帳簿記録を超えて
整然と並んだファイル棚の間に、ミーナ=ルクトリアとベイル=ストレイの二人の影があった。
「ベイルさん、今ちょっとだけ……帳簿の整理について、相談いいですか?」
ミーナは、できるだけ丁寧な口調で切り出した。
ベイルは無表情のまま、ぴたりと動きを止める。
「現行の帳簿管理に、誤りや欠損は存在しません」
「はい、それは分かっています! 記録の正確さは、もう本当に、完璧だと思います!」
ミーナは慌てて手を振った。
「ただ……支部のみんなが使いやすいように、ちょっとだけ“検索性”を高める工夫をしたいなって」
ベイルのまぶたが、ほんのわずかに動いた。
「検索性……?」
「はい。中身には一切手を加えません!
記録そのものはそのままで、“どこに何があるか”だけ、もう少しパッと分かるように、インデックスとか、簡単なサマリーを付け加えるイメージです」
ベイルはファイルの背表紙に目を落とし、しばらく沈黙した。
「……つまり、記録の純度を損なうことなく、利便性だけを向上させると」
「はい!」
ミーナは真剣な眼差しで頷く。
「ベイルさんが作ってくれた完璧な記録を、もっと支部のみんなが活かせるようにしたいんです」
帳簿の整然とした列に囲まれながら、ミーナは続けた。
「現場って、必ずしも全部を読む時間が取れるわけじゃないから──
“必要なときに、必要な情報だけすぐ取り出せる”仕組みがあると、すごく助かると思うんです」
また、沈黙。
ベイルは静かにファイルを一冊抜き取り、手元でぱらぱらとめくった。
やがて、小さく──しかし確かに頷いた。
「……必要なら、検討します」
「ありがとうございます!」
ミーナはぱあっと顔を輝かせた。
──完璧を壊すんじゃない。
活かすために、整える。
それが、“この支部”の進み方なのだと、ミーナは改めて噛みしめた。




