19話~子供の遊び~
「それじゃ、クィール。教えてくれてありがとう」
とりあえず別れの挨拶は済ませてこの輪を出ることにした。クィールは俺に飛び入り参加してみないか。と聞いてきたが、丁寧に、笑顔で断った。なんか皆素手での戦い方が転ばせたり体当たりをしたりって見るからに怪我前提の攻撃じゃん。怪我をしても治せるけど態々怪我なんかしたくないって。
――第一に面倒くさいわけだが。
とりあえず、見かけない奴が来たと皆が俺に物珍しげな視線を送ってきたのでそそくさと逃げるように退散することにした。
「よっし。釣りポイントまで走るか」
最近俺はちょっとした体力作りのために家から森までのんびりと歩いていくのではなくほぼ全力疾走に近い速度で向かうことにしている。少なくともいつでも全力とはいかなくても、ある程度の速度で走ることが出来ればいいという望みで毎日頑張っている。
しかし、これがやたらときつい。家から釣りポイントまで大体1、5キロくらいあるが、今までにそれを走破出来たことはない。悔しかったから一回だけ裏技を使って走破したが、それはカウントしない。
そして今日は1キロほどでダウンした。前よりは格段に長くほぼ全力疾走出来ているから走破出来るのにもそう時間は掛からないだろう。
走るのを止めて。残りの道を息を整えながら歩いていると、池には先客がいた。俺と同じように釣竿を岩の上から垂らして獲物が釣れるのを待っている。
「キアーラ。何か釣れた?」
「まだ釣れてない」
どうやら結構待っているが一匹も釣れていないようだ。尻尾は苛立たしげに岩を叩き耳もセンサーのようにぴょこぴょこ動いている。
「まあ釣りは慣れないと上手くいかないよ。気配を消して魚が食いついたところを少しだけ待って、そこで釣り上げたらいけるんじゃない?」
「テオ…。必死でどうすればいいのか考えているのに横から口を出さないでよ」
俺が反射的に助言をすると、キアーラは俺の方にゆっくりとじと目付きで振り向き、文句を言ってきた。どうやら更に機嫌を損ねた様子。
「あ! ごめんごめん。ついいつものようにしてた」
「…ふん」
「隣に座るよ」
今いる場所は俺がこの近辺で知る限りでは中々良い場所だから俺は隣に座ろうとした。キアーラはそれを一応許可したようで、右手で隣の位置をぽんぽんと叩いた。そこに座れという意味なようだ。
俺達が釣りを始めて1時間ほど経過した。俺の桶には半分ほどまで魚が入っており、隣の彼女の桶には2匹の魚が泳いでいる。これで若干彼女が不機嫌になって機嫌をなおしてもらうのに苦労した。
あ、そういえば判明したことが一つ。
攻撃スキル。例えば”空手”なんかはただ筋肉があれば強くなるんじゃなくて熟練度の高いか低いかで威力が決まるようだ。だから”空手”がそれなりに嗜んでいる俺が”空手”を習得していない年上のごつい兄ちゃんと喧嘩をしたとするが、俺が勝っちゃう。という端から見たら不思議な出来事が起きるのだ。まあ多少は型通りに動かないと威力が半減しちゃうけどね。
そこから考えると一つちょっとした問題が出てくる。
俺の攻撃スキルには”剣術”と”空手”があるのだが、”空手”の熟練度を30とすると”剣術”の熟練度が5くらいしかないのだ。つまり剣を扱うより素手でたたかった方が強いと。しかし問題というのはそこで、避けることが出来ない攻撃が来た時どうやって素手で受け止めろという話だ。一度だけ父さんにお願いして俺が素手で父さんが木刀という形で手合わせをしたが、手刀で木刀の攻撃を逸らそうとして大変な目に遭った。
ということはしばらく”剣術”が安心できるレベルになるまで保留ってことになるかな。
「テオ」
スキルの考察に夢中になっているところにキアーラが、疲れたのか釣具を片付けながら俺を呼んできた。どうやらお昼にする様子。
「分かった。昼の準備をしよっか」
俺は魚を3匹残し、それ以外は池に戻した。それなりに戻しとかないと毎日食べてるからいつかここから魚がいなくなりそうで怖い…。
そして俺は小枝を捜す。のではなく木の魔法を使って薪に使えそうな枯れ木を複数本同時に出した。魔力消費のためにできるだけ消費魔力の大きい木属性を使ったのだ。それに魔法同士なら自然のものよりもバランスがそれなりにいいのか、火の魔法で普段より強めに燃やすと丁度良い具合に燃え出してくれる。
あ、そうだ。これで串を作れば上手くいきそうだな。
「はいキアーラ。これで魚に刺したら前よりは良い感じになると思うよ」
「これは…? なんか細くてすぐ折れそうだけど」
「大丈夫だよ。それなりに堅くしてるから」
なんたって今まで使ってきた串代わりのものはそこらへんで見つけた適当な枝をナイフで削ったものだから度々折れてしまうのだ。それならば魔法で作った串ならある程度強度の方も安心していいはず。と思い作ったそれは上手くいったようで、すんなりと魚の胴体に突き刺さった。
――…地味に木の魔法って便利だな。
「…キアーラは俺を呼びに来た時にはもう父さんから話をされていたりする?」
魚を焼いている間暇つぶしにさっきまで思っていた疑問をぶつけた。
「された。最初にどの武器が欲しいって聞かれたり『俺にはキアーラが冒険者になるのを引き止める権利はない』って言われた後にいくつか冒険者になるための条件を出されたよ」
つまりほとんど話された内容は同じと。
「それで、どんな条件だった?」
「まず、ソルリス学院で必要だと思う学科を受けてから卒業することと、絶対に死なないこと。後は偶には顔を見せに来ることだって」
「…ふーん。愛されてるねえキアーラは」
「っな!? からかうな! そういうテオはどうだった?」
「俺は本気の父さんに組み手で一回でもいいから勝つことと、ソルリス学院で最低でも回復魔術は受けてから卒業すること………くらいかな?」
最後の条件を言うか言わないかで随分迷ってしまった。いやだってあれを言っても何も変わらないだろうよ。
「ねえ。今の間はなに?」
「いや、なんでもないよ」
「そう…?」
「ま、まあそんなことより武器は何を貰うことにしたの?」
「バスタードソード」
「……え?」
今何か凄い言葉が聞こえた気がする。
「だからバスタードソードよ。これが私には丁度良い感じの重さだったから一本だけにしたわ」
バスタードソードって3キロくらいはあったよな…。さすがキアーラさん。腕力半端ないっす。
気づいた時には俺の背中から冷や汗が流れたいた。
「へ、へー。凄いなキアーラは。はははは…」
俺の口からは勝手に乾いた笑いが出ていた。ついでに苦笑付きで。
――本格的に力勝負じゃ負けそうです。




