“失敗”から始まるもの
──ラストリーフ支部、応接スペース。
緊張した面持ちで座る青年が、ぎこちなく名乗った。
「……ディアル=フェルドです。あの……相談に、来ました」
ミーナはにこやかに頷き、リリアが紅茶をそっと差し出す。
ディアルは、カップを手に取りながら、ぽつりと語り始めた。
「……前の職場で、大きなミスをしました。……在庫管理のミスで、取引先に大損害を与えて……」
拳をぎゅっと握る。
「……本当は、俺だけの責任じゃなかったんです。でも──」
ディアルの声が震えた。
「上司も、同僚も、みんな……俺に押し付けました。俺が全部悪いって……」
ミーナは、胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。
(この人……責任を一人で背負わされたんだ)
「それで、俺、逃げました。……怖くなって、誰も信じられなくなって……」
ディアルは、自嘲するように笑った。
「……もう働けないって、思ってた。でも……」
小さな声で続く。
「少しだけ……時間を置いたら、また、働きたいって……思ったんです」
──だから、ここに来た。
その言葉にならない思いが、痛いほど伝わってきた。
ミーナは、ゆっくりと微笑んだ。
「逃げたって、いいんです。……また歩き出したいって思えたなら、それだけで、十分です」
横で、ハナミが「まったく、若いってのは損ね」と呟きながら、別の紅茶を淹れ直していた。
リリアが、明るく声を添える。
「もう一回、リスタートすればいいじゃん☆」
サラは無言で、そっと温かいティーカップを差し出した。
ディアルは、それを見つめながら、かすかに肩の力を抜いた。
──そして。
「どうしても自分が許せないなら、ちゃんと次で償えばいい」
ふいに、低く落ち着いた声がした。
支部長、アルフォード=グレインだった。
ディアルは、はっと顔を上げた。
「逃げた過去も、失った信頼も、すぐには戻らない。だが──現実を直視できるなら、次は変えられる」
アルフォードは、迷いなく言葉を重ねた。
「必要なのは、“やり直す覚悟”だけだ」
ディアルは、しばらく黙っていた。
そして──ぽつりと、つぶやく。
「……もう一度、信じてみたいです」
ミーナは、満面の笑顔でうなずいた。
「はい! 一緒に探しましょう。ディアルさんの、新しい場所を」
支部の空気が、ふわりと温かく満ちた。
ディアルの新しい一歩は、まだ小さなものかもしれない。
でも、それでも──確かに、踏み出された。




