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第31話 零式特例対処機関

皆さん、お久しぶりです。


親を説得して、何とか復帰できました。

三か月のブランクがあるため、文章が拙かったり、キャラの性格が変わったりしてるかもしれないですが、どうか暖かく見守ってください。


よろしくお願いいたします。

 ――『一週間後』――


 俺は、いつもの帰り道を歩いていた。


 夕焼けに染まりかけた空。

 電柱の影が、やけに長い。


 角を曲がり、看板の前で足を止める。


 ――零式魔導雑貨店。


 カラン、と小さくベルが鳴る。


「ただいまー」


 返事はない。いつも通りだ。


 カウンターの奥、自分の作業スペースに鞄を放り投げる。


「さて……続きやるか」


 机の上には、解析途中の魔導式。


 中央に浮かぶのは、半透明の立方体。

 淡い紫の光を脈打たせながら、内部の紋様を絶えず組み替えている。


 ――ルーンキューブ。

 古代系統魔導式の記録・再構築を担う遺物。


「……ほんと、とんでもないもん拾ってきたな。あいつ」


 ため息混じりに、浮かぶ文字列へ視線を落とす。


 刻まれているのは――


「“虚界咲キョカイショウ”。触れた対象を“異質化”か」


 物質構造の書き換え。

 魔導回路の再定義。

 生体すら例外じゃない。


「……存在ごと書き換える花、ね。趣味悪すぎだろ」


 思わず顔をしかめてる。


 黒ローブ。芝居がかった口調。

 リッチの「クロ」

 そして――祖父の元部下。


 あいつの“主君”は本来、俺じゃない。


 祖父――“魔人”と呼ばれた人だ。


 ただその血縁というだけで……なぜか俺に忠誠を向けてくる。


『フハハハハ! 慧よ! ついに我は“禁忌の叡智”へと至ったぞ!』

『……それ、どこで拾ってきた』

『古代遺跡である! 命の危機? 三回ほどあったな!』

『帰れ』


「通常運転すぎるだろ……」


 額を押さえる。


 クロ――元『不死身』という二つ名が付き、恐れられ、封印されてしまった古代人である。


 それを友人兼部下にした祖父も祖父だが、従い続けているあいつも大概だ。


「……まあいい」


 視線をキューブへ戻す。


 危険なのは分かっていた。

 だが――想定より、一段上だ。


「……面倒な依頼、受けちまったな」


 そう言いながらも――手は止まらない。


「面白いけどな」


 口元が、わずかに歪む。


「とりあえず……安全領域の再構築からだな」


 空中に補助式を展開する。


 干渉遮断。

 制御補助。

 強制停止トリガー。


 一つずつ、無駄なく組み上げる。


 ――そのとき。


 カラン。


 店の扉が鳴った。


「君主よッ!!」


 勢いよく扉が開く。


「ついに我が“虚界咲”は目覚めたか!?」


「帰れ」


 即答した。


 ===============


「……で? なんで来た」


 椅子に座り直し、ため息をつく。


「“で”、ではない。我は見届ける義務がある」


「何のだよ」


「禁忌が開かれる瞬間だ」


「言い方が物騒すぎる。もうちょい言い換えろ」


「ロマンだ」


「お前のロマン、だいたい危険物なんだよ」


「ヌフフフ」


「”ヌフフフ”、じゃねぇよ!!」


 絶対楽しんでいる。


「はぁ、まあいい。ちょうど最終段階だ」


 再びキューブへ向き直る。


 魔導式は、すでに原型をほとんど留めていない。


 歪みは切除済み。

 暴走要素も分離して、再構成も完了した。


 最後の一節を書き換える――。


「……よし」


 魔導式が、静止する。


 キューブの光も落ち着いた。


「終わりだ。“虚界咲”――解析完了」


 一瞬の静寂。


 そして――


「おおおおおおおおおおおおお!!!!」


「うるせぇ!!」


 クロが爆発した(精神的に)。


「で、どうなんだ!? 使えるのか!?」


「……一応な」


 立ち上がる。


 本番はここからだ。


「再構成済みだ。暴走はしない……はず」


「はず!? 何故だ!?」


(うるさい)


 鉄のスプーンを手に取る。


「いいから、試すぞ」


「来た……!」


 クロが一歩下がる。明らかに楽しんでいる。


「……”虚界咲”」


 空間が、わずかに歪む。

 音も光もない。


 ただ、“異質”だけが生まれる。

 手の魔法陣に――透明の花が咲いた。


「……これが、“虚界咲”」


 ガラスのようにで、液体のようで。

 存在しているのに、どこか曖昧。


「美しい……!」


「見た目はな」


 スプーンに触れさせる。


 ――ぐにゃり。


「……は?」


 クロが固まる。


 曲がったんじゃない。

 定義が、変わった。


 金属は崩れ、次の瞬間――透明な液体へと変質する。


「触れた対象の“存在定義”を書き換える……」


 花を指先で回す。


「……制御できれば、使えるな」


「使えるなじゃない!! 世界壊せるぞこれ!!」


「そんな使い方しねぇよ!」


「君主ならやりかねん!!」


「やらない!!」


 信頼がない。


「はぁ、とにかく」


 花を消す。


「――依頼は完了だ。キューブは再構築した式に置き換えてある」


「フハハハハ! さすがは()()()の後継――我が君主!」


「だからやめろって」


「では覇王」


「言い換えただけだろ」


 会話が疲れる。


 クロは満足げに踵を返す。


「さらばだ君主よ! 次は“魂を分割する魔導”を――」


「持ってくんな!!」


=======================


――同時刻・国家魔導局の本部――


 会議室。


 円卓机に座っているのは、国家権力魔導士の頂点――上級魔導士のみだ。


 誰一人として無駄な動きを見せない。


 中央には、都市の立体地図。

 その上に重ねられた、複数の魔力波形データ。


 異常な揺らぎを示していたはずのそれは、すでに“終わった事象”として静止している


「――先週発生した魔導テロの概要です」


 報告しているのは、水上那奈。


「被害は未然に抑制。人的損害はゼロ。原因となった古代系統魔導式は、完全に無力化されました」


 ざわめきはない。

 動揺もない。


 ――ここにいる者たちは、その意味を理解している。


 理解しているからこそ、反応しない。


「……ゼロ、か」


 誰かが、低く呟く。

 それは疑問ではない。


 ”あれが動いたなら、そうなる”。


 それだけの話だった。


「対処を行ったのは――」


 那奈は淡々と告げる。










「――()()()()()()()()です」








 一瞬だけ、空気が止まる。


 だが、それは驚愕ではない。

 緊張でもない。


 ――確信。


 ”それ以外あり得ない”という、共通認識だ。


「……零式?」


 その静寂に、わずかな亀裂が入る。


 席の端。


 新たに上級魔導士へ昇格したばかりの男が、戸惑いを隠せず口を開いた。


 声が、わずかに浮いている。

 この空間に、馴染んでいない。


「失礼します、水上”上級魔導士”」


 立ち上がる動作に、わずかな硬さが残る。


「その……”零式特例対処機関”とは、何でしょうか」


 視線が集まる。


 敵意はない。

 軽蔑もない。


 ただ――“理解していない者を見る視線”だ。


(((そこからか……)))


 言葉にはならない。

 だが、空気がそう告げている。


「……説明は俺がする」


 那奈の横に座っている男が、静かに身を起こした。


 水上明。


「……まず前提だ。ここにいる連中は、”知ってる側”だ」


 一拍だけ、わずかに間を置く。


「お前以外はな」


 新任の男は、息を呑む。


「本来、零式は上級魔導士しか共有されない。各国でも、知ってるのはごく一部だ。この情報は外に出せない」


 間を置かず、続ける。


「後で契約魔法を結ぶ。例外はない」


 断定。

 拒否権も存在しない。

 それだけで、この話の“重さ”が伝わった。


「……零式特例対処機関――通称、零式。

国家が“扱えない案件”を処理するための機関だ」


「……扱えない、とは?」


「国家が動くと問題になる案件だ。

――今回みたいに、俺たちでも、手に負えない類とかも扱う」


 明は簡潔に言い換える。


「そして、零式は記録に残らない。法の外で動く。成功しても、失敗しても、“なかったことにできる”」


 新任の男の表情が、わずかに歪む。


「国家の管理下にはある。が、指揮系統には属さない」


 一拍。


「解決方法は問わない。違法行為も黙認。評価は結果のみ。国家は介入しない」


「……そんなものが、許されるんですか?」


 かすかに震える声。

 当然の反応だった。


「許さないと、今頃の日本は……いや、世界が終っている」


 ほんのわずかに視線を逸らす。


 ――那奈と、目が合う。


 言葉はない。

 だが、通じている。


 ()()の人物を、思い浮かべていることも。

 その結論が一致していることも。

 

 確認は、それで十分だった。

 すぐに視線は外れる。


「……名前は?」


 新任の男が問う。


 わずかな沈黙。


 明は、静かに口を開いた。


「……名前は必要ない」


 一拍。


「ただ、覚えておけ」


 ほんの僅かに、声が落ちる。


「――俺たちは、そいつをこう呼んでいる」





 


 ――”魔人”と。






=======================


 慧は片手で小さな箱をつまみ、中身を口に放り込んだ。


「うまいなぁ、やっぱ」


 もぐもぐと咀嚼する。


 コンビニ商品、『から揚げ丸くん』。


 もう片方の手では、魔導式が静かに展開されていた。

 幾重にも重なった術式が、空中に淡く浮かび――精密に組み上がっていく。


 油の香り。

 機械の微かな駆動音。


 ――川縁慧。


 かつて“魔人”と呼ばれた男、川縁玄統(げんとう)の孫。

 そして――“零式”を継いだ者。


 


 当の本人は――


 


「……この式、ちょっと無駄多いな」


 


 そんなことを呟きながら、から揚げをもう一つ口に放り込んだ。

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