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第14話 地区大会③

「一人目」


――ドォンッッ!!


直後、地面が“爆ぜる”なんて生易しいものじゃなかった。

大地そのものが牙を剥いたように、下から食い破る。


「なっ――!?」


踏み込んだ前衛の足元。

“踏ませた”その瞬間に、仕込んでいた術式が起動する。


圧縮された爆炎と土塊が、ゼロ距離から叩き上げる。


鈍い衝撃音。


「バカな! 地面からだと!?」


「罠!?」


俺は、片手を軽く振った。

まるで、埃でも払うみたいに。


ビシィッ――!!


空気が裂ける音。

視認不能の軌道。


「っ!?」


次の瞬間、敵の脚に“何か”が絡みついた。


「な、なんだこれ!?」


「動か――ッ!?」


鋼糸。

極細で高強度、不可視の糸。


「逃げられると思うなよ」


ギリ、と締まる。


バチィンッッ!!!


炸裂する電光。


「があああああああッッ!?」


鋼糸を伝導体に変えた、通電攻撃。


”帯電網”。


拘束と同時に、全身へ電撃が流れ込む。


筋肉、神経が強制的に悲鳴を上げる。


「拘束からの通電!? 連動型か!!」


俺は小さく笑う。


(理解が早いな。いいね)


相手が、咄嗟に回り込もうとする。


「散開! ルートを変えろ!!」


いい判断だ。

それが最善の選択だと思う。


だから――読みやすい。


「甘い」


踏み出した先。

瓦礫の影。死角。


何もない“はず”の場所。


――ズンッッ!!


「なっ!?」


地面が隆起する。

通路、視界を遮断する。


「進路が――強制された!?」


「地形操作まで!?」


相手チームに、混乱が波紋のように広がる。


その瞬間、


(――今です、凛さん)


(わかってる)


念話。


そして――戦場に”雷鳴”が走る。


その電光は、空気を引き裂いた跡を残す。


「……は?」


敵の視界に映る。


それは、“もう、目の前にいる凛”だった。


速い、なんて言葉じゃ足りない。

“到達している”。


――一閃。


バチンッッ!!!


雷を纏った斬撃が、空気ごと断ち切る。


装甲が悲鳴を上げる。

遅れて、断裂。


「ぐっ――!!」


相手は吹き飛び、衝撃で地面を滑る。


「速い!! 止めろ!! あの前衛を――」


いい指示。


だが――


「止まるわけないでしょ」


凛が笑う。

その笑みは、戦場に似合いすぎていた。


――ズドンッ!!


「は!?」


別方向から、敵が吹き飛ぶ。


「よそ見すんな」


斗真の声。


風を纏った弾丸が、遮蔽物ごと貫通していた。


「スナイパーもいるのか!?」


混乱の背後。


風とともに、影が滑り込む。


――澪。


「――っ!」


関節へ、正確な一撃。


「動き、鈍いっすよ!」


(解析完了しました)


伊藤と柳先輩の声が、静かに差し込む。


(敵コア防御結界。2時方向、強度低下を確認)


(凛は前衛を押し切れ。澪、薄い側から侵入。斗真は澪を援護)


(了解)


(了解です!)


(了解っす)


迷いゼロ。


すぐ応答し、すぐ実行する。


――戦線、崩壊。


「なんだこれは……!」


「罠だらけだ!!」


「進めない! ルートが固定されてる!!」


「後衛、援護――」


「無理です! 射線が通らない!!」


(いいね)


完璧だ。


凛が斬る。

澪が削る。

斗真が撃ち抜く。

伊藤が導く。

優里先輩が支え、

柳先輩が守る。


そして――全部、”予定通り”。


「……これ、俺いるか?」


柳先輩が、ぽつりと呟く。


「いるでしょ」


優里先輩が答える。


「後ろを守る人がいないと、全部崩れますから」


「そうなんだが……俺も暴れたいなぁ」


「はぁ……ほんとにもう」


そのとき、敵後衛が大規模魔導を展開。


「相手コアを吹き飛ばす!!」


(良い判断だが――遅い)


俺は、指を鳴らした。


パチン。


静かな音。


――次の瞬間。


「え?」


足元に展開した術式。


――ドォォンッッ!!!


爆炎が、すべてを飲み込む。


静寂。


そして――


ピーッ!!


試合終了の合図が響いた。


『勝者、第二魔導学園!!』


「……」


「……」


「……」


澪が、ぽつり。


「え?」


斗真。


「早すぎね?」


伊藤。


「理論上は可能ですが……ここまでとは」


優里先輩が微笑む。


「見事ですね」


柳先輩が笑う。


「勝ったな」


そして。


凛が振り返る。


まっすぐに、俺を見る。


数秒。


「……慧」


「はい?」


「やっぱりあんた」


一拍。


「性格悪いわ」


「褒め言葉として受け取ります」


「褒めてないわ」


「じゃあ何なんですか!?」


――初戦、完全勝利。



==============



そして第二試合。


第三試合。


――そして、第四試合に勝ち上がった。


勝ち上がるたびに、”空気”が変わっていくのがはっきり分かった。


最初は「へー、強いね」くらいの軽い視線。


それが今は違う。


「何してるんだあのチーム」


「罠の展開速度おかしくないか……?」


ざわめきが、質を変えている。


驚きじゃない。


――解析。

――警戒。

――対策。


そして、その奥にある。

ほんの少しの”恐れ”。


(やめてほしいなぁ……俺、展示用の珍獣じゃないんだけど)


その視線は、俺に向けられていた。


「っはぁぁぁぁぁ……!」


澪が、盛大に息を吐いた。


ぐるぐると肩を回して、全身の力を抜く。


「三連勝! 三連勝ですよ先輩!!」


勢いよく振り返る。


満面の笑み。


「しかも全部――」


一拍溜めて。


「圧勝!!」


「まあな」


斗真が軽く笑う。


銃を肩に担いで、完全にリラックスモード。


「これも、慧の装備のおかげだな」


そういって、斗真はブレスレットと指輪を交互に見る。


「三試合目の終盤、魔導砲手に撃たれてたわよね?」


凛が斗真に聞く。


「ああ。だけど、シールドがちゃんと展開してくれたんだ」


「……さすがね」


「にしても、慧の考える作戦がここまでハマるとは思わなかったな。

全部、やりたい放題じゃん」


「やりたい放題っていうか」


俺は答える。


「相手がちゃんと動いてくれるから助かってるだけだぞ?」


「……はへ?」


澪、停止。


思考がフリーズしてるようだ。


「いや怖! どういう意味ですかそれ!?」


「だってほら」


空中に指でラインを引く。


「こう動いたらこうなるよね、っていう“負けルート”に、ちゃんと入ってくれるっていうか」


「それを”助かる”で済ませるのやめてください!!」


「だって助かるし」


「性格悪っ!!」


「合理的って言って!」


「同義語です」


伊藤が即答。


「一般的には“性格が悪い”と分類されます」


「お前までそっち側か!?」


「まぁ、やりたい放題というより」


伊藤は淡々と続ける。


「戦術が理想形で回っている状態です」


タブレットを操作する。


「撃破数トップ。被撃破ゼロ。戦術成功率――」


スクロール。


止まる。


「……9割8分。ほぼ100パーセントです」


「え、こわ」


澪が素直に引く。


「それ普通じゃないんだ……」


「普通は崩れます」


伊藤は即答する。


「読み合い、事故、対策。どこかで歪みが出る」


一拍。


「ですが、今回はそれがない」


ちらりとこっちを見る。


「はっきり言って、この人が考える作戦は




――全部、気持ち悪いです」


「いや、言い方ァ!!」


思わずツッコむ。


「もっとこう無いの? “天才的”とかさ!?」


「事実ベースで話しています」


「夢がないな、コイツ」


優里先輩が、くすっと笑った。


「でも……」


少しだけ表情が変わる。


「ここまでは、”順調すぎただけ”だよね」


その視線が、大型モニターへ向く。


「次が本番ね」


柳先輩も腕を組んで頷く。


「ああ。ここからが勝負だ」


そのタイミングで、モニターが切り替わる。


――決勝。


第二魔導学園


VS


北嶺学園



「北嶺!?」


「マジかよ……」


「優勝候補だぞ……!」


「県大会ベスト8……!」


ざわめきの“質”が変わる。


今度は、明確な“緊張”。


「え……」


澪が小さく呟く。


「そんな強いんですか?」


「かなり、です」


伊藤が即答する。


タブレットを見せる。


「防御性能が高い。連携精度も高い。正面突破はまず通りません」


「うわ、めんどくさいやつ来た」


斗真、秒速で嫌そうな顔。


「一番嫌いなんだよな、ああいう“壊れないやつ”。壊すの時間かかるし」


(発言が完全にボス攻略中のプレイヤーなんだよなぁ……)


「それに加えて――」


スッ、と画面をスワイプ。


データが切り替わる。


「ポイント戦が上手い」


「ポイント戦?」


澪が首を傾げる。


「ええ。北嶺学園は、持久戦を得意とします。

撃破数でリードを取り、その後は防御と遅延に徹し、制限時間まで逃げ切る」


「うわぁ……」


澪、顔をしかめる。


「一番やられたくないやつ……」


「“全滅狙わないで、確実に削る”やつか」


斗真が肩をすくめる。


「そうです。勝率は高いです。非常に合理的な戦術です」


一拍。


全員の頭に、同じ感想が浮かぶ。


そして――俺がぽつりと呟いた。


「……性格悪いな」


その瞬間、ぴたりと空気が止まる。


ゆっくりと。


本当にゆっくりと。


伊藤、澪、斗真、凛が――こっちを見た。


そして、完全にタイミングを合わせて、






「「「「自己紹介?」」」」



「違うわァァァァ!!!」




反射で叫んだ。


「俺はここまで陰湿じゃねぇよ!!

もっとこう……なんだ……芸術性があるだろ!!」


「どの口が」


凛、即斬。


「全部罠でルートを固定して、ハメ殺ししてたやつが何言ってんのよ」


「言い方ァ!! ”ハメ殺し”は語弊が強い!!」


「実態はそれ以上に悪質です」


伊藤、俺を追撃する。


「逃走経路の封鎖、誘導、分断、拘束、通電――」


指折りカウント。


「十分に陰湿です」


「やめろ具体例出すな!! 証拠並べるな!!」


「しかも楽しそうだったしね」


優里先輩、にこにこ。


「え、見てました??」


「口元、ずっと笑ってたよ?」


「……マジで?」


「うん、マジで」


「終わった俺のイメージ!!」


澪が、じっとこちらを見る。


「先輩……」


「なんだよ」


「自覚ないの、一番怖いです」


「やめろぉぉぉ!!」


凛が、はぁ、とため息をつく。


でも、その口元は少しだけ緩んでいる。


「まぁいいわ」


肩を回しながら、前を見る。


「どうせやることは同じでしょ」


「だな」


斗真が銃を軽く担ぐ。


「壊すだけだ」


「いや今回“壊れないやつ”って言ってたじゃん!?」


「だから壊しがいがある」


「思考が完全にボス戦なんだよ!!」


伊藤が静かに締める。


「結論としては」


一拍。


「いつも通り、”気持ち悪い戦術”で崩すしかありません」


「だから言い方ァァァ!!!」


――決勝前、空気は不思議と悪くなかった。

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