第28話 魔人 VS 焔槍機レッドグリムβ=Ⅱ
――古代兵器。
それは、この世界における”禁忌の遺産”である。
今から――四十年前のことである。
大国が、とある遺跡から発掘された”古代兵器”の研究をしていた。
その古代兵器、一機が誤って起動。
その結果――
三つの国が、地図から消えた。
侵略でもない。
戦争でもない。
”戦い”という概念すら成立しなかった。
その迎撃に出たのは、各国が誇る精鋭『国家権力魔導士』。
――その中でもトップレベル『上級魔導士』たち。
その数、一万人。
上級魔導士が100人いれば、条件次第で一国を落とせる。
そのせいで、今も上級魔導士は『殲滅者』と呼ばれている。
閑話休題。
そのを殲滅者と言われる存在が、一万。
それが――
たったの一機に、壊滅した。
時間は、記録されていない。
戦闘の詳細も、残っていない。
ただ結果だけが、冷たく刻まれている。
――『国家権力魔導士、一万人死亡』
遺体の大半は確認されず、残ったのは……装備品らしき鉄くずだけ。
そして、その後――”他の四つの国”が消える。
都市も、人も、歴史も、文化も。
まるで最初から存在しなかったかのように。
たったの一機の古代兵器で、合計7つの国が――滅んだのである。
その古代兵器が破壊された後――各国は決めた。
回収しない。
研究しない。
利用しない。
ただ一つ。
“見つけたら、関わるな。”
それが、唯一の生存戦略と。
制御不能。
理解不能。
人が扱うには強すぎる、ではない。
それが、『古代兵器』。
そして今……その“規格外”が目の前で
――起動している。
床から現れたのは――上半身は『人型』、下半身は『馬型』という異形の古代兵器だった。
『繋がっている』のではなく、『一体化している』。
その全身を、神経のような魔導回路が脈動しながら走っている。
生きている。
だが、生物ではない。
そして――その右手。
「……炎の槍」
”在る”。
燃えている、ではない。
空間そのものが焼け、歪み、
圧縮された炎が、無理やり槍の形に固定されている。
熱量が、異常という言葉で済まない。
「ハハ……」
喉の奥で、乾いた笑いが漏れた。
「最後の悪あがきにしては――派手すぎるだろ」
――ギィィィィィ……
鈍い、軋み。
『人』の頭部が、ゆっくりとこちらを向く。
赤い光。
センサーが、”捕食者の目”で俺を捉える。
『対象……認識……』
無機質な音声。
『排除……開始……』
――来る。
そう思った瞬間には、もう遅い。
消えていた。
「――ッ!!」
反射で横へ跳び、ビルの外へ出る。
次の瞬間。
――轟 音。
さっきまで立っていた場所に、炎の槍が叩きつけられる。
爆発ではない。
沈む。
コンクリートが、音もなく“液体みたいに”溶け落ちる。
地面が、赤熱しながら歪む。
「……威力、笑えないな」
着地と同時に、被害を最小限に抑えるため周囲に結界を展開する。
――これはマズイ、と。
「”対熱”、”対衝撃”、”対貫通”、”対魔力干渉”!!」
瞬時に多重構造。
範囲は狭いが、魔導ミサイルでも耐えれるつもりで張る。
空間が歪み、透明な層が幾重にも重なる。
――兵器の脚部が沈む。
(――来る!)
踏み込む。
――爆ぜた。
地面が抉れ、空気が裂ける。
一直線。
迷いがない。
そして――速すぎる。
「速っ……!」
質量があるはずなのに、慣性が“無い”ように見えてしまう。
何とか攻撃を回避した――
次の瞬間、兵器はその勢いのまま『炎の槍』を結界に叩き込む。
――――パリン。
軽い音。
あまりにも、軽すぎる。
「は……?」
一瞬、理解が遅れる。
次の瞬間、結界が“存在しなかったかのように”粉砕された。
抵抗も、拮抗も無い。
ただ――通過したのだ。
「マジかよ……!?」
反射で後退。
だが、古代兵器は止まらない。
『馬』の胸にある赤いコアを、こちらに向ける。
そして――赤い光が、収束する。
(まずい――!!)
直感が叫ぶ。
――発 射。
赤い光線が、空間を“削りながら”走る。
存在を焼き消すような、直線の破壊。
(――【■■魔導】!)
踏み込む
両手を前に出す。
「星骸系――”星骸光芒”!!」
黒い光が、解き放たれる。
死んだ星の残滓。
重力と崩壊を孕んだ、黒の奔流。
――激突。
赤と黒が、空間の中央で噛み合う。
レーザーを押し返す。
だが、その間にも――嫌な予感が背筋を走る。
先まで居た、古代兵器の姿が――居ない。
(――!?)
一瞬、認識が遅れる。
視界の端に、ソイツは居た。
炎の槍を、こちらに振りかぶって。
「――ちッ!」
反射で身体を捻る。
熱が、皮膚を裂くように走る。
遅れて風圧。
空間そのものが削られる感覚を感じた。
それでも――ギリギリで躱す。
焦げた空気を吐き出しながら、大きく距離をとる。
「……なるほどな」
視線を細めて、相手を観察する。
「この兵器は完全に――“対集団魔導士用”の兵器だな」
速度。
火力。
耐久。
どれもが過剰。
いや――”過剰であること”を前提に設計されている。
(今の接近は、古代系統魔導の“距縮”か。
――なら、さっき結界を砕いたあの槍も同《古代》系統か)
舌打ちが、乾いた音で漏れる。
(あの熱量……間違いない。
古代系統魔導――“恒星炉”を槍状に変化させている)
――恒星《太陽》の中身を、そのまま叩きつける気かよ
「……そりゃ、国も消えるわ」
古代兵器が、再び構える。
「――でも」
ゆっくりと、俺の口元が歪む。
――それだけだろ?
恐怖はない。
焦りもない。
次の瞬間、兵器が踏み込んだ。
――爆発。
地面が弾ける。
一直線に加速、加速、さらに加速。
質量と速度を叩きつける、真正面からの蹂躙。
空気が裂ける、アスファルトが砕ける。
俺は動かない。
一歩も。
半歩も。
ただ、その場に立つ。
(落ち着け……)
重心を落とし、足裏で地面を掴み、呼吸を整える。
視線は一点。
迫りくる『軌道』だけ。
他は、全部捨てる。
熱が皮膚を焼き、衝撃が鼓膜を叩き、視界が揺れる。
それでも――動かない。
まだだ。
まだ――
(……その軌道)
小さく、言葉を吐き捨てる。
「――単純すぎる」
――俺は踏み込む。
真正面じゃない。
ほんの数センチを、外側へ”ズラす”。
紙一重で回避を狙う。
世界がスローモーションになる。
巨大な質量が、視界のすぐ横を『通過する』。
風圧が身体を叩く。
だが、当たらない。
――空振り。
完全な無防備の隙。
(――もらった)
【■■魔導】
「星骸系――”星屑軌葬”」
刹那、俺の周囲に『死んだ星の残骸』が出現する。
軌道を描き、回転し、重力を帯びた残骸が環を形成する。
指をわずかに曲げる。
星骸が一斉に加速する。
古代兵器の真正面ではなく――無防備な側面へ。
――ドォンッッ!!
衝撃。
大きな巨体が弾き飛ばされ、地面を削りながら宙へ浮く。
『――異常――理解不能――適応中』
(おいおい、適応機能まであるのかよ。なら――)
――適応する前に壊す。
間を置かない。
地面を蹴り、一直線に追う。
空中へ。
そこで、機械兵の“すぐ隣”に並ぶ。
視線が交差する。
認識が追いつく前に――俺は拳を握る。
圧縮、収束。
手の中で、黒い螺旋が渦巻く。
【■■魔導】
「深淵系――”深淵穿孔”」
――ズドンッ!!
殴る。
ただの打撃。
だが、その内側で“穿つ”。
黒い螺旋が拳から解き放たれ、装甲、内部構造、空間ごと抉り取る。
――押し通す。
「――……」
古代兵器の動きが、止まる。
完全停止。
空中で、時間が止まったかのように静止する。
次の瞬間、内部から崩壊が始まる。
軋み、裂け目、遅れてくる破壊。
俺はもう見ない。
空中を蹴る。
身体を反転させ、そのまま機械兵から距離を取る。
直後――
――バァァァァンッ!!!
爆ぜる。
貫かれた一点を中心に、巨体が弾け飛んだ。
残骸が雨のように降り注ぐ。
その中を、俺は静かに着地する。
「……終わり、か」
肩の力を抜く。
そのとき、背後からかすかな声。
「……は、はは……」
振り返る。
男がまだ笑っていた。
ビルの瓦礫で下半身が埋まっている。
「それ……すら……壊すか……」
「まぁ、仕事なんで」
「……化け物だな……」
男の意識が、完全に落ちる。
「……さて。後処理めんどくさいな、これ」
長く息を吐く。
ビルは半壊状態。
壁は割れ、窓は砕け、内部はほぼ見えている。
それでも――
(外への被害は最小限、か)
周囲の建物には、大きな損傷はない。
「……そこは褒めとくか」
視線を落とす。
さっきまで意識があった男。
「『召喚』って言ってたよな? どうして、古代系統魔導を使えれたんだ?」
古代系統魔導は、世界の理を理解できる者でしか使えない。
世界的にみても『古代系統魔導』を扱える魔導士は、片手で数えれるくらいしかいない。
(――古代系統魔導を扱える薬でも完成したのか?)
「もし、テロ組織全員が古代系統魔導を使えていたら――」
ぽつりと呟く。
「はぁ……嫌だな。争いって」
立ち上がる。
建物の奥へ、視線を向ける。
気配はもうない。
術式も、兵器も、術者も全部止めた。
「……一応、依頼完了でいいか」
肩を回す。
そのとき、ポケットの端末が震えた。
「おっと」
取り出して、画面を見る。
着信。
「……仕事が早いな」
軽く笑って、通話を繋ぐ。
「もしもし」
『慧、無事?』
那奈の声。
少しだけ、緊張が混じっている。
「無事ですよ。そっちは?」
『こちらも問題なし。ただ――』
一拍。
『都市全体の魔力異常が、急激に収束した』
「でしょうね」
建物をちらりと見る。
「原因、潰したんで」
『……本当に、あなたは』
那奈が小さく息を吐く。そのため息には、呆れと安心があった。
『状況、説明できる?』
「できますけど、長くなりますよ」
『構わないわ』
「じゃあ簡単にまとめると――」
歩きながら話す。
「予兆は全部フェイク。本命は一点集中型でした」
『なるほどね』
「で、術者は捕獲済み。あと最後に」
少しだけ間を置く。
「古代系統魔導で、ケンタウロス型の古代兵器が召喚されました」
『……は!?』
珍しく、那奈の声が大きくなる。
「いや、俺も同じ反応しましたよ。”は?”って」
『それを、あなた一人で!?』
「まあ」
軽く笑う。
「壊しときました」
『……怪我人は?』
「いません」
『……明にも聞かせたいから、スピーカーにするわ』
『ちょっと待て那奈!? 本当かそれは!?』
すぐに、明の声が割り込む。
「どうも」
『慧、本当に古代兵器を!?』
「ええ。騎乗型、炎の剣持ち。近接特化の高速機でした」
『それを単独で制圧したのか!?』
「まあ、動きは単純だったんで」
『『単純で済ませるな!!』』
二人の小さなため息が聞こえる。
「で、どうします? これ」
周囲を見渡す。
「現場、そこそこ派手に壊れてますけど」
『……こちらで処理するわ』
那奈がすぐに答える。
『あなたはもう離脱していい』
「了解」
『ただし』
少しだけ、声が低くなる。
『後で詳細報告。逃げないでよ』
「逃げませんって」
苦笑する。
「ちゃんと帰りますよ」
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――結界の外――
テロ組織が張っていた『人避けの結界』は、まだ機能していた。
多分、空気中の魔素を使った魔導具で『結界』を張っているのだろう。
その件については、明や那奈達に頼んだ。
結界の外に出ると、何も知らない人たちが普通に笑っている。
店の明かり。
遠くの車の音。
誰かの話し声。
「……まあ」
小さく呟く。
「こういうのが、一番いいか」
何も起きていないように見えること。
それが――
「一番、正しい終わり方だ」
軽く伸びをする。
「帰るか」
その背中は、少し疲れた高校生に戻っていた。
【あとがき(というより補足)】
みなさん、こんにちは。
ここでは語られませんでしたが、みなさん……40年前に起きた古代兵器はどうなったのか?
……気になりませんでしたか?
実は、古代兵器は無事に破壊されました。(良かった)
ただし――古代兵器を破壊した人は、『国家権力魔導士』ではありません。
つまり、無名の人が倒しました。
一体、誰が倒したのか……。
ということで、皆さん予想してみてください(笑)
結構先だけど――後々、その人物の正体が分かります(・∀・)ニヤニヤ
楽しみにしてて!
そして――本作をご覧いただき誠にありがとうございます。
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