第10話 初戦について
柳先輩は、軽く手をかざした。
次の瞬間、空中に立体映像が展開され、瞬時に戦場を構築した。
「おお……」
思わず声が漏れた。
「今年の地区大会は十対十。ただし――」
一拍。
「うちは七人しかいないからな。今回も七対十だな!」
凄い爽やかな笑顔で、さらっと言った。
(いや、さらっと言うな!)
魔導競技は、基本十対十で行われる。
だが、この部には俺を入れても七人しかいないので三人足りない。
普通に考えて、致命的だ。
「形式はいつも通り、コア破壊優先のポイント併用」
空中のフィールド中央に、赤と青の光点。
それぞれの陣地に置かれた――魔導コア。
「制限時間は十五分。コアを壊せば即勝利だ」
指先で赤のコアを弾く。
「無理なら、撃破ポイントで決着する」
「つまり――」
伊藤が口を挟む。
「基本はコア攻め。硬ければポイント戦に移行、ですね」
「その通り。そして初戦の相手は――」
空中に文字が浮かぶ。
黒鷺学院。
空気がわずかに変わる。
「去年、地区大会ベスト5」
伊藤が答える。
「前線の圧が高いチームです。注意する魔導士が二名います」
その後を柳先輩が続ける。
「重戦士と魔槍士。どちらも突撃型だ」
「真正面から潰しに来るタイプね」
凛が呟く。
「他の第二試合、第三試合は運営が決めるため、どの学校に当たるか分からない。
そして……基本の陣形方針はこれだ」
空中に線が走る。
陣形が組み上がる。
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前線:凛、柳
後衛:優里、伊藤
遊撃:澪、斗真
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「おっ」
澪が身を乗り出した。
「遊撃だ! 好きに動いていいやつ!」
「好きに動いていいが、死ぬなよ」
「そこは気合いで!」
(気合いで済ませるな)
「凛と俺は、前線を止める」
「了解」
凛は短く答える。
「優里は後方支援」
「はい。任せてください」
優里先輩が穏やかに頷く。
「斗真は高所確保して狙撃。もしくは、召喚獣で敵に奇襲」
「来たな、主役の時間」
「狙撃外したら降格な」
「厳しくない!?」
「伊藤は索敵と魔導コアに防御結界を張って維持」
「了解です」
「そして――」
柳先輩の視線が――こちらに向く。
「慧」
「はい」
「お前は――」
一瞬、間が空いた。
「……そういえば、まだ決めてなかったな」
「いや雑!!」
思わずツッコんだ。
「今の流れでそれ!? 一番大事なとこで放置されてたんですけど!?」
斗真が吹き出す。
「ははは! 新入りの扱い雑すぎるだろ!」
「柳って、たまに抜けてるところありますよね」
優里先輩がクスクス笑う。
柳先輩は悪びれもせず肩をすくめた。
「すまない。だが今決めれば問題ない」
「いやまあ、そうですけど!?」
伊藤が口を挟む。
「それで、慧先輩の職は?」
視線が一斉に集まる。
少しだけ間を置いてから言った。
「魔導鍛冶師と――戦場設計士です」
ほんの一瞬、空気が止まる。
そして――
「……マジかぁ」
露骨にトーンが下がる斗真。
「その『期待外れ』みたいな反応やめてくれない?」
「いやだって、名前的にもっとこうドカン系かなって」
「偏見がすごいな!」
澪が口を挟む。
「なんか地味そう」
「お前はもう少し言い方考えろ!」
柳先輩が、静かに口を開いた。
「……戦場設計士か」
その目が、わずかに細くなる。
「なるほどね。……澪」
「はい?」
「戦場設計士――長いから戦術兵と呼ぼう。戦術兵の役割は?」
澪は自信満々に胸を張る。
「戦術、制御系を担当する職です!」
「その通り」
柳先輩が頷く。
「戦術兵は――戦場を作る」
「作る?」
澪が首を傾げる。
伊藤が補足する。
「罠、結界、術式補助。そして簡易兵装を設置するのが、主な役割です」
「でもそれってさ」
斗真が眉をひそめる。
「準備時間エグくね?
あと、同じ職でも個人差によっては性能、発動速度の差がデカいし」
「……だな」
柳先輩が、俺を見る。
「慧」
「はい」
「どのくらいまでできる?」
(質問がざっくりしすぎなんだよな、この人)
少し考える。
「状況次第ですけど――」
軽く指を動かす。
「簡単な要塞構築と、魔導兵器設置。
周囲に罠の展開くらいなら、戦闘中でもいけます」
沈黙。
一秒、二秒、三秒――。
「……は?」
斗真が固まる。
「要塞?」
「うん」
「その要塞って……あの要塞? 比喩じゃなくて?」
「比喩で要塞って言うか?」
「言わねぇよ!!」
体育館にツッコミが響く。
「どのくらいのサイズだよ!」
「えっと、短時間なら――」
周囲を見渡して、
「この体育館くらいかな」
完全沈黙。
空気が止まる。
「でかすぎだろ!!」
「いや、俺も今そう思った」
澪がぽつりと呟く。
「……それ、もう拠点じゅん?」
伊藤が真顔で言う。
「それを戦闘中にやるんですか?」
「まあ、はい」
「……」
凛は――ずっとこっちを見ていた。
観察するような目。
「慧」
「ん?」
「それ、どれくらいで展開できるの?」
「完全形なら三分。簡易なら一分以内に」
「……は?」
今度は凛が固まった。
「いやちょっと待って、意味わかんない。三分で要塞って何?」
「いやだから要塞だけど」
「説明になってない!」
(あ、これちょっと楽しいな)
俺がそんなことを思っている横で、澪は真剣な顔で考えていた。
いや、真剣というより――別の意味で集中している。
「3分って、カップラーメンが出来る時間じゃないですか……」
その呟きは、戦術でも訓練でもなく、完全に食欲の方向へ向かっていた。
「澪ちゃん、口から涎出てるよ」
優里先輩が、半ばあきれたように指摘する。
澪はハッとし、慌てて袖で口元を押さえた。
「えっ、あっ……ち、違います! これは、その……気のせいです!」
澪、それは気のせいで済む量ではないぞ。
「なら、慧の配置はこれだな」
そして、新しく空中に展開される。
「地区大会の陣形は――この方針でいく!」
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前線:凛、柳
中衛:慧
後衛:優里、伊藤
遊撃:澪、斗真
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