表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

第11話 厄日

部活が終わり、深夜。


シャッターを半分だけ下ろした店内は――昼とは別物だった。


照明は落とし気味。

棚に並ぶ魔導具の影が、床に長く伸びている。

この時間帯になると、()()()()()を除けば、客は誰も来ない。


なので、今この時間は”魔導の開発”に使っている。


ちなみに、まだ営業中である。


店主として、どうなんだって??


……細かいことは気にするな。


俺は机の上に広げた魔導式を見つめる。

何度も書き直した線が重なり、紙は薄黒い。


それでも、まだ足りない。


“星”を砕き、“骸”として輪にする――そんな魔導を形にするには。


深く息を吸い、両手をゆっくりと掲げる。

指先に集まる魔力が、淡い蒼光となって揺らめいた。


「星は死んでも、光を残す……その残骸を輪として操る」


魔力が形を持ち始める。

光の粒が集まり、渦を巻き、やがて輪郭を帯びる。


それは星の亡骸――。


しかし、まだ不安定だ。


輪は揺れ、砕け、消えかける。

魔力の流れを強制的に制御する。


光が、輪の中心に吸い込まれていく。


そして――キンッ。


鋭い音とともに、輪が完全な形を結んだ。

蒼白い光の輪。

中心には、砕けた星のような粒子が渦を巻いている。


「……ふぅ、新しい魔導ができた。

系統と名前は、星骸系アストラル――”星屑軌葬ホシクズキソウ”」


輪は静かに回転しながら淡い光を放つ。


「星の死を模倣し、その残骸を輪として操れる魔導だ」


淡い光がゆっくりと収束していくのを見届け、ひとつ息をつく。


「……さて」


現実へ意識を戻す。

今日の売上は、問題なし。


「そろそろ終わるか」


そう言ってカウンターから出た、そのとき。


カラン。


静寂を壊す、小さな音。


入口のベル。


「すみませんが――」


言いかけて止まる。


そこに立っていたのは――見覚えしかない少女だった。


長い金髪。

青い瞳。

整ったスーツ姿。


「こんばんは、慧」


静かな声。


その背後には、黒服の男たちが数名。


全員無言。

『その辺のチンピラじゃない』オーラをしている。


しかも全員、重そうなケース持ってる。


(え、何。ここ強制イベント会場?)


「こんばんは。こんな時間にどうしたんだ、テイラー?」


テイラー・ミステルは、わずかに微笑む。


()()トップ層の微笑みって、なんでこう『逃げ場がない感じ』なんだろうな)


「差し入れよ」


「差し入れ?」


テイラーが軽く指を振る。


それだけで――黒服たちが一斉に動いた。


(統率えぐ)


無駄ゼロの動きで、ケースがカウンターに並べられていく。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


(いや多くね?)


五つ。


六つ。


七つ。


(まだあるの!?)


「開けて」


ぱちん、ぱちん、とロックが外れて、中身が露わになる。


――輝いていた。


魔石。


魔鋼。


見たことないレベルの高純度触媒。


(あ、これ普通に“国家レベルの倉庫”にあるやつだ)


「……これは?」


「素材です」


当然のように言うな。


「あなたが魔導競技に出ると聞いたの」


「……その情報、どこから?」


「企業秘密」


「もしかして、()()()か?」


「そんなことはともかく」


(流したな)


「現状の装備では、あなたには“足りない”わ」


一歩、距離を詰める。


「なので、こちらで用意したの」


「……いや足りてますよ? あと、ただの地区大会ですからね?」


だが、


「足りてない。だから、世界トップレベルの選手が扱う素材を持って来たわ」


「いや重いわ!?」


「あなたは“もっと上”に行く人よ」


(いや、重い重い重い!)


「ていうか、素材渡すんだったら、加工した武器とか装備を渡してよ」


「うちの財閥に、あなたほどの加工技術を持った人がいるとでも?」


「いるでしょ!?」


「いないわよ。慧は謙遜しすぎよ」


「……はぁ、返せませんよ?」


「返さなくていいわ」


にこり。


完全に“逃がさない笑顔”。


「いつも()()()()を引き受けてくれるからね」


「報酬はその都度貰ってるけど?」


「いいのいいの。これは、ただの差し入れだから」


()()()、ね……」


俺はキラキラと輝く素材から、黒服のボディーガードに視線を向ける。


黒服の視線、固定。


ちょっと、そんなにジロジロみないでくれますか?


俺の寿命が縮んでしまう。


「じゃあ、地区大会頑張ってね!」


言い切って、くるりと背を向ける。


黒服も一斉に反転。


カラン。


扉が閉まる。


静寂。


「……」


カウンターに並ぶ素材を見る。


(これ、普通に小国動かせるレベルなんだけど)


少しだけ考える。


(まあ――)


「使うかどうかは、後で考えるか」


そう呟いた、その瞬間。


カラン。


「……今日は多いな」


扉の方へ、顔を向ける。


――空気が違った。


白。


視界に入った瞬間にわかる。


存在だけで空間を塗り替える圧。


首にペクトラルクロスをぶら下げた、筋肉ムキムキの神父が二人。


その間に立つ、少女。


黒い手袋。

赤と黒でデザインされた服。

白髪、丸眼鏡、赤い瞳。


そして――頭上の光輪。


(……今日はイベントが多いな)


「久しぶり慧」


「お久しぶりです、咲花えみか先輩。今日はどうしたんですか?」


一応、礼儀は守る。


守るが、


「今日は慧に、祝福を授けに来たの」


「はい、帰ってください」


即答する。


間を与えない。


「むぅ、お礼」


「いりません」


「いります」


「いらん」


「いります」


「いらん!」


「いる!」


「いらないって言ってるでしょ!? 会話してください……で、なんで祝福を?」


一歩も引かない圧。


会話が成立していないのに、なぜか押し切られている。


「地区大会に出るんでしょ?」


(情報網どうなってんだ)


「地区大会に優勝できるように、慧に祝福を与えようと思って」


「……いや、そのためだけに来たの!? 海外から!?」


「Yes!」


即答。


「いやいや、()()の祝福ってもっとこう……国の重鎮とかにさ――」


「今までのは『それっぽいご加護』。フェイクだよ」


「爆弾発言やめて!?」


さらっと暴露する。


先輩との距離が詰まる。


一歩。


また一歩。


(近い近い近い)


逃げ場はない。


背中には壁。


「だから――」


白い指先が、こちらへ伸びる。


「祝福を」


「いらな――」


触れられた。


その瞬間。


「――“天聖の御加護”」


光が爆ぜた。


「っ!?」


視界が白に塗り潰される。


押し寄せる魔力。


流れ込む、なんて優しいものじゃない。


――ねじ込まれる。


(……あ、これ無理なやつだ)


抗えない。


完全に格が違う。


数秒後。


すっと、光が収束した。


「……」


恐る恐る、自分の内側を探る。


(……は?)


常時強化。


異常耐性。


回復補助。


術式効率上昇。


魔力総量の底上げまである。


(フルバフじゃねぇか!?)


「何してるんですか!?」


思わず素で聞いた。


()()()()()()()()からの、ささやかな祝福です」


「ささやかの定義、壊れてません?!」


満面の笑み。


ああ、これは罪悪感ゼロの顔だ。


反省してねぇ……。


「これ、外せます?」


「うーん、慧ならできるかも」


「お、マジで?」


一瞬だけ希望が見える。


だが、


「でも、()が付け直すよ」


「ループ仕様やめて?!」


完全に詰みである。


深くため息を吐く。


「勝手に付与しないでください」


「嫌だ」


ブレない。


昔も今も変わらず、一ミリもブレてない。


「この後、海外で仕事があるから。店長またね!」


カラン。


軽い音と共に、嵐は去った。


残されたのは――


異常強化された自分と、現実逃避したくなる静寂。


額を押さえる。


「……今日は厄日だ」


――そのとき。


また空気が変わった、確実に。


(あ、これ三人目来る流れだ)


扉の鈴がカランと鳴るが――

鳴ったのに、扉は開いていない。


「……は?」


その時、棚の影が不自然に伸びる。

影から黒い霧がモクモク現れ、人の形をかたどる。


(はい、アウトー)


霧が晴れると、派手な装飾の長い外套が見えた。


そして異常な魔力密度。


そいつ――リッチは仰々しく腕を広げた。


「――ククク……」


低い声。


「久しいな、君主よ。我が名はクロ。深淵より蘇りし至高なる――」




「ドア使ってください」




「……雰囲気を大事にしているんだが?」


「関係ありません」


「ぬぅ……すまぬ」


「で、何の用だ」


リッチ――クロは咳払いをする。


「貴様に依頼した魔道具の件だ」


「……ああ」


カウンターの下から小箱を取り出す。


「できてますよ」


差し出す。


クロの目が輝く。


「おお……!」


両手で受け取る。


骨がカタカタと震えてる。


箱を開けると、中には紙の束が紐で結んであった。


「”記憶映しの羊皮紙”。

触れた相手の10分前の記憶を文字として記録する魔導具です」


「フッ……さすがだ」


珍しく真面目な顔。骸骨だが凄く分かる。


「やはり、君主の技術は本物だ」


(急に評価してくるじゃん)


「ていうか、何のためにこの魔道具を使うんだ? 尋問か?」


「実は最近もの忘れが酷くてな。自分に使う」


「おじいちゃんか! そもそも、リッチ(お前)に脳あるのか?」


「ふっ、我はそこらのリッチとは違うぞ?






――無いに決まってるだろ」


「ないのかよ!!」


次の瞬間。

クロは重々しいオーラを放つと共に、両手を伸ばし()()()()()()を決める。

何故か指先がキラキラ光ってる。


……ネイル?


「この恩、いずれ世界を滅ぼす時に返そう!」


「……」


俺の後ろで、冷たい風が『ヒュ~ッ』と吹いているような気がした。


クロはドヤ顔である。

骸骨だが凄く分かる。


だが――


(セリフとポーズが噛み合ってない……)


「クロ……何でそのセリフで、そのポーズを決めてるんだ?」


「これか?

コンビニ前で集っていたギャルJKに教わったのだ!!

なんでも、これは伝統的なポーズ――」


「あ、もういいです。もうお腹が満腹です」


「っむ、そうか。しかし君主。食べすぎは良くないぞ。JKは日々体重を――」


「もういいって!?」


色々気になる事はあるが、これ以上聞くと俺が疲れて倒れる。


「あと、世界を滅ぼすんじゃなくて、普通に支払ってください」


「ぬ?」


「ぬ?じゃねぇ。支払いだよ」







「……あっ。『スターベックス』でお金を全部使ってしまった」


「……」


沈黙。


ギャルピースで固まったまま、クロは視線逸らす。


「その……後払いで」


「後払いは無い。商品を置いて帰れ」


「待て待て待て!」


慌てて謎の骨ケースを取り出す。


そこから魔石。


「これでどうだ!」


「……足ります」


「本当か!?」


「ああ」


クロ、心底安心。


(なんなんだこいつ)


「では、さらばだ!」


今度はちゃんとドアを使う。


「次はもっと禍々しいやつを頼む!」


「……はぁ、検討する」


「フハハハハ!」


カラン。


静寂。


完全に静寂。


店内を見回す。


高級素材、過剰祝福、そしてリッチの訪問。


(情報量が多い……)


一言。


「厄日だ」


小さく息を吐く。


でも、口元は――少しだけ笑っていた。

面白かったら、ブックマークと評価をお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ