今だから、言えること
ギルド・ラストリーフ支部、夕刻の談話スペース。
ミーナ=ルクトリアは、湯気の立つカップを両手で包みながら、静かに呟いた。
「……支部長も、大変でしたよね」
向かいに座るアルフォード=グレインが、わずかに眉を動かす。
「……なぜ、そう思う?」
ミーナは微笑み、カップを置いた。
「支部に来た頃、支部長、すごく……孤独そうだったから」
アルフォードは、しばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……正直に言おう。俺は、地方支部を甘く見ていた」
ミーナは、驚いた顔をした。
アルフォードは、ゆっくりと言葉を続ける。
「本部経理、監査──数字だけを見て、成果だけを求めてきた。努力すれば、結果はついてくると信じていた」
「……」
「だから、地方支部も、数字で最適化できると思っていた。現場の温度も、空気も、何も見ようとしなかった」
アルフォードは静かに、ミーナを見た。
「……だが、ここに来て気づいた。現場があるからこそ、本部の仕事も成り立っている。数字だけじゃ、支えられないものがあると」
ミーナは、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
(……支部長)
ミーナは、少しだけ目を伏せた。
「……私も、気づかされたんです」
アルフォードが静かに頷く。
ミーナは言葉を選びながら、ゆっくり続けた。
「今まで、たぶん、ゴルザンさんが裏で守ってくれてたんです。私、依頼人さんたちの“いいところ”しか見てなかった。信じることが、いつも正しいって、思い込んでたんです」
「……」
「でも、今日……思い知りました。みんなが善人とは限らない。信じるだけじゃ、守れないものもあるんだって」
「だから──数字も記録も、ちゃんと意味がある。感情だけじゃ、ダメなんだって……やっと、わかりました」
アルフォードは、ふっと微笑み、そっと目を細めた。
「……俺もだよ」
ミーナも、照れたように微笑み返す。
ぎこちないけれど、確かな敬意が、そこにはあった。
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ──頼りにしている、ミーナ」
カップの中の紅茶が、湯気を上げていた。
ギルド・ラストリーフ支部。
ようやく、その中心に──本当の意味で、温かな灯が灯った瞬間だった。




