第32話 出会い(??視点)
積み上げてきた時間も。
努力も。
期待も。
全部、あの狐と爆発の一瞬で吹き飛んで――何一つ、残らなかった。
家族はいない。
家もない。
魔導もない。
そして、未来も、ない。
「……」
何も言わずに歩いていた。
どこへ向かっているのか、自分でも分かっていない。
ただ、足が動くから動かしているだけ。
立ち止まる理由も、歩き続ける理由も――どちらもなかった。
空っぽだった。
本当に、何もなかった。
――ただ、生きているだけの存在。
それが、今の自分……それだけ。
そんな僕の前に、二人の大人が現れた。
水上那奈と、水上明。
両親の知人……だった人たち。
今となっては、その繋がりすら遠い。
「……――くん」
明の声が、わずかに震えていた。
「生きていてくれて……本当に、良かった」
ゆっくりと、肩に手が置かれる。
温かい。
人の体温。
そのはずなのに、どこか遠く感じられた。
「……そうですか」
返事は短かった。
感情は乗らない。
ただ、音として返しただけ。
それでも、明は構わず続けた。
「君の魔導回路のことは聞いた」
一瞬だけ、言葉が詰まる。
そして、
「……正直、今の医療ではどうにもならない」
はっきりと告げる。
「……」
うつむいた。
分かっている。
もう、何度も聞いた。
何度も理解した。
何度も、”終わった”と確認した。
……それでも、
誰かの口から改めて言われると、ほんの少しだけ胸の奥がざわついた。
「――でもね」
明が、ゆっくりと言葉を続ける。
「一つだけ……可能性がある」
その言葉に、視線が、わずかに動いた。
本当に、わずかに。
期待なんてしていない。
そんなもの、もう持っていないはずなのに。
それでも――”可能性”という単語は、完全には無視できなかった。
「……可能性?」
かすれた声。
明は、小さく頷いた。
「……ああ」
そして、振り返る。
「来てくれ」
僕が連れていかれたのは――
『零式魔導雑貨店』だった。
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「……ここは……」
目の前の建物を見上げた。
看板。
外観。
どう見ても、ただの店だ。
どこにでもありそうな、小さな雑貨店。
「雑貨店……?」
思わず、そう呟く。
明は、わずかに口元を緩めた。
「ただの雑貨店じゃない」
カラン――と。
扉を開けると、鈴の音が鳴る。
店内は、薄暗かった。
照明はあるはずなのに、光が沈んでいるような感覚。
棚には、見たことのない魔導器具が並んでいる。
用途不明。
形状も、意味も、直感的に理解できない。
その奥、壁一面に魔導書が並んでいる。
ぎっしりと、重苦しいほどに。
そして、カウンターの奥に一人の少年が座っていた。
「あれ? 水上さん、久しぶり」
この日、少年は彼に出会った。
『紅蓮蹄のよるべ編』は、これで終わりです。
次は「恋ばな合宿編」です。




