“数字”では測れないもの(後編)
ギルド・ラストリーフ支部、夕刻のカウンター奥。
依頼人リース=バルドが去ったあと、支部内は一時的に静寂に包まれていた。
ミーナ=ルクトリアは、そっと胸に手を当てた。
(……ちゃんと、守れたんだ)
無闇に依頼を受けることが、誰かを救うとは限らない。
ときには、毅然と線を引くことも──守るために、必要なのだ。
そんな当たり前のことを、ようやく自分の中で受け止められた気がした。
ふと、視線を上げると、アルフォード=グレインが静かにこちらを見ていた。
「……迷いましたか」
穏やかな声だった。
ミーナは、わずかに苦笑する。
「はい。やっぱり、疑うって……難しいです」
アルフォードは、小さく頷いた。
「あなたのその感覚は、間違っていません」
「え?」
「信用は、慎重であるべきです。しかし、最初から信じないのも、また間違いだ」
アルフォードは机上の書類を整えながら、淡々と続けた。
「だからこそ、記録が必要なのです。……過去の積み重ねを、客観的に示すために」
その言葉に、ミーナの胸の奥がふわりと温かくなった。
「……ありがとうございます」
アルフォードは目を細め、ほんの僅かに、笑ったように見えた。
「俺も、昔は『数字さえあればいい』と思っていた。だが、今は少し違う」
「違う、って……?」
「数字は、支えるためにある。人を裁くためでも、切り捨てるためでもない」
──それは、かつての彼にはなかった発想だった。
そして、それを教えてくれたのは、目の前の小柄な副支部長──ミーナだった。
ミーナは、胸の奥で小さく拳を握った。
(ちゃんと、届いてる)
かつてはぶつかるばかりだった支部長と、今はこうして言葉を交わせている。
まだ、不器用で、ぎこちなくて。
でも──
(これが、歩み寄るってことなんだ)
窓の外では、夕焼けがギルドの外壁を赤く染めていた。
支部には、確かに、新しい季節の風が吹き始めている。




