第27話 魔人 VS テロ組織②
――弾けた。
球が崩壊し、赤い直線の“波動”へと変わる。
飛ばされた男の身体が、その軌道に触れる。
一瞬。
抵抗すら許されず――消し飛ぶ。
肉も、骨も、まるで最初から『なかった』かのように。
「……っ!」
俺はその波動を紙一重で躱す。
床が抉れる轟音が、遅れて聞こえてきた。
男は上階から飛び降り、床に着地する。
再び赤い球体が歪む
(星核の重力を模した重力波……直線収束型か)
当たれば終わり。
まぁ――
「当たらなければいい」
吐き捨てると同時に、俺は踏み込んだ。
波動が唸る。
軌道、間合い、発生の癖。
すべてを一瞬で噛み砕き、身体をわずかに沈める。
視界の端で爆ぜる光。
身体を滑り込ませ、距離を縮める。
そして――男の目の前に着いた。
「っ!?」
男は焦りのままに腕を振る。
粗い。
そして――読みやすい。
俺はその手首を“叩き落とす”。
――バシィッ!
乾いた衝撃音。
そのまま内側へ潜り込む。
「――っ!」
呼吸が触れる距離まで近づく。
そこで初めて、男の目が”理解”する。
――もう、終わってる。
俺は肩をぶつけるように踏み込み、体重を預ける。
体勢が崩れる。
その瞬間――鳩尾に拳を撃ち込む。
――ドンッ!!
空気を押し潰す一撃。
「が……ッ!?」
男の身体が折れる。
呼吸が止まる。
だが、そこで終わらせない。
崩れた上体に合わせて、肘で顎をかち上げる。
頭が跳ね上がり、視線が泳ぐ。
さらに一歩踏み込み、俺はそのまま男の襟元を掴み、強引に引き寄せる。
「く……そ……ッ!!」
男は反射で魔導を起動しようとする。
手に光が集まり始める。
その腕を取り、肘関節に指を掛けて捻る。
ミシリ――骨が軋む。
「ぐぁああッ!!」
悲鳴。
構わず、そのまま身体を回転させる。
重心を奪い、足を払う。
――ドンッ!!
男の身体が地面に叩きつけられる。
倒れた瞬間、俺はその胸元に足をたたきつける。
――ゴンッ!!
鈍い音。
肺の中の空気が、強制的に吐き出される。
「……っ、は……ッ!」
呼吸が壊れる。
目の焦点が揺れる。
それでも、男は手を伸ばす。
再び光。
しぶとい。
だが――その手首を、俺は踏みつけた。
「――――」
魔導の収束が、完全に潰れる。
俺はゆっくりと足を離し、立ち上がる。
動かない男を見下ろす。
同時に、
――キィィィィィ……
嫌な音が空間に走る。
「……あー」
魔導文字が赤い光を放っている。
「これ、止めないとまずいやつだな」
術式はまだ生きている。
むしろ――
「暴走しかけてる」
男は意識を失っている。
制御者なし。
なのに止まらない。
「……面倒くさいな」
ため息をつく。
だが、足は止めない。
術式の中心に向かって、急いで歩く。
床一面の“巣”。
その核を見抜く。
「……ここだ」
足を止め、静かに手をかざす。
「終わり」
次の瞬間、
――音が途切れた。
「……はい、終了」
小さく息を吐く。
張り詰めていた空気が、一気に抜けた。
床に刻まれていた術式は、ただの“痕”に戻る。
「……危なかったな」
ぽつりと呟く。
「さて」
倒れている男へ視線を向ける。
壁際。
呼吸はあるが、完全に意識は落ちている。
「黒幕って感じでもないし……中間管理職ってとこか」
近づこうと、一歩踏み出した――その瞬間。
――ズズ……。
床の奥、さっき“壊したはず”の術式のさらに下。
「……あ?」
低い振動が、足元から伝わる。
「……おいおい」
眉をひそめる。
「今の、完全停止したはずなんだけどな」
振動は、止まらない。
むしろ強くなる。
「……ダミーか」
舌打ちする。
「”本体”は別にあるタイプね」
そのとき、男がわずかに笑った。
「……く、くく……」
「お前、まだ意識があったのか」
「はは……さすがだ……魔人……」
血を吐きながら、男が顔を上げる。
その目には、狂気と――確信。
「だが……遅い……すでに『召喚』された」
次の瞬間、
――ゴォォォォ!!
建物全体が、鳴った。
床が、内側から押し上げられる。
「……っ!」
即座に後退する。
「来るぞ……!」
男が笑う。
「古代兵装……『焔槍機レッドグリムβ=Ⅱ』……!」
――ドンッ!!
床が、完全に砕けた。
その下から現れたのは――
「……は?」
思わず、声が漏れる。
巨大な影。
紅蓮の脚。
重厚な装甲。
それは――
「……ケンタウロス?」
機械型の『馬』と『人』が融合した古代兵器だった。




