12話~迷った時は告げ口です~
今日は専願模試の日だから学校が休みなので意外と早く更新できました^^
男は右手で俺の肩を逃げないようしっかりと掴んだまま左手で顔に殴りかかった。
「なに!?」
「っは。遅すぎるよ! っと」
しかし、俺がまだ成長途中で細身だからなのか、このレベルが一般的なのかは知らないが遅すぎる。じっくりとどう攻撃をするか考える余裕が出来るほど遅すぎる。
もしかするとこいつは騎士だと言いながら実は口だけなのかもしれない。
そう思いながら俺はこの目の前の許せない男の顎を勢いよく蹴り上げ、うめく様な声が男から絞り出された。
「この平民風情が…。いい気になるなよ!!」
どうやら咄嗟に少しだけ後ろに顔をそらしてさっきの蹴りを防いだらしく、すぐに体勢を立て直してこちらに襲い掛かろうとしていた。
きっと今この男の頭の中では「まともにやり合えば確実に自分が勝てる」とでも思っているのだろう。事実、俺と敵との身長は見た感じ15センチ程あり、腕力差も体格を見れば歴然としている。俺が負ける可能性が高いのは一目瞭然だった。
だがそれは俺が普通の7歳児だったらの話だ。俺は、普通の子供とは違い頭も回るし体も鍛えている。
「早く向かってきなよ人間の成り損ない。俺の蹴りが恐くて近づけないのか? ん?」
安い挑発で相手が怒るよう仕向けた。多分人を見下した発言してる所からプライドだけはさぞお高いのだろう。予想以上に顔を真っ赤にさせて突進してきた。
「うおおおおおおおっぉおお!!?」
雄たけびを上げながら突進してきたと思ったら急に驚いたような声に変わった。見るからにあほみたいな顔をして上を見上げている。
そりゃそうだろう。殴りかかったその腕に俺が手をついて逆立ちのような体勢をしているのだから。そして逆立ちをした勢いで両足を男の肩に乗せ、そのまま体重を移動して相手に馬乗りしている状態で押し倒した。
「ぐあ!」
相手の肺から空気が押し出される。
この奇抜な動きは”軽業”のお陰で出来たのだ。このスキルを上達させたら世紀末の荒くれ者を華麗に始末しまくる人のように首をぐりっとすることもできるだろう。
「さてと…キアーラに謝れ。そうしたら許してやる」
俺は馬乗りで相手を動きにくくしてから言い放った。
「あのような下等種などに話すなど虫唾がはしるぐあ!」
「なら許さん」
言葉が終わる寸前で俺は顔を殴った。間髪入れずにもう一発。更に次も…。
「――ッ!!」
勿論叫ばれるのも癪に障るから口を塞いで殴り続ける。
何か涙目で訴えているような顔を見て何か心の隅で痛むものがあったがそれを無視して殴り続ける。
「っはあ…っはあ。……終わりか」
50発を超えて男は白目を剥いて気絶をしたあたりから俺はようやく殴り続けるのを止めた。
「よし。キアーラさん、帰ろっか」
「え? あ、分かりました」
くるりとキアーラの方向を振り向くと少し口を開けたままぽかんとしていたが、呼びかけるとすぐに我に帰り、俺の方に小走りで来た。
「いいんですか? テオさん。あれは放置しても」
「うん? 多分すぐに目を覚ますと思うから大丈夫じゃないかな」
「そうですか…」
「…」
「…」
なんでかな。いつも一緒に帰るときはこんな感じに静かなのに今日はその沈黙が痛い。というかさっきのはちょっとやり過ぎたんじゃないかな…。あ、やばい。今頃やっちゃった感が出てきて冷や汗がたくさん出てきた。
「…やりすぎた……かな」
「え?」
無意識に呟いたのが聞こえたらしい。キアーラが不思議そうにこちらを見ている。
「いやさ。さっきのはちょっと殴りすぎちゃったかなーって」
「そんなことないですよ! 私のせいでテオさんが殴ることになっちゃったのですからテオさんは全く悪いことはしてません!」
「え?」
予想外の言葉に俺はしばらくぽかんとして驚いていたが、キアーラは言葉を続けようとする。
「それに…。本当に守ってくれて嬉しかったですし…」
「え? 最後の方何て言ったの?」
そうは言っているが、元々耳がいい俺はキアーラが顔を赤くしながら呟いた言葉を聞き逃さなかった。ちょっとからかいたくなったのだ。
「…なんでもありません!!」
「そ、そっか。でもありがとう」
「ぁぅ…」
顔を赤くして言うキアーラに笑いながらお礼をして、さっきはしなかったがキアーラの頭を撫でた。さっきの言葉が嬉しすぎて俺まで顔が赤くなりそうだったのだ。
撫でてみると予想よりも髪が滑らかで触り心地が良く、耳もふさふさして長い間触り続けていたいと思わせるものだった。
さすがに長い間撫で続けると気まずいから3秒くらいして手を離した。
すると俺の方を若干恨めしげに見てきたからやはり撫でたのが悪かったのだろうか。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
その後会話をするでもなく帰ってきたのだが、応接室には父さんの所を訪れてきた客人がいた。恐らくさっき気絶するまで殴った男の親なのだろう。その男性がこちらに気づくとにこやかに声を掛けてきた
「お、子供たちか。可愛らしいじゃないか。…獣人?」
「ああ、オルクス。その子も。俺の家族のキアーラだ」
「初めまして。キアーラと申します」
「はっはっは。礼儀正しい良い子だな。よろしく、私はオルクス。君達のお父さんの友達だよ」
オルクスは獣人が何故この村にいるかということに疑問を抱いただけらしく家族だということを知ると先程と変わらない笑顔で俺たちと話をしてくれた。あの子供の親とは到底思えない善人ぶりだな。
「それにしても息子が遅いな。少し外に出てくると言っただけなのだが」
「あ、多分息子さんにはさっき会いましたよ」
俺はオルクスが差別をする人物ではないと判断し、さっき起きた出来事を一言一句間違えずに伝えた。そして伝えている間にもオルクスの顔が段々と険しくなっていった。
「なるほど…。それはお仕置きが必要だな」
「父さん!」
オルクスが少し息子の心配をし始めると突然ドアが開かれ、ボロボロの息子が戻ってきた。
「どうした!? 息子よ。なにがあったのだそんなにボロボロになって!!」
「そのことだけど父さん。今すぐ殺して欲しい奴がいるんだ!」
「…誰だ。言ってみろ」
「えーっと。ってそいつだ! そこのガキが卑怯な手を使って俺を出し抜いたんだ!」
しばらく相手の特徴を考えていた息子だったが、俺を発見すると憎憎しげに俺の方を睨みながら叫んだ。
「そうか…。だが、自分から喧嘩。しかもキアーラちゃんを貰うとまで言うという自分勝手なことをしておいて負けたんじゃあ私の息子としても騎士としても私はお前の方が許しておけないなあ」
オルクスが意地の悪そうな笑みを浮かべながら息子にそう告げると途端に息子は顔面真っ赤から顔面蒼白へと早変わりした。
「え、えーと」
「まあとりあえず続きは馬車でしよう。ロイさん今日は息子が迷惑をかけたようですまないな」
「いや、大丈夫だ。テオの力試しにもなった」
「そうか。まあロイさん直々に育てたんなら歳の差は関係ないな」
そう言って笑いながらオルクスは息子を引きずって出て行った。




