第26話 魔人 VS テロ組織①
扉を押す。
ギィ、と軋んだ音。
中は暗い。
電気は点いていないが、視界は問題ない。
「……」
一歩、踏み込む。
その瞬間。
――ゾワッ。
背筋を撫でるような感覚。
「……なるほど」
足元を見る。
床一面に刻まれている。
円。
線。
重なり合う無数の魔導文字。
「……術式の”巣”だな」
しかも一つじゃない。
幾層にも重なっている。
現代魔導の構築とは、明らかに違う。
「……雑だな」
ぽつりと呟き、足を踏み入れる。
その瞬間――
「ようこそ」
上から、声が響いた。
視線を上げる。
吹き抜けの二階。
手すりにもたれかかるように、一人の人物が立っている。
長い外套。
顔の半分を覆う仮面。
その奥で、わずかに笑っている気配。
「待っていたよ、魔人」
「どうも」
軽く手を挙げる。
「お出迎えご苦労さまです」
「余裕だね」
「まあ、それなりに」
視線を巡らせる。
「で、これ全部あんたの?」
床の術式群を顎で示す。
「美しくはないが、機能的だろう?」
「いや、普通に気持ち悪いです」
「ははは、正直だな」
仮面の男が笑う。
「だが、それも仕方ない。これは“再現”だからね」
「再現?」
「失われた体系の、ね」
空気が、わずかに震える。
「古代系統魔導」
男は、ゆっくりと言った。
「世界がまだ理を確立する前の時代に、使われていた魔導だ」
「……それを都市でやるの、だいぶイカれてますよ」
「実験だからね」
あっさりと返ってくる。
「成功すれば、新しい時代が来る」
「失敗したら?」
「都市が2つ程消えるだけだ」
「軽いなぁ」
肩をすくめる。
「で? その“実験”、もう終わりかけてるみたいですけど」
「鋭いな」
男がゆっくりと手を上げる。
「今まさに、”接続”の最終段階だ」
空間が、きしむ。
見えない何かが、噛み合っていく音。
――キン。
また、あの音。
今度は、連続して。
キン、キン、キン、と。
「……あと何分?」
「3分、といったところかな」
「短いな」
「だろう?」
「いや」
一歩、前に出る。
「――止めるには長い」
「……ほう、来るか?」
「ええ」
軽く答える。
「これも仕事なんで」
「そうか」
一拍。
「では、ここで死んでもらう。――囲め」
次の瞬間――気配が一気に増える。
視界の外、死角、上階、柱の影。
俺の口元が、わずかに歪む。
「いい配置だ。でも――」
肩を回す。
「人数が足りてないな」
――来る。
合図はない。
だが、全員が“同時に動いた”。
最初に来たのは、右側の相手から。
踏み込みが深く、殺意が前に出すぎている。
半歩だけ引き、拳が鼻先を掠める。
その『通り過ぎる力』に合わせて、手首を取る。
引くのではない、『流す』。
そのまま身体を捻り、相手の体勢を崩す。
――ドゴッ!!
背中から地面に叩きつける。
骨がミシミシと鳴り、肺が潰れる。
(一人目)
間髪入れずに、後方から攻撃が来る。
ナイフを片手で横薙ぎ。
速いが、軌道が単純。
腰を落として回避し、そのまま踏み込む。
『内側』へ。
「な――」
敵の声が漏れる。
肘を、鳩尾に叩き込む。
――バンッ!!
身体が浮き、そのまま首根っこを掴んで、後ろに投げる。
――ドシャアッ!!
背後の一人を巻き込んで、二人まとめて転がる。
(――上)
”加速”を使った超高速落下攻撃。
タイミングは完璧。
だが――
(見えてる)
視線を上げない。
『気配だけ』で位置を取る。
一歩、横へ。
着地の瞬間。
その膝に、蹴りを差し込む。
――ゴキッ。
「ぁ……!?」
関節が逆に折れる。
体勢が崩れたところに、顎へ掌底をいれる。
――ガツンッ!!
脳が揺れて、意識が落ちる。
(――三人目。あと四人)
今度は包囲を狭めてくる。
「いい判断だ」
だが――
(反応が遅すぎるんだよ)
前に踏み込む。
「!?」
相手の包囲の内側へ。
敵の躊躇が、一瞬生まれる。
――その一瞬で十分。
最も近い一人の懐に潜り込む。
体重を乗せて、肩をぶつける。
――ドンッ!!
「ぐっ!?」
「なっ――」
敵は混乱し、連携が切れる。
一歩踏み込み、拳を鳩尾にぶつける。
――ドンッ!!
(――四人目)
後ろから近づいてくる相手に、二歩動いて回転し、そのまま裏拳。
――バキッ!!
顎に当たり、意識刈り取る。
(――五人目)
そして横から、雷系統魔導の攻撃がこちらに来る。
俺は、気絶した相手の首根っこを掴む。
そのまま引き寄せて、盾代わりに横へ。
――雷撃。
閃光が走り、肉が焼ける匂いが弾ける。
その裏で――俺は静かに、魔導を発動する。
【■■魔導】
「■■系――“心喰影”」
相手の影が、揺らぐ。
床に落ちた“影”が、意思を持ったように蠢いた。
輪郭が歪み、裂け、牙へと変わる。
――次の瞬間。
ガブリ、と。
相手の足元を、喰らいついた。
「――っ」
声にならない。
肉ではない。
神経でもない。
“中身”を、直接噛み砕く。
思考、記憶、認識。
すべてを侵食していく。
瞳から光が消え、膝から崩れ落ちる。
(――六人目)
そして、踏み込んでくる一人。
顎を狙った拳を、叩き落とす。
そのまま腕を絡め取り、肘関節に力を集中させる。
――ミシッ。
躊躇せずに折る。
「があああッ!!」
相手は悲鳴をあげる。
(七人目。あとは、あの男か)
俺は相手の身体を持ち上げるように蹴り上げ、上階にいる仮面男へと叩き込む。
――ドンッ!!
鈍い衝突音を出し、男に向かって吹き飛ぶ。
その瞬間、男が魔導を起動した。
赤い球体が生まれる。
脈動、収縮、膨張。
周囲の空間が、耐えきれずに歪む。
古代系統魔導
「星核理――“赫星波”」




