第17話 決勝戦(実況、観客、カリンたち視点)
――観客席から見れば、その戦いは、もはや”競技”ではなかった。
上空。
巨大な魔導ヴィジョンが、空いっぱいに展開されている。
透明な空に、重ねるように映し出される映像。
砂漠だったはずの戦場。
それが、一瞬で消えた。
代わりに現れたのは――
壁。
通路。
砲門。
どう見てもアウトな要塞だった。
――実況席――
実況者、フリーズ。
「……え、ちょっと待ってください、今の……何が起きました?」
解説者も固まる。
「いえ、私も……え? 砂漠、でしたよね?」
「……はい、砂漠でした。ついさっきまで確実に砂漠でした」
「ええ……はい……」
沈黙。
数秒。
そして、
「――え、要塞です」
「要塞ですね」
「……要塞です」
「……はい、要塞です」
「「……えー」」
実況、完全に語彙を失う。
――観客席――
ざわ……ざわ……ざわ……
最初は、小さなざわめき。
それが、一気に膨れ上がった。
「「「「……は!?」」」」
「いやいやいやいやいやいや!!」
「待て待て待て待て待て!!」
「砂漠どこいった!?!?」
「なんで建物建ってんの!? しかもデカい!!」
「いや規模!! 規模おかしいだろ!!」
「工事の許可取ってる!?!?」
「取ってるわけねぇだろ!!」
「ていうかあれ競技!?!?」
「違うだろ!! 戦争だろ!!」
「国家レベルだろ今の!!」
「なんで高校生がやってんの!?!?」
パニック。
完全にパニック。
その瞬間、ヴィジョンに映る。
――砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、
砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、
砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門、砲門。
「「「「「「いやあああああああああああああああああああああああ!!」」」」」」
観客席、絶叫。
「出たああああああああああああ!!」
「ダメだろそれ!! 絶対ダメだろ!!」
「数数数数数数!! 数がおかしい!!」
「何門あるんだよ!!」
「数えきれねぇよ!! 途中で人生終わるわ!!」
「撃つな!! 頼むから撃つな!!」
――ドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「「「「撃ったあああああああああああああああああああああ!!」」」」
「なんで撃つんだよ!! 止めろよ誰か!!」
「運営何してんの!?!?」
「運営も引いてる!! 見ろ!! あの顔を!!」
「顔が“あ、これヤバいやつだ”ってなってる!!」
――実況席――
「えー……現在、えー……砲撃が……」
「砲撃ですね」
「はい……砲撃です……」
「競技、でしたよね?」
「……そのはずなんですが……」
「……ルールブック、確認します?」
「お願いします」
パラパラ。
数秒後。
「……載ってませんね」
「載ってないですね」
「“要塞の展開。および一斉砲撃”についての記述」
「完全に想定外です」
「そうですね」
「……どうしましょう」
「……とりあえず実況を続けましょうか」
「……どうやって?」
「……」
――観客席――
「出口ねぇのかよ!!」
「鬼か!! 鬼なのかあいつ!!」
「いや鬼でももうちょい優しいぞ!!」
「逃げ道ゼロはやりすぎだろ!!」
「人権!! 人権どこいった!!」
――VIP席――
静か。
やけに静か。
豪華な椅子。
落ち着いた空気。
そして――モニターに映る“地獄”。
焔カリンが、うっとりとした顔で見ている。
「はぁ……」
ため息。
それは、完全に“恋する乙女”。
「やっぱり慧、最高……やることがえげつないところも含めて、全部好き……」
「……相変わらず、やるわねぇ」
「ああ」
水上那奈の呟きに、水上明は軽くうなずく。
なんで、カリンと水上たちが一緒に居るのかというと
――その理由は、過去に遡る。
まだ水上那奈と明が若く、駆け出しの魔導士だった頃の話だ。
ある任務で、二人は想像以上に手強い魔獣に捕まり、完全に詰んでしまった。
その時、救いの手を差し伸べたのが、カリンとその仲間たちだったのだ。
それ以来、水上夫婦はカリンたちとの縁を大事にしてきた。
……まぁ、そのせいで、知らぬ間に
『慧を永久監視♡愛の総本部』
――という狂気じみた、熱狂に満ちた謎グループに勝手に入れられ、
毎日グループメールで慧の行動報告が届く羽目になってしまったが。
「発想が一段上だ」
「しかもこれ――」
那奈が少し笑う。
「本気じゃないんでしょ?」
「だな」
明も頷く。
「まだ”遊んでる”」
カリンは、その言葉にすぐ反応した。
「そうなんだよ!!」
勢いよく立ち上がる。
「慧くん、本気出したらもっとすごいの!! こんなの序の口!!」
「いや今ので序の口なの怖いんだけど」
「基準どうなってるの?」
その横で、水上美乃と優斗。
完全に固まっていた。
「……え?」
「……え?」
理解停止。
脳、処理落ち。
「ねぇ姉ちゃん……」
優斗が震えた声で言う。
「あれ……人間がやること?」
「……わかんない……ていうか、慧さんがあんなに強いだなんて……」
美乃、目が死んでる。
「私、魔導の勉強してきたけど……あんなの参考書に載ってなかった……」
「俺も……」
優斗、遠い目。
「あれ載ってたら教科書燃やす」
――観客席――
ヴィジョン。
――鎖拘束。
――吊り上げ。
――砲門増殖。
「「「「増えたああああああああああああああああああああああ!!」」」」
観客席、再び絶叫。
「さっきより増えてる!!」
「どういうことだよ!!」
「バグか!? バグなのか!?!?」
「運営!! 修正!! 修正はよ!!」
――実況席――
「えー……砲門が……増えました……」
「増えましたね……」
「普通、これ以上増えます?」
「増えませんね。道徳心があれば……」
「ですよね」
「はい」
「……えー……」
完全に壊れる。
――VIP席――
「……あの子」
一拍。
「……近接戦闘が一番得意なのよね?」
「そうだな」
カリン、満面の笑みを浮かべる。
「そう!!」
何故か誇らしげに。
「慧くん、本来は前線で無双するタイプなの!!」
「なんで後ろで要塞作ってんの!?」
美乃、即座にツッコミ。
「いやほんとに!!」
優斗も乗る。
「なんでわざわざ戦場を建設現場に変えてるの!?」
カリン、キラキラした目で。
「だってそのほうが楽だから!! それに楽しいし」
「「怖すぎる!!」」
――実況席――
ヴィジョン。
――最終砲撃が行われる。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
沈黙した実況室。
「……えー……決着、つきました」
「……つきましたね」
「はい……」
「……」
「……」
「……何だったんでしょうか」
「私にも分かりません」
――観客席――
「「「「「撃つな、撃つな、撃つな!! 頼むから撃つな!!」」」」」
――ドゴォォォォォォォォォォォン!!
「「「「「いやああああああああああああああああああああああああ!!」」」」」
「いや無理無理無理無理無理!!」
「トラウマになる!!」
「これ優勝候補とかそういうレベルじゃねぇ!!」
「災害指定しろ!!」
――VIP席――
慧たちの勝利を見届けながら。
那奈が、ふっと笑う。
「でも――面白いわね」
「ああ」
明も、静かに頷く。
カリン、うっとり。
「最高……」
その横で、美乃と優斗。
完全に同時に呟いた。
「「いや、怖いって……」」
そして、観客の一人が小さく呟いた。
「……あれと戦うのか、県とか全国の人」
――可哀そうに。
その言葉は、全観客の総意だった。




