一緒に見る景色(後編)
カウンター奥、臨時作業スペース。
「ただいまー! 間に合ったぜっ!」
軽やかな声とともに、チット=スパンが伝書ポーチを掲げて戻ってきた。
ミーナ=ルクトリアは、ほっと息をつきながらチットに微笑んだ。
「ありがとうございます、チットさん!」
チットは軽く指を立てて敬礼し、そのまま資料を渡す。
「仮住まい候補、三件ピックアップできたよ。場所も支部から徒歩圏内!」
ミーナはすぐに内容を確認し、タリス=グレンに資料を見せた。
「こちら、支部近隣の仮住まい情報です。条件に合いそうなものをいくつかご用意できました」
タリスは目を丸くし、震える手で資料を受け取った。
「こんなに早く……ありがとうございます」
「急ぎでしたから。チットさんのおかげです」
タリスは資料に目を通しながら、ふと迷ったように顔を上げた。
「……どこも、いい条件ですね。でも……なんか、選ぶのが怖いというか」
ミーナは静かに頷き、言葉を探した。
「急な環境の変化は、不安になりますよね」
そっと資料をタリスと並べて眺めながら、ミーナは続ける。
「でも……選ぶって、未来に踏み出すってことです。焦らず、いま“少しでも安心できる場所”を選んでみませんか?」
タリスはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……そうですね。じゃあ、この宿にしてみます」
彼が指差したのは、支部から徒歩十分、冒険者向けの設備も整った仮住まいだった。
「いい選択だと思います」
ミーナはにっこりと笑い、チットと目を合わせる。
チットも親指を立てて応えた。
──支部長室の奥、窓辺に立つアルフォード=グレインは、その一部始終を静かに見ていた。
(……こうやって、立ち直るのか)
焦り、不安を抱えた者が、誰かの言葉と支えで、未来に踏み出していく。
数字では測れない、けれど確かに存在する“立ち直りの瞬間”。
それが、ここにはある。
(……)
アルフォードは静かに目を閉じ、一つ、深く息を吐いた。
(俺は──まだ、何も知らなかった)
胸の奥に、じんわりと温かなものが広がるのを感じながら。




