逃避中である。
こんな状況になったのにも少し前の出来事が関係している。
「っは? 山登り……ですか?」
それはコンピュータ室で突如として響いた言葉。すぐに理解出来ず、隣に座っている俺の混乱の元凶を生み出した少女に同じ言葉で聞き返した。
「そう、山登りよ。もう夏休みで暑くなってきたから山で涼むのも良いじゃない?」
その少女は何故か自慢げにほとんどない胸を張って、理由を告げた。
「暑いからって…。一応ここクーラー効いてますしどっちかというと暑かったら山より海じゃありません? 部長」
俺が言った通り、コンピューター室はコンピューター部員総勢6名(内3名が受験勉強のためほぼ幽霊部員)が占拠しているため正直言ってやりたい放題である。そのため、涼むと言えばここでひたすらクーラーにあたりながらネットをすれば良い話なのだが…
……ああ。そういえばもう一つ心あたりがあったな。まあその前に我らが部長、大野真由子について簡潔に説明しておこう。
高校2年生で俺の一つ上の先輩、そして小柄な身長(153)、それに見合った体重(目測)、性格は活発で気分屋、しかも他人も半強制的に巻き込む。そして何か表情から人が心で思ってることを当てるのが地味に上手い。ここまでで2回脇腹に肘鉄くらった。痛い。
ちなみに今までここまで言ったあたりでなんとなく分かる人もいるかと思うが今回のこれは間違いなく部長が気分で山に行きたいと思ったのだろう。うん、これしかない。
だとすれば俺の返答は一つしかない。
「分かりました。それじゃ、いつもの2人も連れて行きますね?」
「うん。明日の9時に駅で集合しよっか、邦介君」
「はいー。それじゃ俺はもう帰りますねー」
「じゃあねー」
そう言って部長は小さな手を振ってきたので俺ものんびりと手を振り返して帰宅した。
さて、次の朝俺達4人(部員の1人は辞退した。しつこく言って逃げてた)は現在近場の山の麓にいる。
「はーい。皆揃ったねー? それじゃーしゅっぱーっつ!!」
「おー!!」
部長がハイテンションで右腕を斜め頭上で突き上げるのと同時に俺と平均より少し高めの身長の少年が1人一緒に声つきで右腕を掲げていた。ちなみに俺ともう1人は無言ではあるが同様の行動はした。
「はい! 邦介君も乾君もノリが悪いよー! なんなら頂上まで競争する?」
途端俺こと門音邦介と隣の乾賢治は顔を引き攣らせた。
「い、いや部長それは止めときましょうよ。ここはのんびr」
「よーっし。それじゃ位置について…よーいッドン!」
「「あー…」」
俺達は一緒に走っていったノリは良い男、日野寺明と部長の走る背中をぼんやり眺めた後、顔を見合わせた。
「「……面倒くさい」」
そして一つ溜め息を吐いた後に2人を追いかけ始めた。
「あはは。2人とも遅いねー。5分も待ったじゃん」
俺達がやっとの思いで頂上まで駆け上がると待っていたのは明のドヤ顔と部長のニヤニヤ光線だった。なんて歓迎されたくないものなんだ。
「いや…。先輩の運動神経が良すぎるんですよ。なんで山道をアスファルトで走るのと同じ速度で走れるんですか」
この部長、そこらの男子よりは圧倒的に運動神経が良い。小さいのに…。というか何でこの人運動部に入ってないの? そしてそれに引き離されずついて行った明も男子の中ではトップクラスだ。
「っふ。邦介も賢治もだらしないな」
「…あんたらが速過ぎるんだ! 僕達みたいに途中で一度は休憩するのが普通なんだよ!」
隣で乾が息を切らせながらつっこんだ。おいおい、きついならしなくてもいいじゃないか。
それをにやにやしながら部長が眺めていると、不意に部長が持っている携帯の着メロが鳴った。なんだろうか?
「友達からだ……あー」
部長が画面を眺めながらなんだか微妙な顔をして口から音を出している。何があった。
聞いてみようかと思った俺の気持ちを代弁するかのように明が尋ねた。
「大野先輩、どうしたんですか? そんな表情で画面を見てから」
「あー、うん。これから友達が”私”のために勉強会をしてくれるみたいでね。後3時間以内にその子の家に集合しないと”お仕置き”が待ってるみたいなの」
「あー」
いつものことか。
部長は準脳筋のためか学力が芳しくなく、友達思いのSっ気のある部長の友人がよく突発的に勉強会を開くのだ。しかも強制参加で予定に遅れたら恐ろしいお仕置きが待っている。1度部長がお仕置きされているのを見たことがあるがあれはトラウマものだった。
だから今回も冷や汗をかきながら全力で帰るのだろう。
「と、というわけでごめんね3人とも。私は急いで帰るからー!!」
「……頑張ってくださいねー」
行きのスピードを遥かに超えるスピードで部長は走り去った。一体本気で走ったら何秒台になるのだろうか。正直言ってあの人のスペックが計り知れない。
「っはー。んで、どうする? 賢治、明」
「ここをしばらく楽しんでから下りないか?」
賢治が息を整えながら素早く提案してきた。そんなに休みたいか。
「んー…。俺はなんとなく早く帰りたいな。なんか変な感じがする」
俺も賢治の提案に同意しようとしたのだが、何か神妙な様子で明が言ってきた。
「変な感じって?」
「なんか、こう…頭の中でもやもやあってした感じ?」
「「いや、全く分からん」」
「……ああ! 面倒くさいな。やっぱ乾の提案通りにここで少し楽しんでから帰ろう」
「おう」
「よかった…」
そして現在休憩した後にゆっくりと談笑しながら帰っていたら何故か熊2頭にロックオンされるという不運極まりない出来事に陥っているわけだ。
こうして現実逃避している間も俺の足はきちんと働いてくれて、3人で逃走している。勿論後ろからはドスドスという重い音が聞こえてきて、微かにそれが近づいているように思える。
…今思えばあの時、明の言うとおりに帰っていればこのようなことにならずに済んだのかもしれない。明の直感は今度からあてにさせてもらおう。
「それで! どうするよ邦介。この状態はいつまでも続いてられないぞ」
明が並走しながらこちらに向けて叫んできた。
確かにこんなほぼ全力疾走の状態は数分と経たずに終わって、終わった瞬間あのやたらきれている熊達の餌食になってしまうだろう。
だが、現状で一番やばいのは乾だ。俺は180センチという長身のために長い足を生かして、大股で走れば多少は体力が保ち、明も173と平均的だがその有り余る体力で俺よりも余裕があるように見える。しかし、乾は165とこの中で最も小柄な上に、身長を考慮しない運動神経で言ったら俺と同程度しかないのだから既に汗がやばいことになっている。
「…も、無理」
このような言葉を先程から呟いている。
そして次の瞬間、事件が起きた。乾が木の枝に引っ掛かり前のめり倒れたのだ。
その時に本能的に転ばないように何かを掴むのは必然的であり、その手の先には俺の足首が丁度目の前にあった。
だから…
「ぬお!!」
「邦介! 賢治!」
俺も同時に前のめりに倒れることになる。
そして明が思わず立ち止まり、こちらに向かってこようとする。俺は急いで後ろを向いて熊達との距離を確認する。よし、まだ40メートルはあるな。
「明! お前はさっさと逃げろ!」
「っ! …分かった。お前も生き延びろよ!」
そう言って俺達に死亡フラグを立てて走り去った明。恐らくあっちは助かるだろうが、こっちは…やってみてもいいが無理かな。
俺と乾の足は既に疲労でガクガクしていてさっきのように走るのはすぐには出来ないだろう。
乾は既に賢者モードに入っており、現実逃避しかけているため恐怖の表情は見られないが諦めた表情をしている。まあかくいう俺も似たようなものなのだが。
そして数秒後二頭の熊が俺たちの前で止まり、その人の命を簡単に奪うことが出来そうな爪を右目に傷を負った熊が俺を、もう1頭の熊が乾の首目掛けて振り下ろした。
そして、俺の意識は消滅した。
そしてどれほどの時間が掛かったのかは分からないが、俺は目覚めた。いや、目覚めたといっても周囲は何も見えず、頭はぼんやりとしていてついさっき何を考えていたかも忘れてしまいそうだ。これは一体どういう状況なんだ…?
その後俺は意識が沈んでしばらくしたらまた浮上してまたぼんやりと何かを考えている内に沈んで……。ただこれが繰り返され、回数すら数えられずこれが数回行なわれたのか数千回行なわれたのかすら分からない。
だが、ある時意識が浮上した時は今までとは違い明るいものが俺の目に飛び込んだ。そして、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の順に感覚が元に戻っていき……。
「……知らない天井だ。………それに俺の声が変だ。高すぎる」
俺は知らない部屋にいた。
3月12日 改稿しました。




