ハナミの棚は、触るな(触った)
支部の一角──保管庫。
ずらりと並ぶ木製棚には、案件ファイル、報酬記録、備品管理簿、過去の資料──ありとあらゆる書類がぎっしりと詰まっていた。
ミーナ=ルクトリアは、気合いを入れて手を叩いた。
「よし、まずはこの棚の整理から始めましょう!」
エドリックが「わかりましたっ!」と元気よく返事をし、カミーユも「整理整頓、大好きですわ!」と目を輝かせる。
──しかし。
「……触るなら、覚悟なさいよ」
背後から、冷たい声が飛んできた。
振り返ると、そこにはハナミ=ルードンが、湯気の立つカップを片手に立っていた。
「ここの分類はね、表に書いてないだけで、全部私の頭の中にあるの。棚の並びも、クリップの色も、ラベルの貼り方も、意味があるのよ」
ミーナたちは、思わず顔を見合わせる。
「そ、そうなんですね……!」
ハナミはため息をついた。
「合理化? 効率化? 好きにすればいいわ。でも、一度手を出したなら、最後まで責任持ちなさい」
静かな──しかしものすごく重い圧を背中に感じながら、ミーナはそっと手袋をはめた。
「が、がんばります……!」
――作業開始から十数分後。
「これ……何の基準で並んでるんでしょう……?」
エドリックが、項目が微妙に違うファイルたちを前に頭を抱える。
「……色別? いや、発行年? 違う、更新頻度?」
カミーユも困惑気味にファイルをめくる。
(ハナミさん、すごすぎますわ……これはもはや、芸術ですわね……)
ミーナは一歩進み出た。
「ハナミさん……この棚って、例えば、重要度順に並んでいるんでしょうか?」
ハナミがちらりとこちらを見た。
「重要度、更新頻度、支払いサイクル──全部加味して、最適配置してるのよ。未収管理もしやすいようにね。」
ミーナはぱっと顔を輝かせた。
「やっぱり……すごいです! どれも、ちゃんと理由があったんですね!」
心からの感嘆だった。
そして、ミーナは続けた。
「もしよろしければ、その整理の意図を引き継ぎながら、インデックスを付けて、誰でもすぐ探せるようにしたいんです。ハナミさんのやり方を、もっと支部全体に活かせるように!」
──ハナミは一瞬だけ、目を細めた。
「……まあ、悪くないわね」
その一言に、ミーナたちは思わず顔を見合わせて、ホッと息をついた。
こうして、伝統と進化を両立させる小さな一歩が、静かに踏み出されたのだった。




