16話~日曜大工~
「くくく…。ようやく完成だ」
俺は一人家の裏で薄く笑っていた。そして俺の手の平は両手ともぼんやりと光っている。
端からこの光景見たら10人中9人が俺を危ない人、もしくは病んでいる人だと思ってしまうだろう。――だが、俺にはそんなことは一塵も気にならない程気分が良かった。
これは本格的に魔法も修行し始めて、1,2週間経ったある日のお話。
実は俺にはこの世界に来てから納得できないことが一つだけあった。
――村に風呂が一つも備え付けられていないとはどういうことだ?
ある日俺は父さんにそのことをそれとなく聞いてみたのだが、風呂は貴族が嗜んでいるか温泉が湧いた所で普及されている程度らしい。ここらへん聞くと昔のヨーロッパを思い出すね。特に貴族だけが使う高級なものだってあたり。
だが俺も転生をして姿形は変われども日本人としての精神は変わってないつもりだ。だから体を清潔にするために川で体を洗ったりもしている。
…それでも冬の日は寒すぎて入れないが。
しかし! 俺のそんな身も心も温まらない生活は終わりを告げた! 俺は魔法で風呂を作ることを覚えたのだ!!
「見られないように急いで作るか。こんな所を見られたらまたなんか言われそうだな」
俺は意識を元に戻してから、右手の茶色の光と左手の青色の光を組み合わせ、そのまま地面に勢いよく振り下ろした。するとそこから五右衛門風呂のような形に加工された木が出現した。しかし、五右衛門風呂のような形とはいっても中身はくり抜かれてはいない。
「…さすがに中身をくり抜かれたとこまでイメージしたのは作りきれなかったか。まあいい。風でここらへんを切ってっと」
そう、最近なんとなく右手と左手で違う魔法を発動することは出来ないのか? という単純な疑問のもと突発的に始められた練習により、魔法を発動させることは結局いくらやっても成功はしなかったが、なんとか相性の良い属性同士かつただの魔力の状態でなら左右それぞれに違う属性の魔力を篭めることは出来たのだ。
更に偶然にも喜びすぎたことでそのまま右手と左手を組み合わせたことで魔力が混ざり別の属性が生み出されたのだ。ちなみにその時生み出された属性が”木”である。
これによって俺の頭に風呂作り計画が閃き、現在に至るのだ。
「…よし。こんな感じかな?」
あの頃の感動を思い返しながら俺はカマイタチで中身をくり抜く作業を続けていたが、やはり魔法は便利で普通に短剣で削るよりも効率的に済ませることが出来た。一応くり抜いた木も何かに使うかもしれないと思い一塊の状態で取り出した。
「後はー。水は漏れないだろうから問題はないけど、どうやってお湯にするかだよなあ。実際に下から温めてもいいけど、木が燃えないとも限らないし。…あ、別に水を張ってから火の魔法で都合よく火加減を調整すればいいか」
意外とすぐに解決策が出たことに安心しながら五右衛門風呂もどきの中に水の魔法を流すイメージをしたときに俺の手がぴたりと止まった。
――そうか。別に火で温めなくても温かい水の魔法をイメージすれば済む話だな。
考え直して、お湯のイメージをすると俺の右手の平から水が流れ出てきてそこからは白い煙があがっていた。どうやら魔力は普通の水より消費が激しいが、上手くお湯を出すことに成功したらしい。
「そんでお湯加減は…よし! 良い感じ!!」
そして俺は服を脱ごうとした時またもやピタリと動きを止めた。裸を見られる可能性があると思ったのだ。いや、別に見られること自体は平気だけど村人から変な目で見られるのは嫌だからなー…。うん。土の壁で囲おう。
そう思うや否や両手に土属性の魔力を貯めようとした。が、思ったほど貯まらなかった。
精々障子2枚程度の土の壁を作り出せる程度だろう。
「しゃあない。今日は2枚で我慢するが、明日には完全防備で入浴しよう」
意外と早くおとずれた魔力の枯渇に俺は内心悪態を吐きながら地面に両手をつけて土壁を2枚形成。勿論考えうる限り俺の裸体が目に入らない配置に作った。
「ようやく入浴までこぎつけた。もうこれで心配することはないから思う存分に体を温めるか」
ようやく服を脱いだ俺は五右衛門風呂もどきへと自らの体を投入した。
「っふうーーーー。7年振りの風呂だけど最高だなあ。まじ疲れがとれる」
普通に川で水浴びをするよりは段違いの気持ちよさだ。毎日風呂に入ってたときは気づかなかったけど、あれって最高の娯楽なんだね。
「…ていうか魔法便利すぎだろー」
さっきも俺の魔力の枯渇によりあれ以上土の魔法に魔力を篭めることは出来なかったが、別に枯渇しても動けなくなるわけじゃない。枯渇に気づかずに魔力を篭め続けるから体がしばらく言うことを聞かなくなるのであって、魔法自体は上手く節約しながら扱えば肉体だけより何倍も効率が良くなるだろう。
実質、木の魔法なんかも形、大きさは自由自在なわけだからそこらへんの木を切り倒すのよりもお得である。まあ魔力消費は他よりも意外と多めだけど…。
「テオ。お前はこんな寒い時期に一体何をしてるんだ?」
「あ、兄さんおはよう。早かったね? それと見ての通りお風呂に入ってるよ」
「風呂は貴族だけの特権だと俺は思っていたんだがなあ…。それにその風呂の形は東の端にある国で使われているタイプだろう?」
兄さんが軽く混乱しながらもこの風呂のタイプを分析していた。っていうかこっちの風呂って五右衛門風呂もどきが主流なのは東国の方か。っていうかそれ日本もどき?
「んー。まあそんな感じかなあ?」
俺は不自然な驚きを見せて不審に思われないように適当に返した。
「それにしてもこれはどうやって作ったんだ? さすがにお金を貰っていないお前が買ったということは考えられないだろうし」
「ん? ああ。これは僕が魔法で作ったんだよー」
すると兄さんが途端に呆れたような驚いたようなよく分からない表情をしながらぽつりと一言だけ呟いた。
「魔法って凄いんだな…」
俺もそう思うよ。
「うん。っあ、兄さんも後で入る? 体が癒されるよ?」
「ああ。そうだな。最近父さんから家を任されても大丈夫なように勉強してるから疲れてるから助かる」
「分かったー。それじゃ風呂から出た後に温度を少し上げておくからね」
「おう。ありがとな」




