“資格”があるだけじゃ
朝、ラストリーフ支部。
カウンターには、やや伏し目がちに立つ青年がいた。
「えっと、資格は……あります。けど、働いたことは、なくて……」
ミーナは資料を手に、緊張した面持ちの青年に向き合っていた。
依頼人──ルーク=ネヴァス。
二十歳を少し過ぎたばかりの、細身の若者だった。
その手には立派な資格証明書。
それなのに、声には自信がまるで感じられない。
(ルーク=ネヴァスさん。すごい資格持ってるけど……)
履歴書に記されていたのは──『土地管理士資格取得』。
土地開発や小規模な開拓地の管理を行うための専門資格だ。
取得には相応の努力が必要だったはずだ。
(すごく頑張ってきたんだろうな……でも、怖いんだ)
ミーナは、そっと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、ルークさん。まずは、お話から聞かせてくださいね」
「……はい」
「立派な資格をお持ちですね、ルークさん」
ミーナが微笑みかけると、ルークは小さく頷いた。
「はい。でも……現場で働く自信が、まだなくて……」
土地開発の現場。泥臭い交渉、天候との戦い、さまざまな人々との折衝──
机上の資格では測れない現実が、そこにはある。
「大丈夫ですよ」
そっと、隣から声をかけたのはリリアだった。
「最初は誰でも怖いっす☆ でも、動いてみないとわからないこともあるから」
ルークは、まだ不安そうな顔をしている。
──休憩スペース。
リリアとハナミも同席し、サラも無言で湯気の立つカップを差し出した。
「緊張、ほぐしていこっか☆」
リリアが軽く笑う
「……俺、失敗したら、って思うと、怖くて……」
ルークは、ぽつりぽつりと語り始めた。
親から「とにかく資格を取れ」と言われ、必死に勉強したこと。
でも、いざ働こうとすると、自信がないこと。
周りがどんどん先に進んでいくようで、焦ってしまったこと。
ミーナは、静かに耳を傾けた。
リリアも、ハナミも、黙って寄り添う。
「まあ、無理に飛び込む必要はないわよ。でも、立ち止まったままじゃ、景色は変わらないからね」
ハナミの言葉に、ミーナも小さく頷いた。
(資格は、確かに力だ。でも、働くって、それだけじゃない)
(誰かに「大丈夫だよ」って言ってもらえるだけで、踏み出せることもある)
ミーナは、そっとペンを取った。
「ルークさん。あなたが頑張ってきた証は、ちゃんとここにあります」
そう言って、ルークの資格や特技を整理した簡単なプロフィールシートを作る。
「これをベースに、いくつか“働きやすい環境”をご紹介しますね。最初から完璧にやろうとしなくていいんです。一歩一歩、慣れていけば大丈夫ですから」
ルークは、少しだけ顔を上げた。
「……本当に、いいんですか」
「はい。ここは、そういう場所ですから」
(ルークさんに、最初の一歩を踏み出してほしい)
ミーナがにっこり笑うと、ルークも小さく、笑った気がした。




