15話~俺の可能性~
「やっと朝か…。キアーラさん起きて」
俺は結局離れそうになかったキアーラを起こす時間になるまで眠かったが朝まで耐え、何度目になるかは分からない右腕に引っ付いている腕を丁寧に外そうとする行為をしてみる。しかし、さすが獣人というべきなのか俺程度の腕力じゃちっとも動かない。
「ん…んうー」
体が動かされたことで起きるのか? っと思ったがむしろ俺の右腕がキアーラによって更に侵略されたしまった。
…っていうかもしかしてキアーラさん起きてんじゃね?
思い立ったが吉日。早速反応せざるを得ない言葉を前世での経験(主に壁の向こう側で得た知識)を元にして選んだ言葉を言ってみる。
「起きて腕を放してくれないと…キスしちゃうよー? …口に」
「っふぁい!! 起きました!!」
途端に開眼してはねおきるキアーラ。成る程。やはり起きていたのか。っていうか少し噛んでるよ?
「やっぱり起きていたのか。ということはさっきのは俺に対する悪戯かな?」
にっこりと少し黒めの笑みを顔に浮かべながら若干焦って自由にはねた寝癖を直していたキアーラの動きが一瞬だけ止まる。そして少し冷や汗をかきながらだが、簡潔に。だが、それで大体が分かりそうになるような言葉を返してきた。
「それは…お母様が、そうした方がテオが喜ぶって言ってたから…。駄目だった?」
成る程。これらの行動は全て母さんが後ろで糸を引いていたのか。っていうかキアーラさん。上目遣い止めて下さい。喜ぶ以前に反応に困ります。
「いや、駄目じゃないけどー。うーん。ま、まあ今はそんなこと気にせずに下で朝食食べようよ!」
「う、うん。そうだね」
「「昨夜はお楽しみでしたね」」
朝食をとるためにテーブルに皆が集まってくると不意に母さんと姉さんがニヤニヤしながら俺とキアーラに向かってそのある意味定番ともいえる言葉放った。まあ定番とはいっても俺がその言葉を言われる日が来るとは思わなかったのだが。
「んな!?」
「昨夜はお楽しみでしたね…?」
そして照れる俺とは違いキアーラはその意味を理解出来ていないのか首を傾げて反芻している。
「あらあら。テオはこの言葉の意味も理解するなんて…。おませさんねえ」
「止めてよ母さん。それにそんなことは何もしていないからね!」
「あの…テオ。”昨夜はお楽しみでしたね”とはどういう意味なの?」
「うん!? いや、知る必要もないことだから特に知らなくてもいいよ!」
「まあいいわ。それじゃ、朝食をとりましょ」
(キアーラちゃんと呼び捨てで呼び合う仲になったなんてあの子も中々やるわね)
などとファイが心の中で思っていたことはここにいる誰もが知らなかったそうだ。
それからも母さんから何度かひやかされながらもいつも通りの魔法の勉強と、トレーニング、という名の暴力である父さんとの組み手をこなした。
組み手は始めた時よりは多少ましになったとは思う。正拳突きも当たる直前で少しは威力を分散させることや、回し蹴りにも反応できるようになった。だが、それよりも個人的にダメージになってはいなくとも10発攻撃を仕掛けた内、1発は攻撃が父さんに届くようになったことが1番嬉しい。今までは手刀や裏拳で軽く止められていたのだから大きな進歩だとは言えるだろう。
「あ、テオ。まだ動いちゃ駄目だよ」
「あー…うん。毎回ありがとう」
そして毎回ボロ雑巾になった俺をキアーラが回復させてくれる。
「それにしてもテオは朝も思ったけどあまり腕力はないんだね」
「まだ成長途中だからそれに期待してみるよ。っていうか俺は同年代の子よりかは腕力は上の自信はあるよ?」
「ふーん。それでもお父様には全く攻撃が通らないね。それにまだ40連敗だよね?」
確かにその通り。俺は今のところ父さんと闘い続けてまだ一度も勝てていない。一方キアーラは一度ではあるが、ぎりぎり父さんに勝ったのだ。そんなに大きな力がこの細い腕のどこに篭っているかが不思議なところだ。
「うーん。そうなんだよねえ。そこが今のところの課題。それにキアーラに先に勝たれちゃったし。その腕のどこにそんな大きな力があるんだよー」
「それは私が獣人だからっていうのもあると思うけど、体全体を使って攻撃をしてるからじゃないかな?」
分からない。という言葉が続くかと思ったが予想外にもキアーラの口からは詳しい答えが返ってきたことに軽く驚いた。
「体全体を使う…かあ。それのことをすっかり失念していたよ。うん。ありがとうキアーラ。参考になったよ」
「ど、どういたしました」
「?」
お礼を言っただけだが、顔を少し紅潮させて返事をしたキアーラは少し語尾が変だった。
俺は毎日の習慣のようになった釣りをするために池のほとりに来た。のではなく今日は少し違う目的のために来た。
俺が魔法を使ってどんなことまで出来るかだ。最近魔法は母さんから教わっている時しか使ってないから全く調べていなかったのだ。だから俺が使える魔法の属性の確認もまだ火と回復魔法くらいしかしていない。
だから最初に水、風、土、雷が発動できるか試してみようと思う。
「まずは、水…。水球でいっか」
火を出す時と同じ感覚でしてみると、思ったよりも簡単に手の平の上に普段出している火球よりひとまわり程大きな水球がぷかぷかと浮かんでいた。とりあえず水は発動できる。確認してからは素早く池のほうに投げ捨てる。魔法は止まっているのを発射するよりもそのまま人力で投げた方が魔力効率が良いらしい。そして池に投げ込まれてたところからは大きな水しぶきがあがった。
「おおう…水すげえ。次は風か」
風の球はいまいちイメージし難く発動しなかったため、風の刃を飛ばすイメージをしながら右腕を水平に振った。するとそこから何かが放たれる感覚がし、一秒後にはナイフで切り傷をつけたかのような痕が木の幹についていた。どうやら成功したらしい。
作業のように5属全てを試してみたが、結局5属の魔法は全て発動でき、俺と相性が良さそうな属性は水、土、雷だということも判明した。その属性を使う時だけ火や風よりも規模が少し大きくなったからだ。
そして更に実験を続けた結果新たな発見もあった。まあこれは後で実戦に使おう。
「くっくっく。これがあれば父さんにも太刀打ち出来るはず…!」
「テオ。何で地面に倒れたまま笑ってるの?」
死角からキアーラの声がした。だが、俺は顔を向けない。いや、向けれないといったほうが正しいだろう。
「えー…。魔法を使いすぎたお陰で体が全く動かなくなった」
魔力量がどのくらいあるのか分からなかったが、とりあえず実戦で使ってたらすぐになくなる程度の量ということが判明してしまった。
「テオ。頑張りすぎだよ」
俺は苦笑しながら自分のステータスを確認した。見るのは体力と魔力の部分だ。
――あー…やっぱ予想通り魔力は使えば使う程上限が増えるのかー。
少し前に見た時は体力のゲージの半分ほどしかなかったのだが、今はそれよりも少しだけ大きくなっている。母が「戦争に行った魔術師はよく魔力が強くなった気がする」と言っていたのは本当のことだったしい。ということは魔力は毎日限界まで使えば少しずつではあるけれど、上限は上がっていくってことかあ。
「テオ。今日は勉強教えるのは止めとく?」
しばらく俺が動かないのが心配だったのだろうか。顔を近づけたキアーラが尋ねてきた。
「いや、大丈夫だよ。もうそろそろ体は動かせそうだから」
「そう。よかった」
そして俺は笑顔を綻ばせるキアーラに面と向かって座って、いつも通り文字の読み書きを教え始めた。こう俺がキアーラに教える日というのも教えたことの吸収具合を見るとそう長くないんだろうな…。




